【夏目漱石・三四郎】タブレットで青空文庫を利用し名作を読む

読書はタブレットで

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回はちょっと趣向をかえて、タブレットに挑戦しました。

いろんなアプリを入れて試しています。

最近気に入っているのが「読書尚友」。

日本語縦書き電子書籍ビューアです。

青空文庫で公開されている1万冊以上の作品を快適に読めます。

ぼくはもっぱら無料版を使っていますが、有料版もあります。

最初はFree版で試し、よかったら買い求めるのもいいかもしれません。

すごく動きが軽快です。

途中まで読んだところでストップしていてくれるので、すぐに続きが読めます。

今まで何度もパソコンで試してきましたが、やっぱり本を読むのなら、タブレットの方が便利ですね。

キンドルなどの読書用タブレットもありますが、汎用で十分でしょう。

10インチになるとちょっと大きくて重いです。

7~8インチくらいがいいんじゃないでしょうか。

それでも本に比べれば重いですけどね。

1番ありがたいのは、明治の文豪の本が月々と青空文庫に入っていることです。

大好きな漱石の作品を無料で読める時代が来たのです。

ありがたいことじゃありませんか。

さっそく代表的な作品を全部ダウンロードしてしまいました。

なにから読もうかなと思ったら、『三四郎』がふと目にとまったというワケなのです。

すごく懐かしいです。

こういう類の青春小説は久しぶりです。

漱石の作品の中でも群を抜いて明るいですね。

こんな作品はもうこれ以降ありません。

それだけ暗い小説ばかりを書いた人なのです。

紙の本と同じように、抵抗なく読めました。

タブレットはフォントを自分好みのものにできます。

さらに大きさも自由自在。

これからはこういう読み方が主流になっていくんでしょうね。

探したら文庫本も家の本棚にありました。

しかしなんとも活字が小さくて読むのが大変です。

厳然とした格差

全編が田舎から東京の大学に進学してきた三四郎の視点で書かれています。

最初の汽車のシーンから読んでいて新鮮ですね。

100年以上も前の時代に熊本の高等学校を卒業して東京の帝国大学に出てくるというのはとんでもないことだったと感じます。

旧制高校を出るということも、大変な時代でした。

ほとんどの人は尋常小学校まで行ければ十分という世の中だったのです。

東京で暮らせるだけのお金を送れる家というのは、それだけで特権階級でした。

当然のことながら、登場人物たちはみな当時のエリートです。

将来を約束されている人ばかりです。

それでも同じように悩みをかかえ、その日を生きていたということがよくわかります。

当たり前の話ですけどね。

大学の講義にはじめて出た三四郎には、なにもかもが刺激に満ちていました。

古い田舎の世界と全く対照的に描かれた東京での大学生活。

登場人物は一高の教師、広田先生、野々宮さんという理学者、美禰子、よし子、与次郎などです。

田舎にはお光さんという健康な娘さんがいて、女学校に通っています。

三四郎の結婚相手にふさわしいと母親がしきりに勧めている女性です。

田舎の純朴な青年、三四郎は大学生活の中で、全く違う価値観をもった人々がこの世界にはたくさん存在しているということをはじめて知るのです。

次々と日々の話題が繰り広げられていくという構図でしょうか。

美禰子の存在

ある時、三四郎は広田先生の引越しを手伝います。

その時、かつて学内で一度見て心に焼き付いてしまっていた女性と再会するのです。

里見美禰子の存在がこの小説の大きなカギを握っています。

俗にいうところのマドンナ的要素を持った人とでもいえばいいのでしょうか。

美禰子や野々宮の妹よし子らの属する華やかな世界を彼は初めて垣間見ます。

夢見心地の時間でした。

この作品にはクライマックスシーンがいくつかあります。

その1つが連れ立って団子坂の菊人形を見に行くところです。

気分の悪くなった美禰子は一人その場を離れようとします。

三四郎は美禰子を介抱し、残りのメンバーからはぐれてしまうのです。

転びかけた美禰子を支えようとした三四郎は偶然にも彼女を抱きかかえます。

恋に落ちた瞬間でした。

三四郎は美禰子が野々宮に惹かれているのではないかと悩みます。

その頃、与次郎は広田先生を帝大の教授に就任させようと奔走していました。

三四郎もなんとなく協力しているうちに騒動に巻き込まれていくのです。

やがて美禰子は全く別の男性と結婚を決めてしまいます。

その相手は、野々宮ではなく彼女の兄の古くからの知り合いでした。

その頃、与次郎が進めていた広田先生の教授就任工作が失敗に終わります。

しかし広田先生はなにもなかったかのように超然としていました。

その凛とした姿に三四郎は驚愕します。

日々の暮らしの中で、人間の複雑な内面を見ながら次第に成長していくのです。

その頃、美禰子をモデルにして絵を描いていた画家、原口の作品が評判となります。

三四郎は広田先生、野々宮さん、与次郎と展覧会を訪れます。

評判の絵には「森の女」という題名がつけられてしました。

三四郎はその絵を見た瞬間、「迷羊(ストレイシープ)」と何度も口の中で呟くのでした。

感情をとらえる力

この作品は一種の心理小説だといえます。

非常に細かな感情を襞の中に分け入るように描写していきます。

漱石という人は実に不思議な作家です。

熊本からでてくる時にも見知らぬ女性と旅館で同室になるといった設定が用意されています。

翌朝になって女性は「あなたはよっぽど度胸のない人ですね」と呟きます。

この部分の描写も、後に三四郎が東京へ出てから美禰子に翻弄される話の伏線になっています。

漱石はどうしても人間は親しくなればなるほど、三角関係にならざるをえないという哲学を持っていたのかもしれません。

あらゆる小説の元にこの考えが登場しています。

この後に続く『それから』『門』『こころ』『行人』『明暗』などに出てくる共通の考え方です。

しかしこの作品ではそこまで煮詰めてはいません。

ごく爽やかに青春の息吹を感じさせてくれます。

若い時代というのは誰でも不器用なものです。

自分自身の感情をどうコントロールするのかもままならないことが多いのです。

そういう意味で、誰にでもある1つの時代を思い出させるだけの重みを持っています。

懐かしささえ感じる人が多いのではないでしょうか。

こういう作品を今では青空文庫でタブレットに入れて誰でも読めるのです。

すごい時代になりました。

下女とか小女(こおんな)という言葉が当たり前のようにでてきます。

これも時代なんでしょうね。

人間の格差というのはずっとついて回ってきたのだなとあらためて強く感じます。

時代を超える名作です。

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是非、ご一読をお勧めします。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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