【落語の定番・一目上がり】テンポのある楽しくてめでたい噺【トントン落ち】

落語

一目上がり

みなさん、こんにちは。

アマチュア落語家、すい喬です。

今回は寄席でもよくかかる噺、「一目上がり」を紹介します。

こういう類いの落語は入門してはやいうちに覚えなくてはなりません。

口ならしのための前座噺の範疇に入ります。

しかし前座がやって面白いかといわれると、全くそんなことはありません。

独特の間が必要なのです。

落語はすべて「間」が勝負です。

しかしこれは1人1人、みな違います。

師匠の真似をして覚えるところから始めます。

ところがいざやってみると、そんなに簡単なものではありません。

ブレスの仕方から覚えていくしかないのです。

しかしいつまでも師匠と同じではダメです。

そこから早く抜け出ることを学ばなくてはなりません。

それが1番難しいですね。

いわゆる「守破離」と呼ばれるものです。

あらゆる芸事は、この論理で動いています。

最後は自分の身体のリズムです。

他人には真似ができません。

この噺は、そうした要素に満ちているので、なるべくはやい時期に稽古するのがいいのです。

台詞の中に、いくつか暗記しなければならない、いわゆる「言い立て」の部分があります。

ここがカギですね。

これをマスターすると、あとは流れで話せるようになります。

ご隠居と八五郎

この噺はご隠居と八五郎の会話から始まります。

床の間にかけてある掛け軸が妙な絵柄だというところが噺のきっかけです。

「笹っ葉の塩漬け」か、とワケのわからないことをいう八五郎にご隠居が説明するのです。

「しなわるるだけは堪(こた)えよ雪の竹」

これが笹の絵の脇に書いてあります。

雪の重みでしなって曲がっていても、春になれば元どおりの笹になる。

人間も辛抱、我慢が肝心と言うことだと教えられるのです。

八つぁんは思わず「音羽屋」と褒めてしまいます。

ご隠居は、あきれて、こういう時は「結構な賛(三)ですな」と褒めるものだと教え諭すのです。

「世間の見る目がそこで変わるに違いないから、ちゃんと褒めなくちゃだめだ」とご隠居。

「八公と言われていたのが八つぁんになり、八つぁんが八五郎殿になり、それが八五郎様と呼ばれるようになる」と諭されるのです。

そこで味をしめた八五郎は大家さんの家を次に訪ねます。

いつも「ガラッ八」と呼ぶ大家さん、今日は「ガラ」と呼び捨てです。

「ハチ」もないので縁日の植木だと言ってしょげかえってしまいます。

それでも思い直して、掛け軸を褒めようとすると、字ばかりなのです。

文字の読めない八五郎は大家さんに読んでもらうことにしました。

その掛軸の言葉がこれです。

「近江(きんこう)の鷺は見がたく、遠樹の烏は見易し」

善い行いは目立たないが、悪事はすぐにあらわれてしまうという意味です。

よくわからない八つぁんはそれでも、結構な賛ですねと褒めます。

すると大家さん、「いいや、これは根岸の亀田鵬斎先生の詩(四)だ」と、呟くのです。

医者の先生

諦めきれない八つぁんは、医者の先生の所へ乗り込むことにしました。

「八五郎君ですか」とていねい呼んでくれたので、ちょっと嬉しくなり、掛け軸をわざわざ出してみせてもらうことにしました。

大幅(たいふく)ですよというので、ついご馳走様と口走ります。

大福と間違えたのです。

何が書いてあるのかわからないので、とにかく読んでもらうことにしました。

この言い立てが1番難しいですね。

何度も口に出して、音楽と同じ要領で覚えます。

夢に出てくるくらいにならないと、本番では頭が真っ白になって、なんにも言えなくなったりします。

これが芸の恐ろしいところです。

プロの噺家も必ず経験しています。

その文句がこれです。

「仏は法を売り、祖師は仏を売り、末世の僧は祖師を売り、汝五尺(ごしゃく)の身体を売って、一切衆生の煩悩をやすむ。

柳は緑、花は紅(くれない)の色いろ香。

池の面(も)に月は夜な夜な通えども水も濁さず影も止(とど)めず」だな。

八五郎はすかさず、「結構な詩ですな」と褒めます。

すると医者の先生は、「これは詩ではありません。一休禅師の悟(五)です」と教えてくれます。

また空振りでした。

八つぁんはそこで、次々と「一目」ずつ上がっていくことに気づくのです。

「今度五と言うと月は六と言われるだろうから、はじめから六と言おう」と決め、友だちの辰公のところへ行きます。

回文の面白さ

辰公の家にも掛け軸がありました。

汚い掛け軸には舟に大勢の人が乗っている図が描かれています。

辰公はこれが回文だと教えてくれました。

上から読んでも、下から読んでも同じめでたい文なのです。

「ながき夜の、とおの眠りの、みなめざめ、波のり舟の、音のよきかな」

これも絶対に忘れてはいけない表現です。

八つぁんが「結構な六だな」というと、辰公は「なあに、七福神の宝船だ」といいます。

さらに奥にある掛け軸を見て、結構な八だというと、「なあにこれは芭蕉の句(九)だと下げるのです。

おめでたい噺なので、七福神のところで下げる演出もあります。

その場の雰囲気にあわせて、演じられるのです。

1つずつ上がっていくというのが、いかにも人生の階段を着実に踏みしめて上昇していく姿を髣髴とさせます。

それだけにお祝いごとの時などにご披露できます。

テンポがいいので、覚えてしまうと、あちこちでやれます。

最後は「トントン」とリズムで進みますので、「トントン落ち」と呼んでいます。、

七福神の説明を簡単に入れながら、絵の持つめでたい気分をお客様にアピールするのも1つのやり方です。

あるいは自作の回文を間に突っ込んで、今風のくすぐりにするという手もあります。

回文はたくさんありますので、少し調べてみてください。

わたし負けましたわ(わたしまけましたわ)

私キツネ、鐘つきしたわ(わたしきつねかねつきしたわ)

談志が極楽落語が死んだ(だんしがごくらくらくごがしんだ)

自分で工夫してみてください。

きっと楽しい時間になると思います。

右と左に顔を15度ずつくらい振りながら、登場人物の違いをお客様にわかるようにするのがコツです。

これを上下を切ると呼んでいます。

ぜひ試してみることをお勧めします。

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Youtubeには先代の柳家小さんの動画などもあります。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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