マクラは落語家の横顔を映し出す怖い鏡だという仮説

落語

マクラの意味

みなさん、こんにちは。

アマチュア落語家、すい喬です。

今日は落語のマクラについて書きますね。

なんでマクラっていうのか。

本当のとこはよく知りません。

一説には枕詞から来ているなどという人もいますが、どうですかね。

古典の『枕草紙』は枕元に置いておいたノートブックという意味だそうです。

案外、落語も話の最初のところ、つまり頭の部分にあるからマクラというのかもしれません。

とにかくマクラはマクラ。

いいネーミングを先人はつけてくれました。

うっとりしちゃいますね。

高座に上がってみるとわかりますが、まくらをどう語るかというのは大変に難しいです。

その日の演題にすんなり入っていくための道具という見方もできますし、お客様の心をつかむ踊り場ともいえます。

kbt1016 / Pixabay

あまり退屈でつまらないと、逆効果になってしまうことも往々にしてあるようです。

その反対にここばかりが面白くて、本題に入ると死んだようだという噺でも困りものです。

理想を言わせてもらうなら、その噺家の人となりがそれとなく滲んでいて、かつ本筋の邪魔にならないというあたりが一番いいんじゃないでしょうか。

マクラの本はいろんなのが出てます。

六代目圓生師匠の本『噺のまくら』なんか読んでると、つい目の前で師匠が喋ってくれているような気がします。

ケチの噺をする時は「六日知らず」なんていうのが一番かな。
ご存知ですか。

どういうわけかというと、日を勘定する時に指を折って一日、二日、三日と数えていきますが、六日目には握った指をまた開かなくちゃいけません。

いったん拳骨になったら、絶対開かないというので、これを六日知らずというんです。

そのくらいけちん坊とわけです。

などというマクラをちょこっとやってから、主人公のケチ、赤螺屋(あかにしや)けち兵衛さんが登場する「片棒」に入ります。

あるいは祭り自慢の噺をする時は四神剣のマクラをふります。

東を青龍、西を白虎、北が玄武で南が朱雀などというと、もう気分は江戸の町。

御輿をかつぐ声も聞こえてきます

Keiji_M / Pixabay

こういうのはマクラというより、もう決まり文句といった方がいいのかもしれません。

これは「百川」(ももかわ)という落語の時に必ず喋ります。

ぼくも百川はやりますが、四神剣の噺をし始めると、なんだか妙に嬉しくなってきます。

マクラには噺の導入に必ず必要なのもあるんですね。

あるいは昔はいかに駕籠かきが怖れられたかなどという噺をしてから、「抜け雀」をやります。

これをしないと、最後のオチがわからなくなるからです。

こういうのを定番というんでしょう。

小三治のまくら

マクラといえば、柳家小三治です。

この落語家のは普通にマクラというような短いもんじゃありません。

長いのは30分、なかには1時間なんてのもあります。

もう講演会です。

あんまり面白いので、それだけを録音したCDや本も出版されてます。

最初1冊だけ『ま・く・ら』を出したら、あんまりよく売れるので、続編も出しました。

いずれもぼくの愛読書です。

何が面白いのか。

この偏屈な落語家の横顔がこれでもかと活写されているからです。

偏屈なは言い過ぎかな。

悪口じゃありません。

親愛の情をこめて書いてます。

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ぼくが本格的に落語をやろうと思ったのは、小三治の「死神」がきっかけでした。

この噺なら覚える価値があると思ったのです。

なんていうとまた生意気ですね。

お許しください。

とにかく小三治という人は厄介な人です。

面倒臭い。

ちなみに今は人間国宝です。

今、落語家ではたった一人。

能、歌舞伎、狂言の世界にはあんなにたくさんいるのに。

ちょっと不満です。

まあ、いいっか。

ところがこの師匠はある種の人間の前に出ると、急に己の幅が小さくなります。
気が弱いというのでもない。

十分に頑固です。

そうではなくて、突然威張りたくなくなるのかな。

戦う意志を持たなくなるのです。

駐車場物語

その代表がこの「駐車場物語」です。

本を買って読んでください。

これを高座でやったんだから、お客さんはまいったでしょ。

自分が乗っているオートバイの一区画。

その駐車場のほんのわずかの空きスペースに住みついたホームレスの男の人の話です。

わずかな隙間に細長い座布団を敷いて寝てるんです。

本当なら自分が借りてるスペースですから、どけとでもいえばなんとかなるんでしょうけど、なかなか言えない。

なんとなく許しちゃいます。

それからどうなったか。

ずっと寝てる。

paulbr75 / Pixabay

4日目になって不安ですから、大丈夫かと声をかけます。

すると男は「腹がかたくて歩けない」というのです。

つい医者をよんでやろうかと言ってしまいます。

それが運のツキ。

許されたと思った男は、あちこちにあったらしい家財道具をみんなその駐車場に並べ始めました。

亀の子だわし、クレンザー、石鹸、歯ブラシ。

駐車場の水道を使って洗濯をして、そこいらにヒラヒラとなびかせながら干します。

ビールなんか昼間から飲んでる姿を見ながら、小三治は寄席に出かけるのです。

たまにはスイカなんかも食べてる。

あっちの方がいいなあとつい見つめちゃうんです。

夜帰ってきてライトで照らすと、ぱっとその場に正座して、頭を下げる。

まるで俳人の山頭火。

数ヶ月後、どうにもならなくなって大家さんに話したら、やっと秋になって引っ越したという話です。

これどうですか。

CDになってます。

30分じゃ終わらない。

とにかく面白い。

この後、なんの落語をやればいいのか。

迷いますね。

これってホームレスの話じゃない。

実は本名、郡山剛蔵という小三治という男の横顔そのものです。

完全に自分を晒しきっている。

これがマクラの醍醐味じゃないのかな。

そんな気がします。

自分のないマクラはつまんない。

この他に「玉子かけ御飯」「めりけん留学奮戦記」なんてのがあります。

いずれも面白い。

笑子の墓

彼の『落語論』にこんな話も載っています

沼津労音の独演会にでかけた折、時間があったので、ボーリングをしました。

するとそこにあらわれたのが、梅の家の笑子姐さんだったのです。

「どうか、ちゃんと落語をやってください。お願いです。テレビに出て、ガチャガチャやってほしくないんです」

昼のテレビに出て、人気も出かかっていた小三治は驚きます。

年齢は17、8才に見えました。

特に落語通という風でもありません。

彼女は自分を芸者なんですと自己紹介しました。

この言葉は彼の一番痛いところを貫きました

その晩、会場へ入ると大きな新茶の缶が楽屋に届いていて、伺えなくて残念ですと伝言があり
ました。

のし紙に笑子とあったのです

sasint / Pixabay

その後、半年して小三治は真打ちになりました。

落語以外の仕事をする時は、必ず彼女の言葉が胸にささったのです。

何度、住所を探して連絡をしても返事はありません。

3度目の沼津独演会があったのは、それから15年ほど後のことです。

たまたまその話を高座でしたら、主催者の一人がその人をよく知っていると教えてくれました。

10年近く前に亡くなったとのことです。

それも風呂場で突然に。

何が原因かわからなかったそうです。

梅の家に行ってお墓の場所を聞き、お花を供えたいと考えてはみたものの、どこかに照れもあって結局果たせませんでした。

「鰻の幇間」をやるたびに、小三治はいつもこの姐さんのことを思い出すそうです。

その後日談が「笑子の墓」というタイトルで、彼の『もひとつま・く・ら』に載っています。

それまで鬱々としていた彼の日常を、笑子さんに見抜かれた時の忠告がどれほどうれしかったか。

再会を果たせないままの別れでした。

この話もぼくは好きです。

ここにはまぎれもなく小三治がいます

落語のこと以外は考えられない一本気な師匠がいます。

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だからぼくは彼のマクラが好きなんです。

最近の落語家にここまでの気概をもった人がいるのかどうか。

話せないとしたら、それはお客の側の責任かもしれません。

もう少し考えてみます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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