【夏目漱石・門】何度読んでも寂しくなるリトマス試験紙のような小説

夏目漱石の小説『門』は3部作の最後を飾る作品です。神経衰弱になって鎌倉の円覚寺を訪れた時の様子をうまく描写しています。登場人物と漱石自身が重なって見えるように書いたのかもしれません。全体に静かで寂しく趣きが深いです。

【沢木耕太郎・深夜特急】身体の中が熱くなるホンモノの旅本はこれ

沢木耕太郎は人気のある作家です。その彼が若い時に旅をした記録が『深夜特急』です。バスで香港から旅を続けます。最も安い宿に泊まり、彼らと同じものを食べ、同じものを着て、生活を体感します。そこから見えてきたものとは何か。

【桃花源記・陶淵明】ユートピアは桃の花咲く密かな山奥にあった

陶淵明作『桃花源記』は大変美しい作品です。不思議な味わいに満ちています。桃の林の中を突き抜けていくと、そこには全く見たことのない光景が繰り広げられていました。まさにユートピアそのものだったのです。作者は何を言おうとしたのでしょうか。

【手の変幻・清岡卓行】ミロのヴィーナスの両腕に秘められた永遠の謎

ミロのヴィーナスには両腕がありません。詩人清岡卓行はこの事実を重く受けとめました。なくて良かったというのです。私たちに想像力を十分発揮する場をくれたということです。健康でいられるためにも彼女は腕を失っていなければならなかったというのです。

【丸山眞男・であることとすること】権利の上に眠ってはダメという書

権利の上に眠っていると、知らないうちに剥奪されてしまう可能性がある。なんと怖ろしいことでしょうか。のんびりとアームチェアに座ってお茶を飲んでいると、あらゆる権利が消えていくのです。それが嫌なら行動を起こす以外に手はありません。する論理です。

【大鏡・藤原道長】若き日から肝試しで豪胆な大物ぶりを発揮した男

藤原道長の横顔がくっきりと描写された歴史物語は他にはありません。特にこの「肝試し」の段は豪胆な大物ぶりを示しています。2人の兄よりも威勢がよく、いざとなると、その本性が外に出てくる人でした。御堂関白記の記述との違いにも着目して下さい。

【夏目漱石・夢十夜】運慶は木の中から仁王の魂を掘り出す鬼になった

夏目漱石の小説『夢十夜』は大変読み解くのが難しいです。しかしストレートにその内容に入っていくと、案外彼の世界に近しいものを感じます。オフィーリアをイメージしたと言われる女性の姿。鎌倉時代の彫刻家運慶。それぞれの生きざまを読み取ってください。

【世阿弥・風姿花伝】芸能に携わる者にとって魂の書といえばこの1冊

世阿弥が書いた『風姿花伝』は芸能に携わる者にとってはバイブルのような本です。ありとあらゆる心構えが書いてあるのです。最も有名なのは「秘すれば花」という言葉です。「まことの花」を探し求めて日々稽古に励むのです。それだけが心を支えます。

【萩原朔太郎・竹】青空を突き抜ける竹の根が神経にみえた詩人の薄幸

日本人は竹が好きです。独特の感性でその美しさを描写しました。ところが詩人萩原朔太郎にそれが神経そのものに見えたのです。感性の鋭さというしかありません。前橋の公園を訪れた時の文章をあわせて掲載させてもらいました。お読みください。

【山崎正和・水の東西】なぜ日本人は噴水を好まないのか【自然観】

山崎正和の「水の東西」は比較文化論の評論としても秀逸です。なぜ日本人は噴水を好まないのか。その理由を日本人の自然観の中に探します。まさに好きではなかったのですね。自然に逆らってまで、地上高く水を噴き上げることには大変な抵抗がありました。

【方丈記・無常観】人間の真実を描写した鴨長明の名著は永遠に残る

日本を代表する鴨長明の随筆『方丈記』。そこには無常観という日本人にしっくりと馴染む哲学があります。「行く川の流れ」に代表される名文は和漢混交文と呼ばれています。コロナ禍で廃業していく店舗をみるにつけ、長明の言葉が重く感じられてなりません。

【川端康成・雪国・山の音】息苦しいまでに孤独で繊細な感受性の人

川端康成の小説はあまりにも繊細で現代の人にはなかなか受け入れられにくくなっています。しかし自らの生をじっと見つめるまなざしには実に豊かな命が宿っています。ここでは『雪国』、『山の音』、『伊豆の踊り子』を取り上げてみました。

【さびしい王様・北杜夫】面白くてやがて哀しい大人のための童話

北杜夫の童話『さびしい王様』は1つの寓話です。権力を握った者の内面に深く入り込んだ傑作だと言えるでしょう。子供が読んでも面白いですが、むしろ大人のための童話です。自分を振り返るための鏡として利用することができる名作なのです。

【徒然草・折節の移り変わるこそ】変化を捉える兼好法師の目の確かさ

徒然草の中でも有名な章段が「折節の移り変わるこそ」です。自然の微妙な変化をきちんととらえる兼好法師の目は実に確かです。日本人の感性の基本をこの章段が作り上げたと言っても過言ではありません。十分に鑑賞し、声に出して読んでみて下さい。

【中原中也・汚れちまった悲しみに】倦怠感と絶妙な言葉のリズム

中原中也は女性に大変人気のある詩人です。なかでも「1つのメルヘン」と「汚れちまった悲しみに」はとてもファンが多いのです。柔らかな言葉が詩人の苦悩に包まれて優しく耳に響きます。言語感覚のすぐれた詩人の代表といえるのではないでしょうか。

【宮沢賢治・永訣の朝】妹トシの死の光景【おらおらでしとりえぐも】

宮沢賢治は誰もが知っている童話作家であり詩人でもあります。また農学校の教員でもありました。その世界は独特の優しさに満ちています。妹が亡くなる時の様子を描いた「永訣の朝」は忘れられない詩です。1度全文を読んでみて下さい。