【筒井筒・伊勢物語】女性のまごころが最後に男の愛を掴みとった話

伊勢物語は平安時代の歌物語です。在原業平らしい男が主人公として登場します。和歌を挟んだ大変に美しい物語なのです。その中でも「筒井筒」の段は女性のまごころが男の心を捉えた稀有な話です。よく味わってお読みください。けっして昔話ではありません。

【清兵衛と瓢箪・志賀直哉】父親の無理解を題材にして描いた名短編

志賀直哉の短編『清兵衛と瓢箪』は独自の位置を占める作品です。高校時代に習った人もいるでしょう。不思議なほど、瓢箪の良しあしがわかる少年が登場します。しかし大人には、彼の技量の深さがわからなかったのです。味わいのある短編です。ご一読ください。

【井上ひさしの芝居】難しいことをやさしく深く伝え続けた真の作家魂

作家井上ひさしの仕事は多岐にわたります。小説の執筆はもちろんのこと、多くの時間を戯曲の制作に費やしました。浅草フランス座で学んだ芝居作りが後のこまつ座創設に引き継がれたのです。彼の作り出す舞台は人間愛に彩られたすばらしいものばかりです。

【先達はあらまほし】愚人の行動は小説よりも奇なり【徒然草52段】

人間は中途半端にものを知った気になるものです。そういう時にとんでもない失敗をしてしまいます。『徒然草』の中にもそんな話があります。しかしぼく自身もシャコバサボテンを相手にとんでもない失態を演じました。やはり先達はあらまほしきことなのです。

【枕草子・かたはらいたきもの】清少納言の鋭い観察力がひたすら怖い

清少納言の『枕草子』は鋭い観察眼に裏打ちされた怖い本です。しかしじっくり読むと、実に味わいが深いのです。「かたはらいたきもの」の章段は彼女が最も嫌ったものばかりが登場します。それだけに清少納言という女性の性格が全てあらわれているのです。

【養老の滝・十訓抄】親孝行の功徳で滝の水がお酒になったという伝説

養老の滝伝説というのは親孝行と関連付けられることが多いです。貧しいながらも父親にお酒を買って飲ませていた若者が、ある日滝を見つけます。その水がおいしいお酒でした。神が若者の孝行心に感じてお酒にしてくれたのです。『十訓抄』に所収されています。

【サービスの極意】ゴミ1つにまで細心の注意を払う【帝国ホテル】

サービスには限りがありません。お客の立場にたち可能な限りお世話をするというのが大切なのです。クレームが大きな商機につながります。万全と聞き流していたのでは大きな仕事はできません。帝国ホテルの清掃の仕方には学ぶべき内容がたくさんあります。

【夏目漱石・硝子戸の中】短編の味わいここに極まれり【日常風景】

夏目漱石の短編『硝子戸の中』は日常の風景をそのまま綴った作品です。次々と起こる毎日の出来事をじっと見守る1人の作家の視線がやさしいのです。末期の目に満ち溢れています。そこに繰り広げられる出来事が、今の時代にも繋がっているような気がします。

【共生の思想】哲学者・梅原猛の予言に示された文明の未来図とは

哲学者、梅原猛は生涯において教壇に立ち続けました。中学生に向けても何度か授業をしたのです。そのうちのいくつかが採録されて本になっています。非常にわかりやすく解説されています。是非手に取ってみてください。私たちの未来の可能性が描かれています。

【NHK・元ディレクター・今井彰】飽くなき真実への探求心に脱帽

元NHKディレクター、今井彰の本を紹介させてもらいます。伝説のドキュメンタリー「プロジェクトX」の企画から制作まで一貫して関わってきました。その力量は並外れたものがあります。退局後は作家として次々と問題作を発表しています。一読して下さい。

【やまなし・宮沢賢治】透明感に満ちた自然の豊かさを感じさせる童話

宮沢賢治の童話『やまなし』は透明感あふれる作品です。小学校の教材に所収されてから、多くの人の知るところとなりました。川底の風景を基調として、自然の豊かさを静かに描写しています。生きることの意味を問いかけたすばらしい童話なのです。

【ネイティブ信仰からの脱却を】なんのために英語を学びたいのか

面白い本です。同時通訳で活躍中の女性の書いたものです。偶然のようにアメリカの大学へ留学することになりました。そこでの英語の勉強がやがて彼女の人生を劇的に変えます。その勉強の仕方がものすごいです。日本に戻ってからの仕事ぶりも読んでみて下さい。

【名人伝・中島敦】狂気でも冗談でもない結末の言葉に真実が宿る

中島敦は『山月記』で有名な作家です。虎になった人間の話は必ず高校時代に習います、その小説家の作品に『名人伝』というのがあります。弓の名人になりたかった男が長い修行を経てついに名人になります。しかし弓の存在を既に忘れていました。

落語に関する入試問題でこれ以上の難問はない【精神分析医との比較】

かつて大学入試に落語の問題が出たことがあります。精神分析医との比較で、出題されました。大変な難問だと評判になったのです。噺家はどのような精神状態で落語を語るのか。精神分析医との比較で論述したきわめてユニークな評論からの問題でした。

【作家・中上健次】路地の魅力が昭和の力の源泉だった【風景の変化】

日本の風景はここ数10年で大きく変わりました。路地がなくなり、道路が舗装されました。かつて路地を舞台にして小説を書いたのは中上健次です。彼の紀州新宮を中心とした世界はそれが神の領域に入るものと仮託されました。崇高な世界の造詣だったのです。

【徒然草・神無月のころ】人間の貪欲な魂は細部に宿る【兼好法師】

人間の心というのは、日常生活の細部に滲み出てくるものです。それが怖いですね。徒然草を書いた兼好法師は観察眼の豊かな人でした。他の人なら気づかないようなことまで、見えたのです。「神無月のころ」という一節はまさに人間の本質を示すものです。