名作間違いなし
みなさん、こんにちは。
ブロガーのすい喬です。
今回は映画の話をさせてください。
今までに何度も見た映画は数々ありますが、やはりこの作品の魅力は一言では言いがたいですね。
タイトルは「ローマの休日」(1953年/アメリカ)です。
圧倒的なのはなんといってもローマの町そのものです。
この都市の映像がなかったら、本当につまらない薄っぺらなラブストーリーで終わったかもしれません。
やはり名作の名作たる所以ですね。
何度見ても飽きないのです。
主役をつとめたオードリー・ヘップバーンの美しさ、可憐さもさることながら、やはりローマの風景がすばらしい。
どのシーン1つをとってみても、完成され、また行きたいと思わせるものがあります。
最初のフォロロマーノで2人が出会うシーンから、ジェラートを食べるスペイン階段まで風景はなんとも魅力的です。
さらにトレビの泉でそばにいた子供のカメラをちょっと借りようとするシーンも面白いですね。
なにもかもが楽しいのです。
この映画を見て、ローマに行きたいと思った人は世界中にどれくらいいることでしょうか。
考えただけで、気が遠くなります。
実はぼくもその1人です。
最初行った時にはとにかくローマの町の風景を身体に全部沁み込ませようと思って歩き回りました。
2度目の時は、映画と同じコースを全部歩けないかと考えたくらいです。
結果的にはほぼ踏破しましたね。
暑い日差しの中、サンピエトロ寺院からカラカラ浴場まで歩きました。
真実の口からサンタンデロ城までの道のりも容易にイメージできます。
ダンスパーティのシーンを撮ったあのお城です。
もちろん、中にも入りました。
現地ロケ
この映画にはいろいろなドラマがあることを、たまたまテレビで知りました。
赤刈りにあって追放されかかった脚本家ダルトン・トランボの話には切実なものがあります。
最初はトランボの名前を出すこともできなかったそうです。
当時の政治の状況を知らないと、この赤狩りの話はピンときません。
興味のある方は調べてみてください。
時代背景がよくわかります。
さて、この映画がヒットした秘密はどこにあるのでしょうか。
主演俳優の魅力はもちろんのことです。
しかしそれ以上に重要なポイントは、監督の決断にあったのです。
ウィリアム・ワイラーはハリウッドで撮ることになっていた予定を強引に現地ロケにかえました。
当然製作費が跳ね上がります。
彼はカラーフィルムでの撮影を早々と諦めました。
費用をおさえるため、全てモノクロにしたのです。
ローマの町の魅力を伝えるには現地でロケをする以外にないと考えたのです。
結局はこれが成功しました。
「ローマの休日」はモノクロの方が断然いいです。
もちろんカラーでも美しいとは思います。
しかし何度も見ていると、モノクロの持つ世界が想像力を刺激するのです。
主演をオーディションで選んだ時の話も面白いです。
新人のオードリーに決定した時の逸話はちょっとしたものです。
グレゴリー・ペックの主演は既に決まっていました。
しかしヒロインを誰にするのか。
ものすごく監督は悩んだと言います。
オーディション
ヒロインを決めるため、全米各地でオーディションを開催しました。
オランダの裕福な家庭に育ったオードリーとの出会いです。
その時のテーマはベッドに寝て起きるだけのシーンでした。
監督は「カットと言った後も、カメラを回しっぱなしにしてほしい」と要望していました。
演技ではなく、日常の表情がどの程度自然にでるのか。
そこにカメラテストの重点を置いたのです。
女優オードリー・ヘップバーンが誕生した瞬間です。
この時のテスト版が今でも残っています。
興味のある方はちょっと調べてください。
すぐみつかると思います。
映像を見たグレゴリー・ペックは、この映画の主役は自分ではなく、この新進女優だと呟いたと言います。
それくらい新鮮な魅力に満ちていたのでしょう。
そこからオードリーの人生は全くかわったものになります。
事実、結婚が決まっていたのです。
それを破談にして彼女は全編オール・ロケのこの作品に出演しました。
撮影の仕方もそれまでの常識を破るものだったと言われています。
1番有名なのが真実の口に手を突っ込むところですね。
嘘をついたら手が抜けなくなるというシーンです。
グレゴリー・ペックが真実の口に手をいれる有名なカットです。
テストの時には何もなく、本番の時、グレゴリーは手を食いちぎられるといったオーバーな演技をしました。
まさかと思ったのでしょう。
次の瞬間、オードリーは真っ青な表情になります。
オーバーなアクションの後、手を口からそっと抜いてニコニコしているグレゴリー。
その胸に倒れ掛かるようにして、バカバカと抱き着くオードリーの純粋な心の中が透けてみえる見事なシーンです。
監督は最初から仕掛けていました。
カメラも長回しです。
オードリーには何も言わずにやったハプニングに近い撮影です。
その様子は映画でご覧ください。
彼女の魅力が溢れかえっています。
本当にきれいな心の人です。
王女と新聞記者
2人の身分があまりにも違うところから、最後は結局別れがやってきます。
最初は王女の失踪を知り特ダネをとろうとした新聞記者が、やがて彼女の魅力に気づいていきます。
この心理的な変化がリアリティに満ちていてすばらしいです。
いつまでも一緒にいることはどう考えても無理な話なのです。
それがわかっていて、しかし別れたくないという王女の痛いまでの気持ちがスクリーンにあふれます。
最後の記者会見のシーンは本当に見事ですね。
病気で療養していたという情報を流し、王女失踪の事実を隠し通した果ての記者会見です。
その場に登場した王女の前に、真実の恋をした新聞記者が立っていました。
今回のヨーロッパ訪問の中でどの都市が最も印象に残りましたかという質問に、王女は「ローマです」とはっきり言います。
映画を見ている人々には万感の思いが宿ります。
彼女の気持ちがわかるからです。
病床にいらしたにもかかわらずですかと再度問われ、王女は力強く「ローマです」と呟くのです。
自分から侍従たちのいる屋敷にもどるまでの心の葛藤を実に巧みに描いています。
本当なら帰りたくはない。
彼と一緒にずっといたかった。
それができない身分の違いを静かに受け入れ、王女はローマを去ります。
このストーリーの根本は、人間への信頼に尽きるでしょうね。
王女は自由な時間を手に入れようとして、たくさんのものを犠牲にしました。
しかしそのかわりにかけがえのない愛情を獲得する。
そこがこの話の真骨頂です。
最後にもっとも記憶に残った町はと訊ねられ、ローマですと答えるシーンは圧巻です。
ローマはどこを掘っても古代の遺跡にぶつかるという魅力に満ちた町です。
あと1つだけ、イタリアで好きな都市をあげろといわれたら、やはりベネツィアでしょうか。
もちろんフィレンツェも大好きです。
しかし「旅情」の主役キャサリン・ヘップバーンのあのなんともいえない寂しさはたまりません。
「ベニスに死す」の老作曲家の孤独もやるせないのです。
ベネツィアという町はローマと違い、どこか憂愁を引きずっているのかもしれません。
でもやっぱり大好きなのはローマですね。
今回も最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。