平均寿命と格差
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は医学関係の小論文について考えます。
今春、山口大学医学部に出題された問題です。
課題文はすべて英語です。
ある意味で英文和訳の要素がかなり濃厚な試験です。
内容を理解し、それについての考えを日本語で書くというタイプの問題です。
小論文を英文で出題する大学はあまり多くはありません。
過去問をみれば、志望する大学がどのような傾向の問題を出すのかがわかります。
きちんとチェックしておいてください。
過去に英文で出題されたことがある大学を受験する場合は、十分に注意しておく必要があります。
医学系の場合は、テクニカルな単語が多く登場する可能性もあります。
きちんとした学習が必要でしょう、
設問は次の2つです。
問1 下線①について、4つの仮説を本文の内容に即して、それぞれ述べなさい。
問2 下線②について、本文を踏まえてあなたの考えを400字で述べなさい。
というものです。
問1はきちんと文章の内容が読み取れれば、要約は十分に可能です。
使われている単語に専門用語はありません。
わからなくても、文末に語彙の説明があるので、それほど苦労することはないと思われます。
唯一の専門用語としては、「ジニ係数」を知っているかどうかというレベルです。
経済学の表現です。
格差社会の問題を丹念に読み込んできた受験生にとっては、理解が容易であったはずです。
解説もあるので、解答は可能でしょう。
こうした類いの語句は、日常的に新聞や新書を読み込むことによって、確実なものにしておくべきです。
一般的な理解
平均寿命について、人々は通常、どのように理解しているのでしょうか。
一般に低所得者の平均寿命は低いと信じている人が多いかもしれません。
通説としてはこの考えがかなり流布していると想像されます。
しかし今回の課題文に示されたデータは、そうした理解とは少し食い違いがあります。
最初に読んだとき、とまどいを感じた人もいることでしょう。
そこがこの小論文のキモなのです。
絶対に見落としてはいけません。
最大のポイントは「裕福で教育水準が高い都市に住む低所得者層がなぜ長生きをしているかについては、多くの説明が必要だ」いうものです。
これについて幾つかの考えを示すことが、ここでは重要な論点になるのです。
課題文を翻訳したものを割愛して掲載します。
全文はかなり長いので、かなり省略しました。
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平均寿命の社会経済的格差に関する理論を評価するためのレンズとして、狭い地域の間で見られる平均寿命のばらつきが用いられた。
低所得者が長寿である地域の特徴を理解することで、より広く低所得者集団の寿命についての決定要因に関する洞察を得られる可能性がある。
地域間の平均寿命の差は健康に関する行動(喫煙、肥満、運動)と高い相関があり、そのことは地域間の平均寿命の格差を説明する理論が、健康に関する行動の違いを説明できなければならないことを示唆しているのである。
そのような理論の一つに、健康と寿命は医療の違いに関係しているというものがある。
今回の分析では、この理論の裏付けは限定的である。
低所得者の平均寿命は、被保険者割合や予防医療に関する指標などといった、提供される医療の質や量に関する指標と有意な相関がなかったのである。
低所得者が65歳でメディケアの適用を受けるようになっても、死亡率に変化がないことは、医療へのアクセスの欠如が低所得者の平均寿命を短くする主な理由ではないという結論をさらに裏付けている。
第2の理論は、地域環境の物理的な側面、例えば大気汚染にさらされることが健康に影響を与えているという説である。
こうした理論では、所得による居住区分離が進んでいる地域で、寿命における所得格差が大きくなるはずだと予測される。(中略)
不健康と不平等
第3の理論は不健康が不平等や社会的結束の欠如に関係し、所得者のストレスを高めている可能性があるとする。
本研究では全ての所属グループをプールした場合、所得不平等のジニ係数は通勤圏の平均寿命と負の相関を示しており、先行研究と一致した。
第4の理論は、平均寿命が地域の労働市場の状況に関係しているとする。
経験的には、失業率、長期的な人口と労働力の変化のいずれも、所得下位4分の1の人々の平均寿命と有意な相関がなかった。
低所得者の平均寿命が低いことを示す四つの説は、いずれもデータによって一貫して裏付けられているわけではない。
むしろ、データの中で最も強いパターンは、ニューヨーク州ニューヨークやカリフォルニア州サンフランシスコといった、高学歴、高所得で政府支出が多い豊かな都市で、低所得者が最も長寿である傾向にあるというものであった。
これらの都市では所得分布の下位5パーセントに属する個人の平均寿命は約80歳であった。
一方、インディアナ州ゲーリーはミシガン州デトロイトのような都市では、所得分布の下位5パーセントの人の推定寿命は75歳であった。
裕福で教育水準が高い都市に住む低所得者層がなぜ長生きしているかについては多くの説明が可能である。
そのような地域では、健康を増進する公共政策がとられていたり、公共サービスに対する資金が豊富であったりする可能性もあり、その地域の地方財政支出が多いことと整合している。
意見をどうまとめるのか
設問①については、それぞれの仮説をきちんと読み取り、まとめていく方法をとらなければなりません。
ここで、内容がきちんと整理できていないと、設問②に進むことができません。
設問①は次の問いへの導入にあたるのです。
ここで確実に得点を重ねなくてはなりません。
各50字以内とありますから、本当に核になる部分だけを書き込む必要があります。
ここではその次の設問②について考えましょう。
500字という字数はけっして多いものではありません。
原稿用紙にしてわずかに1枚と少しです。
何を書けばいいのか。
それは多くの人が考えている通念を覆した理由を示すことに他なりません。
ポイントは健康を増進する公共政策と公共サービスにあります。
地域全体での取り組みが地域住民の意識を改革し、長寿につなげた例は数多いのです。
よく言われるのが減塩、さらに口腔衛生です。
予算が少ないから、何もできないというのは理由になりません。
虫歯の予防だけでなく、自分の歯できちんとものを噛んで食べるために、歯科医師との連携は欠かせないのです。
カルテの保管とチェックを通じて、歯を大切にする意識などを啓蒙する必要もあります。
長寿県と呼ばれるところには、必ず基幹となる医療組織があり、在宅看護などにもきちんとした目配りがなされています。
地域の行政と連携して、医療を促進していけば、薬漬けになり、3分診療と呼ばれるような悪弊も取り除かれるのではないでしょうか。
この部分はあなたの経験、見聞が大いに役立ちます。
自分の住んでいる地域では、このような取り組みが行われているといった具体的な記述があれば、なお効果をあげるでしょう。
ポイントはあまり一般論ばかりを書かないことです。
実感のある医療を視野に入れて、文章をまとめてください。
英文で出題されるからといって嫌がることなく、大いにチャレンジしてもらいたいものです。
内容は少しも突飛なものではありません。
きちんと理解し、自分の意見を堂々と述べることが大切です。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。