【源氏物語・雨夜の品定め】どのタイプの女性と一緒になれば幸せになれるの

女性の品評会

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は『源氏物語』の中に出てくる男女の問題について考えましょう。

といっても、誰と誰がどういう関係になったのかという話ではありません。

むしろ中世の女性観と言った方がいいです。

これは紫式部の目に映った女性の気質について論じた章段なのです。

「帚木」(ははきぎ)の巻の中に、「雨夜の品定め」と呼ばれる部分があります。

ある雨の夜、源氏や義理の兄弟にあたる頭中将たちが、理想の女性について語り合うシーンです。

女性の「品定め」の段です。

今から考えれば随分と大胆な品評会をしたものだとあきれてしまいますね。

自分の小説の中に、ほとんど論評のようにして、このテーマを突っ込んだのです。

それも女性の目から見た、女性批評です。

紫式部という人は、本当に怖い人です。

彼女はものも言わずに、じっと周囲を観察し続けていたのでしょう。

舞台は宮中です。

宮中で物忌みをしていた源氏のもとに、頭中将がやってきます。

たまたま彼が源氏の恋文をみつけたところへ、新たに2人の男性が加わりました。

五月雨の降る夜です。

他にすることもありません。

そこで彼らは女性の品定めをすることになりました。

その結論が次の通りです。

①顔も可愛くて手紙も上手な妻はNG。浮気ごとが多い。
②世話ばかりで知性のない女性もNG。一緒にいて楽しくない。
③子どものように素直な女性もNG。自分で何にも決められずにこちらが大変だから。
④不愛想な女性はNG。しかしこのタイプの中に非常に気が利く人もいたりする。
⑤嫉妬深い女性もNG。疲れる。
⑥家出をしたりして気を引く女性もNG。逆効果になることが多い。

男性陣は自分自身の失敗談を交えて、賑やかなものです。

その部分を少しだけ、原文から抜き出してみましょう

「帚木」原文

中将、女の、これはしもと難つくまじきはかたくもあるかなと、やうやうなむ見たまへ知る。

ただうはベばかりの情に手走り書き、をりふしの答へ心得てうちしなどばかりは、随分によろしきも多かりと見たまふれど、そも、まことにその方を取り出でん選びに、かならず漏るまじきはいとかたしや。

わが心得たることばかりを、おのがじし心をやりて、人をばおとしめなど、かたはらいたきこと多かり。

親など立ち添ひもてあがめて、生ひ先籠れる窓の内なるほどは、ただ片かどを聞きつたへて、心を動かすこともあめり。

容貌をかしくうちおほどき若やかにて、紛るることなきほど、はかなきすさびをも人まねに心を入るることもあるに、おのづから一つゆゑづけて、し出づることもあり。

見る人後れたる方をば言ひ隠し、さてありぬべき方をばつくろひてまねび出だすに、それしかあらじと、そらにいかがは推しはかり思ひくたさむ。

まことかと見もてゆくに、見劣りせぬやうはなくなんあるべきと、うめきたる気色も恥づかしげなれば、いとなべてはあらねど、我も思しあはすることやあらむ、

うちほほ笑みて、その片かどもなき人はあらむやと、のたまへば、いとさばかりならむあたりには、誰かはすかされ寄りはべらむ。

取る方なく口惜しき際と、優なりとおぼゆばかりすぐれたるとは、数ひとしくこそはべらめ。

現代語訳

中将がおっしゃるには、「女性で、この人こそはすばらしいと、非難しようもないくらいのは滅多にいないものだと、だんだんわかってきましたよ。

ただうわべばかりの風情で字を走り書きして、その時々の答えを心得てするなどだけは、けっこう悪くない人も多いとは思いますが、

それでも、ほんとうに1人だけを選ぼうとする時に、かならず漏れないというほどの女性は、滅多にいないものです。

自分ができることだけを、それぞれ得意になって、できない他人をおとしめたりして、見ていていたたまれなくなることが多いのです。

親などがつきまとって甘やかして、生まれて以来窓の奥深くにこもっている時には、ただそのすぐれている一端を伝え聞きに聞いて、男性が心を動かすこともきっとあるでしょうね。

容貌が美しく、大らかで、若々しく、他に気を取られることもない時には、ちょっとした遊芸でも人真似に精進することもあるものです。

だから自然と、一つの道を極めて、それなりに完成させることもありますけど。

cuncon / Pixabay

その女性を世話している人が、劣った面を言わずに隠して、そのままでよい面を、実際より美化していいつくろって伝えるのに、それは違うでしょうと、本人を見もしないでどうして思い下すことができましょうか。

では本当にそれほど素晴らしい人かと見てみると、見劣りしないようなのはあまりないようですね、ということです。

つくづく話す様子も貫禄十分なので、源氏の君は全部がそういうわけではないにしても、ご自分も同意なさるところがあるのでしょうか。

源氏が微笑まれて「そのように、少しもいいところのない女性というのが、本当にいるのかな」とおっしゃると、

中将は「まったくそれほどひどい女性に、誰が騙されて寄り付くものでしょうか。

取り立ていい所のない残念な人と、素晴らしいと思うくらいすぐれた女性とは、同じ数くらいいるでしょうね。」と答えました。

中の品

源氏と頭中将はこの話をする時、自分の妻を最初に頭に思い描いたのでしょうか。

頭中将は源氏の妻である葵の上の兄にあたります。

源氏にとっては従兄弟にあたる人なのです。

家柄もよく、才気もあります。

彼の妻は右大臣の4人目の姫君にあたります。

ちなみに父親は左大臣です。

右大臣家からもらった妻とは、もうひとつ心が通いません。

源氏も気位の高い葵の上とは、なかなかうまくいかないのです。

そこで正室のほかに女性を持つということになります。

たまたまそこへやってきた、左馬の頭や籐式部の丞などが加わったことで、女性の品評会は賑やかなものになったのです。

結局どのレベルの女性が、1番すぐれているという結論になったと思いますか。

これは今も昔も同じかもしれません。

遊びと結婚とは全く別なのです。

身分や面白みだけで妻を選んだりすると、後で後悔することばかりというワケです。

ここは十分に理解しておく必要がありそうですね。

結局は中流の娘で、地方の受領の娘にこそ、面白みのある女がいたりするという結論に達しました。

受領(ずりょう)というのは公務員のことです。

実際に任国におもむく、諸国の長官です。

ここで頭中将は過去の女性の話をします。

夕顔がそれです。

源氏もこの女性とは縁がありました。

しかし名前の通り、すぐに亡くなってしまったのです。

このときは、まさかその話に出てくる女性と、後に恋をするなどと、源氏は夢にも思っていませんでした。

男と女は時代を経ても根本的には変わらず、だからこそ『源氏物語』は現代でも面白いのです。

この物語に出てくる女性をちょっと眺めてみましょう。

登場人物の名前を知っていると興味がわきますね。

上の品 皇族や大臣の娘、藤壺、葵上、六条御息所、朧月夜、朝顔斎院、女三宮、秋好中宮、明石中宮。

中の品 紫上、空蝉、末摘花、花散里、明石君、玉鬘、大君、中君、浮舟。

下の品 夕顔。

「雨夜の品定め」を通して読んで見ると、今も昔も男女の関係は微妙なラインの上にあると感じます。

チャンスがあったら、ぜひ手にとって読んでみてください。

現代語訳がたくさん出ています。

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コミックもあります。

今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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