詩人の生き方
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は谷川俊太郎の詩を読みます。
高校の授業では、この2つを取り上げることが多いですね。
「二十億光年の孤独」を1年生で、「地球へのピクニック」を3年生あたりでやります。
どちらも彼の代表作です。
合唱曲にもなっています。
作曲家の想像力を刺激するのでしょうね。
わかるような気がします。
スケールが壮大です。
それでいて寂しい。
あまりにも広い宇宙の中に生きているたった1人の人間の孤独をみごとに描き出しています。
高校生になると、自我の発達には目覚ましいものがあります。
他者との差を強く意識し、アイデンティティの根源を探そうと必死になるのです。
その分、孤独感を強く感じる瞬間が増えるのでしょう。
谷川俊太郎は子供向けの本などもたくさん出しています。
ことばをはじめて覚えるころ、どうしても読ませたい本の一冊に「ことばあそびうた」があります。
福音館書店のロングベストセラーですね。
ご存知でしょうか。
装丁の美しさも含めて、見事な本です。
一つだけ、好きな詩をご紹介します。
ののはな
はなののののはな
はなのななあに
なずななのはな
なもないのばな
漢字になおすとつぎの通りです。
花野の野の花
花の名なあに
なずな菜の花
名もない野花
この詩は何度も授業で取り上げました。
ひらがなの持つ不思議な魅力にあふれています。
谷川俊太郎という詩人の感性にはただ脱帽するのみです。
次に「地球へのピクニック」を読んでみてください。
はたして、生きることに希望はあるのか。
地球は人が住むにたる惑星なのか。
地球を宇宙からの視点で見直してみた時、何が見えたのか。
内側から見ているだけでは何もわからないことがあります。
それに気づかせてくれる作品です。
人間の一生が持つ意味もあわせて考えさせます。
地球へのピクニック
ここで一緒になわとびをしよう ここで
ここで一緒におにぎりを食べよう
ここでおまえを愛そう
おまえの眼は空の青をうつし
おまえの背中はよもぎの緑に染まるだろう
ここで一緒に星座の名前を覚えよう
ここにいてすべての遠いものを夢見よう
ここで潮干狩りをしよう
あけがたの空の海から
小さなひとでをとって来よう
朝御飯にはそれを捨て
夜をひくにまかせよう
ここでただいまを言い続けよう
おまえがお帰りなさいをくり返す間
ここへ何度でも帰って来よう
ここで熱いお茶を飲もう
ここで一緒に坐ってしばらくの間
涼しい風に吹かれよう
谷川俊太郎
1931年、彼は日本を代表する哲学者・谷川徹三の子として生まれました。
高校を卒業後、大学に進学することもありませんでした。
父親に将来どうするのかと問われ、2冊のノートを見せた話は有名です。
そこには書きためた詩が載っていました。
徹三はその内容に驚き、友人であった詩人・三好達治にノートを送ります。
三好はそこから6編の詩を選び文芸雑誌『文學界』に推薦しました。
「ネロ他五篇」としてはじめて世に出たのです。
詩人・大岡信は強い衝撃を受けました。
それからの長い付き合いは、大岡が亡くなるまで続いたのです。
この詩は1952年に発表されました。
大変に教えにくい詩の1つだと何度感じたことでしょうか。
言葉は少しも難しくありません。
しかしそこで伝えようしていることは、簡単ではありません。
宇宙の単位の中に生きている自分の存在の小ささを考えた時、あまりに途方もないものです。
悲しいくらいといってもいいでしょう。
それでも人は必死に生き続けなければならないのか。
その根源的な問いに満ちています。
高校1年生で、この詩を突き付けられた生徒たちは、みな戸惑っていましたね。
二十億光年の孤独
人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或いは ネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
宇宙はどんどん膨らんでゆく
それ故みんなは不安である
二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした
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最後のくしゃみが愉快ですね。
しかし孤独感は人一倍強いと感じます。
谷川俊太郎の活動はあまりにも裾野が広いです。
その根源は「ことばあそびうた」にみた「ことば」への関心に由来しているのです。
通常の感覚ではありません。
ことばというものが持っている強さとはかなさを自分の身体の中に沁み込ませています。
だからこそ、どこからでも表現となって溢れかえってくるのです。
それが彼の最大の強みです。
現役の詩人して、今も活躍は続いています。
この機会にぜひ、その詩の魂に触れてみとはいかがてしょうか。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。