【艶笑落語・疝気の虫】鉄板の爆笑ナンセンス噺で気分は明るく爽快に

落語

艶笑噺の名作

みなさん、こんにちは。

アマチュア落語家でブロガーのすい喬です。

今日は艶笑噺の中でも大傑作の誉れ高い「疝気の虫」を扱います。

落語の中のジャンルに艶笑噺というのがあります。

読んで字のごとく、ついニヤッと笑ってしまう噺のことです。

俗に「バレ」とか「バレ噺」と呼びます。

通常は寄席ではやりません。

Photo by tablexxnx

お客様の筋をきちんと見極めないと、いけないとされています。

主としてお座敷で特別な場合に演じられることが多いようです。

手元にある『定本艶笑落語』(立風書房・1992年)という本には97話が収録されています。

最も有名なものだけで24話。

その中にはぼくも高座にかけるものがありました。

「蛙茶番」「紙入れ」「錦の袈裟」がそれです。

いずれも楽しい噺なので、皆さん大変に喜んでくれます。

名人古今亭志ん生は雨の降った寒い晩の寄席などにも、たまに艶笑噺をかけたようです。

わたしにまかせてくださいなどといいながら、志ん生ワールドに引き込んでいったのです。

亡くなった立川談志や最近では春風亭小朝なども「疝気の虫」を高座で演じています。

ぼくが1番好きなのはなんといっても柳家権太楼師匠のものです。

稽古も随分しました。

しかしまだお客様の前で演じたことはありません。

いつかそんな時もあるかなという隠し玉のようなネタです。

権太楼師の疝気の虫はとにかく可愛いのです。

愛嬌があって、つい勘弁してあげたくなるような風情になります。

疝気とは

疝気(せんき)という病気について今の人は殆ど知らないと思います。

癪(しゃく)といい勝負でしょうか。

漢方でいう腰腹部の疼痛の総称です。

特に大腸や下腹部の病気で、発作的に劇痛を発して苦しみます。

現代の病名でいえば、尿道炎、膀胱炎、腎臓結石、胆石などの総称です。

つまり男性の病なのです。

それで落語の題材になったものと思われます。

この噺のまくらは決まっています。

「疝気は男の苦しむところ、悋気(りんき)は女の慎むところ」というのです。

ちなみに悋気とは嫉妬のことを言います。

もちろん、疝気という病気が虫によって引き起こされるワケはありません。

しかしそこが落語です。

いかにも疝気の虫というのが存在しそうな雰囲気を作ってしまうのです。

その愛嬌のある様子が、後半の噺の楽しさに繋がるということになります。

あらすじ

ある医者が書見をしているとつい眠気がやってきて、うとうとしてしまいます。

夢の中に変な虫が出てくるので潰そうとするのです。

虫は命乞いをして勘弁して下さい、助けてくださいといいます。

おまえは何者だと訊くと自分は疝気の虫だといい、人のお腹の中で暴れ、筋を引っ張って苦しめるのを職業にしていると説明するのです。

痛い筋というのが人間にはあって、吊るような痛みはチントトトン、チントトトンと引っ張るらしいのです。

刺すような痛みはパッパッパのせいだと説明します。

蕎麦が大好物で食べると威勢よくなって大暴れするらしいのです。

反対に嫌いなものは唐辛子で、それに触れると体が腐って死んでしまうので、唐辛子を見ると通称別荘、男性の股間にある袋に逃げ込むといいます。

夢から醒めた医者は、これは治療に役立つかも知れないと思い、疝気で苦しんでいる男性の家に往診に出かけます。

奥さんに蕎麦と唐辛子を用意させ、それを食べてもらいます。

匂いだけを亭主に何度もかがせるのです。

亭主のお腹の中にいた疝気の虫は大好物の蕎麦の匂いがするので、上がって来て亭主の口から、奥さんの口に飛び移ります。

今度は彼女のお腹ので中で大暴れするのです。

この時の様子が楽しいですね。

虫たちが蕎麦を食べながらチントトトンのパッパッパと踊って筋を引っ張るのです。

今度は奥さんの方が苦しみ出して七転八倒する始末。

疝気の虫が出て行った後、男性はケロッとした表情で喜んでいます。

医者は用意しておいた唐辛子をここぞとばかり奥さんに飲ませるのです。

天敵が突然襲ってきたので、疝気の虫は急いでいつもの避難場所に逃げ込もうとします

一目散にお腹を下って別荘に隠れようとしますが、さて別荘はいずこに…。

急所の袋ははるか遠方だったというワケです。

どうでしょう。

このばかばかしさ。

志ん生は別荘、別荘と呟きながらフラフラと立ち上がっていつも楽屋へ引き上げました。

お客さんはまさに抱腹絶倒でしたね。

権太楼師は全く違う下げを使っています。

この「疝気の虫」のオチは実によく出来ています。

考えオチに分類されるんでしょうね。

ナンセンスを真面目に

この噺は全く現実味のないものの代表です。

どこまでもナンセンスな落語こそ、真面目にやらなくてはいけません。

必死になって綱引きと同じようにチントトトンのパッパッパと汗をかきながら演じなくてはいけないのです。

噺家が必死になってやればやるほど、疝気の虫の愛嬌が増幅されます。

同時におそばを食べる時の仕草も大切です。

時そばなどの稽古をきちんとしておけば、ここで苦労をすることはありません。

ただし権太楼師のように「おそばはあたしで匂いはあなた」と奥さんが囁きながらおいそうに食べるシーンは大切です。

ここで夫婦の愛情を示すのです。

いかにも旦那様の病状が心配だというけなげな女性を演じるのです。

それが回り回って、自分の災難になるというところが実に愉快なのです。

元々はありもしない噺です。

だからこそ、真剣にやることの大切さがクローズアップされるのでしょう。

とはいえ、バカ真面目にやってはいけません。

ここが1番難しいところです。

自分は今本当にナンセンスな落語をして楽しんでいるのですという心のゆとりをお客に感じさせないとつまらないのです。

落語はつねにそうした「離見の見」に支えられています。

その心の落ち着きがないと、ただの間抜けな演者になってしまうのです。

このあたりが落語の本質に最も近いものなのではないでしょうか。

艶笑噺にはその他にも楽しいものがたくさんあります。

本で読むだけでもいいのですが、やはり録音したものが最高でしょう。

チャンスがあったら是非聞いてみてください。

若いうちはやらない方がいいと思います。

ある程度枯れてきた頃にポツリと試すというのが常道でしょうか。

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戦時中、はなし塚に奉納されたという艶笑噺の記録については過去に書いた記事があります。

リンクしておきましょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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