なよ竹のかぐや姫
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は日本最古の文学作品を味わいましょう。
その名は『竹取物語』です。
高校では特に冒頭の部分を勉強しますね。
日本人なら誰でも知っている話です。
作者はわかっていません。
きっと1人で書いたようなものではないのでしょう。
日本や中国の伝説などを巧みに取り入れています。
最後は月に戻る姫君の物語です。
それだけでロマンを感じますね。
9世紀末から10世紀にかけて出来上がったようです。
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主人公は「なよ竹のかぐや姫」と名づけられました。
なよ竹とは若くしなやかな竹のこと。
「かぐや姫」という名は光り輝く美しい姫という意味です。
竹の中から生まれて竹取の翁夫婦に育てられ美しい女性に成長しました。
成長のスピードがものすごく早いのです。
生まれた時はわずかに3寸。
10センチ足らずです。
それが成人するまでたった3カ月。
いかにも物語になりそうな設定ですね。
日本人は小さなものが好きですから。
ちいさいものはかわいいのです。
竹取の翁もこの女の子を見つけて後は、切る竹ごとに節の中から黄金をみつけるようになりました。
おとぎばなし
このあたりは子供の頃に本で読んだのではないでしょうか。
あるいはアニメで見たとか。
ジブリにもかわいいアニメがありますね。
家の中から外には出さなかったのに、噂はすぐ世間に広まります。
それほどの美貌の持ち主ということになれば当然年頃の若い男たちは黙っていません。
恋に身分の差なんて関係ありません。
1度も姿を見たことがないのに、噂だけで好きになっちゃうなどいうのはいかにも平安の世の話だなという気もします。
実際に相手をほんの僅か見ただけで恋をする話は『源氏物語』などにも出てきます。
俗に垣間見(かいまみ)と呼ばれています。
若い頃、光源氏が垣根越しに子供だった後の紫の上を見るシーンも有名ですね。
後半では、光源氏の息子・夕霧の友人、柏木が登場します。
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御簾がなびいた瞬間、源氏の妻、女三ノ宮を一瞬だけ見て忘れられなくなるというシーンがあります。
これが間違いの元でした。
不義の子、薫が生まれるのです。
一方の竹取物語は噂だけですからね。
レベルとしてはこっちの方がものすごい。
それだけフィクションに近い要素が満載なのです。
最終的に彼女は5人の貴公子の求婚に難題を出して退けてしまいます。
かぐや姫にはもともと結婚の意思はありませんでした。
自分の運命を悟っていたのです。
そこで手にいれることが不可能なものを持ってくれば結婚するという条件を出します。
案の定、貴公子たちは失敗を繰り返すことになりました。
冒頭の部分を少しだけ読んでみましょう。
原文
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。
野山にまじりて竹を取りつつ、よろづのことに使ひけり。
名をば、さぬきの造となむいひける。
その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。
あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。
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それを見れば、三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。
翁言ふやう、
「われ朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて知りぬ。子になりたまふべき人なめり。」
とて、手にうち入れて、家へ持ちて来ぬ。
妻の嫗に預けて養はす。
うつくしきこと、限りなし。
いとをさなければ、籠に入れて養ふ。
竹取の翁、竹を取るに、この子を見つけてのちに竹取るに、節を隔てて、よごとに黄金ある竹を見つくること重なりぬ。
かくて、翁やうやう豊かになりゆく。
現代語訳
今となっては昔のことですが、竹取の翁という者がおりました。
野山に分け入って竹を取っては、色々なことに使っていました。
名を、さぬきの造といったのです。
ある日、その竹の中に、根もとの光る竹が一本ありました。
不思議に思って、近寄って見ると、筒の中が光っています。
それを見ると、三寸ほどの人が、たいそうかわいらしい様子ですわっています。
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翁が言うことには、
「私が毎朝毎夕見る竹の中にいらっしゃるのでわかった。私の子におなりになるはずの人であるようだ。」
と言って、手の中に入れて、家へ持って帰りました。
そして翁の妻であるおばあさんに預けて育てさせたのです。
そのかわいらしいことはこのうえもありません。
たいそう幼く小さいので、籠に入れて育てました。
竹取の翁が竹を取るのに、この子を見つけてからのちに竹を取ると、節を隔てて竹筒ごとに黄金の入っている竹を見つけることがたび重なったのです。
こうして翁は、だんだん富み栄えていきました。
昇天
その後は波乱万象の物語が続きます。
帝の求愛さえも断って、8月15日の夜、天人に迎えられて月の世界に昇天していくのです。
天人たちが空飛ぶ車とともに下りてきて空中に浮かんでいます。
この世のこととも思えぬ様子に、帝が派遣した兵士たちも戦う気を失ってしまいました。
そして人間の心を失わせるといわれる天の羽衣を着て、不死の薬を飲むのです。
翁と媼は悲しみのあまり、かぐや姫の残した不死の薬を富士山の山頂で焼かせます。
富士を不死と掛けたのでしょう。
ストーリー的には求愛の場面で驚かせ、ドキドキさせてから一気にしみじみとしたシーンに移ります。
うまくできた物語ですね。
5人の宝物探しの話が面白くて昔の人はきっと読み始めたらやめられなかったでしょうね。
しかしこの部分は学校ではあまり扱いません。
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大変にスリリングではありますが、少し長いのです。
ちなみにどんなものを注文したのか。
石作皇子には仏の御石の鉢
車持皇子には中国にあるといわれている蓬莱の玉の枝
右大臣阿倍御主人には中国にある火鼠の裘(かわごろも)
大納言大伴御行は竜の首についている光る玉
中納言石上麻呂足には燕が持っているという子安貝
まさにミッション・インポッシブルです。
どれも結局ダメ。
この世の記憶を最後にすべてなくし、かぐや姫は天に上っていくのです。
なんとも悲しい結末ですね。
チャンスがあったら、ちょっと読んでみてください。
なんといっても日本最古の物語です。
いい勉強になりますよ。
今回も最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。