お供え餅
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
お正月も終わりました。
1月7日には、七草がゆなどという習慣もありますね。
残念ながら今年はいただくチャンスを逃してしまいました。
今日、慌てて、お供えのお餅だけを片付けたというワケです。
その時に家人が、このギザギザの紙の名前ってなんていうのとぼくに訊ねてきました。
というのも遊びにきた孫にきかれたというのです。
名前か。
確かによく見かけますね。
横綱のまわしにもついています。
神社のしめ縄なんかにもついてます。
結婚式で神主さんが左右に振るのにもついてます。
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どうも神事に関係するもののようです。
名前なんてあるのでしょうか。
さっぱり思い当たりません。
その瞬間、とっさに思い出したのが「幣」(ぬさ)という言葉です。
これは古文を教えていると出てくる単語です。
百人一首の中にもあるのです。
このたびは 幣も取りあへず 手向(たむけ)山
紅葉の錦 神のまにまに
学問の神様・菅原道真公の作った歌です。
幣とは何か
意味は次のようなものです。
—————————
今度の旅は急なことで、道祖神に捧げる幣(ぬさ)も用意することができませんでした。
手向けの山の紅葉を捧げるので、神よ御心のままにお受け取りください。
—————————
ここに出てくる幣とはなんでしょうか。
ご存知ですか。
この歌は彼を右大臣にまで取り立ててくれた宇多上皇が宮滝に御幸した時、詠まれた歌といわれています。
宮滝は現在の奈良県吉野郡吉野町です。
この御幸は盛大なものでした。
当然、道真もお供したのです。
急ぎの旅だったので、十分な準備ができなかったのですね。
当時は旅の途中に道祖神にお参りするという習慣がありました。
道端にちいさなお地蔵さんがあったりしますね。
旅の安全を祈願する大切なお守り神です。
そこに捧げるものが幣なのです。
しかし準備不足で持ち合わせていないので、色づいた紅葉を捧げますというのが歌の意味です。
吉野の山といえば、桜で有名ですが、紅葉も美しいところです。
旅の準備が不十分だったというお詫びの意味もこもっています。
それと同時に、紅葉の幣を道祖神に捧げるという道真の心のやさしさを表した歌ともいえます。
背後に紅葉の絶景がみえる美しい和歌ですね。
そのための小道具が「幣」なのです。
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当時は麻、木綿、紙などで作りました。
紙を四角に細かく切ってぬさぶくろに入れて持参したのです。
道祖神の神前で撒いたといわれています。
その後、紙を棒につけたものを用いるようになりました。
これは今も残っていますね。
神主さんが祈祷の時、左右にふるあの棒がまさにそれなのです。
御幣餅という食べ物を知っていますか。
まさにあの形からとった郷土料理です。
ギザギザの名前
そこまではわかったものの、やっぱり途方に暮れてしまいました。
こういう時は調べるしかありません。
なんとなく神聖な場所につけるものだということは想像がつきます。
全て神に由来するものばかりです。
横綱がしめるしめ縄にもあります。
相撲はかつて神に捧げる神聖な芸能の一種だったそうです。
そう考えると、結界を感じます。
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あのギザギサから向こう側には人間は入ってはいけないのでしょう。
よく噺家が扇子をきちんとお客様の前に横向きにします。
あるいは能楽師が謡曲をうたう時も、必ず扇子を前に置きます。
あれも結界を示すと聞いたことがあります。
入ってはならない領域であるという意味だそうです。
いよいよ名前が知りたいですね。
子供はなんでなんでと何を見ても素直に質問してきます。
世界は謎に包まれているのでしょう。
大人はわかったつもりで過ごしてしまうことが多いです。
考えてみればもったいない話です。
そこからぐんと成長できるのに、知ったかぶりはいけません。
紙垂(しで)
調べたらわかりました。
紙垂(しで)というのだそうです。
この音からぼくは幣原喜重郎(しではら きじゅうろう)の名前を思い出しました。
かつての日本の政治家です。
内閣総理大臣を務めた人です。
最初の「幣」の文字は「ぬさ」とも読みます。
全く無関係ではないのでしょう。
紙垂は、しめ縄や玉串、御幣などにつけて垂らします。
特殊な切り方をして折った紙のことなのです。
さらに調べると、紙の断ち方に3種類以上の流派があることもわかりました。
吉田流・白川流・伊勢流がそれです。
これには驚きましたね。
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世界はなんと深いことか。
本当に知らないことばっかりです。
あのギザギザには当然意味がありそうです。
単純に考えれば雷のいなづまでしょうか。
清浄に周囲を清めるという意味がありそうです。
1番最初に登場したのは古事記の天の岩戸伝承の中のようです。
雷は五穀豊穣を意味します。
日本は瑞穂の国ですからね。
豊かに稲が実るためには、清らかで豊かな水が必要です。
どんなことでもそこから調べていけば、実りがあります。
知らないことを怖れてはいけませんね。
これからも勉強を続けたいものです。
今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。