【先達はあらまほし】愚人の行動は小説よりも奇なり【徒然草52段】

知らない

みなさん、こんにちは。

ブロガーのすい喬です。

今回はなんにも知らないとこういうことになるという話をしましょう。

これはぼく自身のトホホな事件の顛末です。

数年前のことでした。

知人からシャコバサボテンの大きな鉢をもらったのです。

クリスマスの少し前でした。

赤い花が見事でしたね。

御存知ですか。

一日の日照時間が短くなってくると蕾を形成することで有名です。

別名、デンマークカクタスとかクリスマスカクタスなどと呼ばれています。

それほどに値段の高い花というワケではありません。

しかしボリュームのあるものだと、かなり豪華です。

茎の節ごとに一対の突起があります。

この形がシャコの身体を想わせるところからこの名前がつきました。

見ればみるほど不思議な形をしています。

名前からわかるとおり、サボテンのような堅い葉の先から赤やピンクの花芽が出るのです。

冬になり始めるこの時期の花としては、実にポピュラーなものです。

どの花屋さんの店先にもかならず置いてある手頃な価格の花だといえますね。

その年は実に見事に咲きました。

ベランダに置いておいても、家の中に飾っても迫力があります。

花の色も鮮やかなのです。

あまり水をやらなくてもいいので、日当たりのいいところへ置いてさえおけば、かなり長く楽しむことができます。

その翌年

問題はその翌年のことです。

なんとかもう1度立派に咲かせたいとちょっと欲張り心が出ました。

シンビジュウムやシクラメンなども時々買いましたが、翌年までもったことがないのです。

そこでこれだけはと意気込んでみたと想像してください。

本を参考にしようと思いました。

これはごく正常な行動ですよね。

誰もが考えることです。

さっそくシャコバサボテンの本をあちこちの本屋で立ち読みしました。

それによると、この花は短日植物といって昼の時間が短くなり始めると、花芽がつくと書いてありました。

とにかく昼の時間がだんだん少なくなるあたりから、咲く準備が始まるのです。

よく考えてみると、あんなサボテンの先から、花が咲くなんて不思議です。

秋になったら箱などをかぶせ、夜はなるべく暗くするといいとありました。

なるほど、短日ということは、つまり早く暗くしちゃえばいいワケです。

シャコバサボテンはああ、冬が近づいてきたのだと早合点して花芽をせっせと作り出すのです。

これはニワトリに早く卵を産ませるのとおんなじ方法です。

ニワトリは電気で明るくすれば、朝がきたと思って卵をどんどん産むのです。

そこでさっそく「花芽製造器」と秘かに名づけた段ボール箱を毎夕、鉢にかけることにしました。

これが結構大変な仕事だったのです。

1日でも明るい日があると、花芽がうまくつかないと解説書には書いてあります。

そこで、ぼくは本当に真剣になって毎日お手製の花芽製造器を大切な鉢にかぶせ続けました。

するとどうでしょうか。

しばらくしてかわいい芽が堅い葉の先に出てきたではないですか。

奥様も喜んだ

家人もそれはそれは喜んでくれ、ついにその年もみごとな花を楽しむことができたのです。

これは本当に嬉しかったですね。

その翌年にはついに鉢まで大きなのに換えました。

専用の土まで買いこんで、全部入れ換えたりしたのです。

立派になって大きな花を咲かせてくれるのを夢見ました。

と、ここまでは大変結構な話です。

なんとなく心温まりますね。

しかしこれには当然後日談があるのです。

ある折、「花芽製造器」の話を知人に話したら、大いに笑われてしまいました。

「そんなことしなくたって、外に出しっぱなしにしときゃあ、勝手に咲くよ」とその人は実に屈託のない表情で話をしたのです。

「だって暗い時間を長くしないといけないって本に書いてあったんですけど」

ぼくはきっと不満そうな顔をしていたのかもしれません。

「それは業者の話でしょ。外は暗いから、夜はね。平気だからそのまま放っておいても。

嘘じゃないから、なんともないって」

実にアッケラカンとした口調でした。

あまり反論するのもおかしいので、その時はああそうですかと言って引き下がりました。

半信半疑ではありましたけれど、その年はベランダに出したままにしておいたのです。

すると最初の心配などはどこへやら。

ちゃんと見事な花芽がつくではありませんか。

これには本当にガッカリしました。

あの数ヶ月の奮闘はなんだったんでしょうか。

徒然草52段

この話をしたら、奥様はなあんだという実にぼくをバカにしたような目で見たのです。

それからぼくの園芸に対する信用はがた落ちになりました。

せっかく専用の肥料を買ったりして、隋分と丹精込めて可愛がったんですがね。

結論からいえば、花芽製造器なるものは不要でした。

ただの段ボールの箱にしかすぎません。

でも時間を見て、毎日かぶせたのです。

ちょっとショックでした。

周囲にテープを貼って頑丈にしたのに。

光が漏れてはいけないので、とにかく真っ暗になるように形を整えたりもしました。

AbsolutVision / Pixabay

この鉢はその後毎年、なんにもしなくても実に美しい花を咲かせ続けています。

冬、何も花がなくなる頃に赤い見事な花をつけてくれます。

シクラメンと並んで、冬の大切な植物です。

最近ではクリスマスローズもあちこちでみかけるようになりました。

しかし色合いがおとなしいですけどね。

人間、無知というのはおそろしいものです。

「先達はあらまほしき」というのは昔からの言い伝えです。

1番有名なのはなんといっても『徒然草』の52段です。

高校で必ず習います。

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仁和寺にある法師、年寄るまで、石淸水を拝まざりければ、心うく覚えて、ある時思ひ立ちて、たゞひとり、徒歩よりまうでけり。

極樂寺・高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり。

さて、かたへの人にあひて、「としごろ思ひつること、果たし侍りぬ。聞きしにも過ぎて

尊くこそおはしけれ。そも、参りたる人ごとに山へ登りしは、何事かありけん、ゆかしか

りしかど、神へ参るこそ本意なれと思ひて、山までは見ず」と言ひける。

すこしのことにも、先達はあらまほしき事なり。

口語訳

仁和寺にいた、ある法師が、年をとるまで石清水八幡宮をお参りしたことがないことを情

けなく思い、ある時思い立ち、一人、徒歩でお参りにいきました。

山麓の極楽寺と高良神社をお参りし、八幡宮へのお参りはこれだけだと思い込み帰路の途についたのです。

帰ってから傍輩に向って、「ずっと心に思っていたお参りを果たせてよかったです。聞い

ていた以上に尊さを感じました。ところで、他の参詣者が皆、山へ登っていきましたが、

何か山上にあったのでしょうか。行ってみたいとは思いましたが、お参りすることが目的

なので、山上までは見に行きませんでした」と言った。

小さなことにも、案内人や指導者は欲しいものです。

昔も今もいい加減な知識で何かすると、とんでもない失敗をしちゃうのです。

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基礎基本だけは最初にちゃんと教えてもらわないとダメですね。

付け焼刃ははげやすいの譬え通りです。

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

【徒然草53段・仁和寺の法師】中世における滑稽話の最高傑作
徒然草53段に出てくる仁和寺の法師の話は実に滑稽です。酒の席で調子にのりついそばにあった鼎を頭からかぶってしまいます。それが抜けなくなって大変なことになったのです。最後は耳がちぎれてもいいから抜けということでした。笑い話ではすまされませんね。
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