反論の意味
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は小論文の書き方、AtoZです。
小論文の基本的な特徴はつねに反論を示すことにあります。
課題文について考えるところを書きなさいというタイプの問題には、だいたいそのための余白が用意してあります。
どのポイントをおさえればいいのかということが、わかるようになっているのです。
そのための導入設問なども周到に用意されています。
簡単にいえば、この隙間を突きなさいという指示です。
国語力があれば、その急所をみつけられます。
多くの課題文には必ずその隙があるのです。
慣れてくると、見つけやすくなります。
しかしそれを発見するためには、ある程度の知識が必要になります。
全く糸口を見つけられないということは、十分な知識を持っていないということと同じ意味なのです。
どんなテーマでも、まず正面から受け止める勉強を続けてください。
そのためには評論をメインにした入試問題をとくのが一番の早道です。
コンテンツは実に多岐にわたっています。
環境、戦争、人権、AI、少子高齢化、教育、言葉、文化などの大切なポイントは、必ず押さえておかなければなりません。
このテーマで過去にどんな内容の問題がでたのか。
必ず受験したい学校の問題にあたってみてください。
キーワードだけにしぼった参考書も手助けになるかもしれません。
しかしざっと読んだくらいでは、なかなか頭に入りません。
必ず自分で実際に書いてみることです。
これが非常に大切なのです。
何度か試みているうちに、反論の入り口を探す技術を手にすることができるようになります。
反論が書けない場合
課題文の中には、筆者の論点が全てだというケースもあります。
それでも何かを書かなければならないという場合は苦しいです。
しかし採点者の立場になれば、そこをどう切り抜ける能力をもっているのかを知りたいのです。
あなたならどう書きますか。
例を1つあげましょう。
人間の道徳に関する内容には、ほとんど反論を許さないものが多いですね。
もっとも基本的な道徳として、多くの宗教が主張する内容はほとんど共通するものです。
具体的には「殺生」「妄語」「偸盗」など。
「殺すな」「嘘をつくな」「他人のものを盗むな」という基本的な生き方の根幹にかかわる内容です。
しかし「嘘も方便」といった真反対の表現がないワケではありません。
しかしここに示されたことが、正論であるから何も書けませんといったのでは、小論文にはならないのです。
ではどうしたらいいのか。
ここから話を広げます。
自分の経験や見聞をうまく利用してください。
何も書けないとなったら、そこで評価は終わりです。
それ以上に得点があがることは絶対にありません。
どんなことがあっても制限字数の90%まで、字数を稼がなくてはなりません。
これは至上命題です。
この3つの考え方に対して正面きって反論が書けない時は、そのことを実行することがいかに難しいのかを自分の経験から論じるのです。
その難しさの原因を解析し究明する方法もあります。
例文を示します。
参考にしてください。
例文
確かに、ここに示されていることに反論の余地はない。
しかし自分の経験の中で、この3つの戒めを守り切れているのかと言えば、それは否である。
なぜ実行することが困難なのか。
その理由は簡単である。
人間の根本的な欲望にこの3つの要素が深く絡んでいるからだ。
禁制という表現がある。
人間として、してはならないことである。
しかその背景を深く探っていくと、そこには人間の欲望の根幹に関わる暗い熱望が宿っていることがわかる。
人は好んで嘘をつくわけではない。
しかし気がつくと嘘をついていることがある。
自分を大きく見せたいという自尊心の闇は、想像以上に深いのである。
あるいは他者のものが欲しくなり、盗むことがあるかもしれない。
子供は平気で蟻を踏みつぶして殺す。
それはなぜか。
そこにある種の強圧的な力へのあこがれがあるからなのである。
他の生を蹂躙することは、拡大すれば戦争にもつながる。
人はなぜ戦いをやめないのか。
人間の根本に関わる難問中の難問である。
理由から抜け出す
少しだけ例文を書いてみました。
確かに難しいという理由がここには示されています。
ではこれだけで十分なのでしょうか。
そうではありません。
このままでは単なる分析と意見に過ぎないのです。
そこからどう結論にまで導くのか。
それが最大のポイントです。
採点者はそこを見ているのです。
最初に現実を示しておいて、それでも人にはしてはならないことが厳然として存在するという論理を構築してください。
その骨格を示すことが大切です。
1つの文章に対する反論をうまく応用しながら、自分の述べたい場所へ読み手を導くのです。
けっして難しいからといってやめてはいけない、という論理を打ち立ててください。
採点者は必ず共感してくれます。
難題であることを知りながら、苦闘している姿をみせるのです。
簡単にあきらめない精神力が、文章の裏側に見えていれば、自ずと評価は高くなります。
もっと書き込めるなら、自分の経験を短く効果的に挿入することもできます。
ただし、練習量が少ないと、自分の文章に酔っただけの独りよがりなものになりがちです。
つねに全体を俯瞰しながら、先へ進めることが大切なのです。
課題文との距離感を上手に保つことができれば、のめり込むこともなくなります。
さりげなく熱量を読み手に伝えることも大切なテクニックです。
全ては日々の精進からしか生まれません。
書き終わったら、信頼できる先生に添削してもらってください。
その繰り返し以外に最善の方法はありません。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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