寝そべりは正義だ
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、ブロガーのすい喬です。
最近よく聞く言葉に「寝そべり族」というのがあります。
ご存知ですか。
もう働くのをやめたという若者の反乱が目につくようになってきました。
中国での話です。
食事は1日に2回でいいし、食べる分だけ働けばいい。
結婚もしない。
家もいらない。
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車もいらない。
子供なんてとんでもない。
第1にものを買わないのです。
それでなくても人生は短いし、苦しいものです。
いくら焦ってみても少しも上にのぼれません。
世の中、ガラスの天井ばかりです。
すぐそこに見えていても、簡単には這い上がっていけないのです。
いくら努力したところで、親の世代のようにはなれない。
むしろ寄生して生きていった方が楽だという考え方です。
そんなに無理して頑張りたくはないよという若者たちを総称して「寝そべり族」と呼んでいるのです。
あくせくするより精神的にゆとりのある生活がしたいという気持ちもわかりますね。
寝そべりはまさに賢者の生き方そのものだと主張しています。
ネットでも今やトレンドワードそのものです。
この言葉は90年代以降生まれの若者世代に1つの道を示したのかもしれません。
競争社会の激しさ
かつて中国東北部の高校へ視察に行ったことがあります。
満州と呼ばれたところです。
優秀な生徒ばかりが在籍している学校でした。
クラブ活動はありません。
体育の授業もなかったです。
ひたすら座学の授業です。
生徒は遠くからも通ってきていました。
寄宿舎もみせてもらいました。
2段ベッドがズラリと並んでいます。
7~8時限目の授業が終わったら、図書館で自習です。
夜、寝るまで続きます。
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ぼくも日本語の授業をさせてもらいました。
指名すると、すぐに立ち上がって自分の思ったことを答えようとします。
すごい熱量です。
外国語高校へも行きました。
日本語が流暢なのに驚きました。
寝ている生徒はいません。
寝たら負けてしまうのです。
ほとんどが一人っ子でした。
優秀な成績を取り、大学に入って就職をする。
できるだけ安定した生活を送り、親の面倒をみる。
彼らには強い目的がありました。
だから耐えられたのだと思います。
見ているだけで息が苦しくなりましたね。
それでもひたすら頑張らなくてはならないのです。
しかしそこまでやってももっとすごい人、バックグラウンドがある人、自分よりももっと努力した人たちがたくさん中国には存在しているのです。
この現実はシビアです。
韓国も同じ
韓国も事情は同じようです。
今年の4月に出版されたチョ・ナムジュの『ミカンの味』を読みました。
受験生の若者たちの息苦しい日常が描かれています。
ベストセラーだそうです。
今の若い人たちはもうソウル市内にマンションが買えないと言われています。
ものすごい値上がり率だそうです。
自分のスペックを少しでも上げないと、大企業に就職できません。
英語、IT、留学、インターン。
なんでも可能なものは全て取り込まなくてはいけません。
少しでも高く売れるものを身につけるのです。
息がつまりそうです。
苦しい現実が広がっています。
世間一般で言われる努力をするだけではもう届かないのです。
中国に話を戻しましょう。
他人からどう思われようと気にならないという人が増えつつあります。
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以前より、中国も開放的になりました。
他人より抜きんでる必要もないし、世間的な成功を追い求める必要もなくなったのです。
大企業で面接の機会を得ることさえ、難しいのが現状です。
2021年、大学を卒業した人の数は909万人でした。
去年より35万人増え、過去最高を更新したとのこと。
どうやって就職活動をすればいいのか。
考えただけで気が遠くなりそうです。
だったら寝そべって暮らそうよという考えが出てきても不思議ではありませんね。
親の家にパラサイトをすれば、苦しさからはかなり抜け出られます。
給料は少なくてもいい。
身体を壊すより、どれほど楽か。
競争ばかりをし続ける人生はもうたくさんだというワケです。
わかりやすくいえば、上昇するためのスペースが社会にあまりないのです。
これからの中国はどんどん高齢化が進みます。
一人っ子政策がいきわたり、少子化が深く社会に浸透していきます。
生産者人口が急激に減り、富の分配も不可能になっています。
中国人はモノを手に入れ、豊かになりたいという図式でここまでやってきました。
しかし次第に若者たちの価値観は違う方向に進みつつあるのです。
中国経済の黄昏
やがてこの流れは国家の芯を食いつぶしていくでしょうね。
権力者たちには焦りがあると思います。
日本の高度経済成長が終わった頃を思い出してください。
バブル崩壊後、引きこもりの若者たちが激増しました。
あわせて人口減少、超高齢化の波です。
学びたくないという若者たちも増えました。
向上心や欲望を失った「低欲望社会」が形成され始めたのです。
日本でも勉強しない若者たちが増えているような気がします。
試験前に少しだけやってお茶を濁す。
もちろん現在でも成績が気になり、評価の上がるのが楽しみだという生徒もいます。
かつては学歴が階層を上昇させる大きな要因でした。
もちろん今でも全くないわけではありません。
しかしそれ以上に企業はよりコミュニケーション能力に力点を置き始めています。
あるいは大企業に入ったとしてもリストラの危機があります。
みんな大人になれば大変だということをよく知っています。
だからいつまでも子供のままでいたい。
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誰も大人になんかなりたくはないのです。
むしろ今の時間をうまく使い、いい人間関係を構築しながら、楽しく学校生活が送れればそれで十分なのです。
こうしてみていると、高度経済成長の時代とは明らかに行動様式が違っています。
かつては少し無理して頑張れば、豊かな暮らしが手に入りました。
どのような家庭環境からでも学歴を身につけることで、階層上昇の手段とすることができたのです。
格差社会の中とはいえ、若者たちはそれなりの幸福感に包まれているといいます。
どちらかといえば、保守的な若者が増えているのです。
難しいことは考えなくていい。
難しいことは一握りの人に任せておけばいい。
それより今を楽しみたいとする体質が若者のどこかに巣くっています。
むしろそのことの方が、長期的に見た場合、一番怖ろしいことのように思えてなりませんけれどね。
中国の寝そべり族の話や、韓国の息苦しいまでの若者の生きざまを見ていると、伸びる余地が少なくなりつつある世界の今を強く感じます。
今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。