【薬草・三島柴胡】漢方の生薬を確保するのは今や国家的プロジェクト

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絶滅した三島柴胡

みなさん、こんにちは。

ブロガーのすい喬です。

今回は漢方薬のお話です。

通勤の途中で時々ラジオを聞くことがあります。

今日はたまたま、相模原市の小学校の生徒が登場していました。

内容は三島柴胡を育てようというものです。

最初に「ミシマサイコ」と言われても、なんのことか全くわかりません。

はじめて聞く言葉でした。

よく聞いているうちにこれが「三島柴胡」という草の名前だということがわかりました。

かつては相模原の台地に生えていた薬草の一種らしいのです。

菜の花を小ぶりにしたような黄色い花をつける草です。

それが今では絶滅寸前だとか。

なぜそんなことになったのか。

この草の根に薬効があり、それを知って皆が掘り取ってしまったとか。

最初「サイコ」から「柴胡」に頭の中で変換できませんでした。

しかし「柴胡」と名前のつく漢方薬ならいくつか知っています。

柴胡桂枝湯、柴胡清肝湯、柴胡加竜骨牡蛎湯などです。

ぼくが今飲んでいる漢方薬にも柴胡は使われています。

柴胡はセリ科の草で根に効能があります。

悪寒と熱が交互におこる症状や腹痛、みぞおちの緊張などを和らげるのです。

薬効については江戸時代の人もよく知っていたようです。

この草の根を干して薬として利用しました。

そんなことが続いて、ついに三島柴胡はみな掘り取られてしまったのです。

小学生たちの願い

その三島柴胡を復活して増やしたいというのが、小学生たちの訴えでした。

草の名前を知らないくらいですから、存在など気にとめたこともありません。

そんなのがあるのかというのが、正直な感想です。

まさか自分が毎日その薬草の根を服用しているとは知りませんでした。

種をまけばいいじゃないかという話になります。

しかしこれがなかなか厄介で、種がみつからなかったとか。

やっとわずかに咲いているのを探して、そこから種をとりまいてみました。

しかし他の草よりも生命力が弱いので、きちんと手入れをしないと生育しないらしいのです。

なんとか多くの人に知ってもらって、日本中に三島柴胡の花を咲かせたいということでした。

いい話です。

しかしよく調べてみると、漢方の生薬の話は今の日本の大きな問題だということもわかりました。

江戸時代,全国的に生産されるようになったこの薬草は,静岡県三島が良質な柴胡の大集荷地であったため,三島柴胡と呼ばれました。

しかし近年になって野生のミシマサイコはほとんど消滅し,今日ではもっぱら栽培品が主です。

とれるのは関東地方以西で四国,九州が代表です。

ところが品種が絶滅しないでよかったと単純に喜べない事情もあります。

今や、漢方薬に対する需要は伸びる一方です。

高齢化社会の典型的なパターンですね。

慢性の病気にはやはり漢方薬がよく効くのです。

現在150種類くらいの薬が保険適用になっています。

保険適用されている漢方薬の価格は、国が決める公定価格です。

実は、生薬を仕入れるときの価格は高騰しています。

しかし一方で、保険における薬価は逆に徐々に引き下げられているのです。

窓口での支払いは、他の薬と同じように自己負担割合に応じその1~3割の額で済みます。

経験のある人もいるでしょう。

漢方専門薬局で買うととても高いです。

保険で処方されたものの方がかなり安く手に入ります。

もちろん、自由に配合してもらって自分に最もあう薬を手に入れたい人はかなり高価なものを買うことになります。

栽培農家の現状

ところで国内の栽培農家はどうなのでしょう。

生薬の生産農家は減少しています。

答えは単純明快です。

生産コストに比べて流通価格が低いのです。

医療用生薬・医療用漢方製剤は薬価で販売価格を抑えられているからです。

つまり高くしすぎてしまったら、だれも漢方薬には手を出せなくなる。

今では当たり前のように医者で処方されますが、あれをもし薬屋さんで買ったらとてもじゃないけれど、毎日飲むなんてことはできません。

となると、コストを下げさるを得ません。

当然安い輸入生薬や低級な原料を使用することになります。

それでなくても生産者が減少しているのです。

日本の生薬市場は中国のパワーに完全に左右されることになりました。

今では90%以上が全て中国からの輸入品です。

それを日本の製薬メーカーが調剤し梱包しているのです。

国内の農家は生産コスト割れで生産意欲を消失してしまいました。

これは三島柴胡だけの問題ではありません。

有名な薬、葛根湯

葛根湯は風邪の初期に効果がある大変に有名な薬です。

しかしこれにも実に7種類の生薬を使います。

葛根(カッコン)麻黄(マオウ)大棗(タイソウ)桂皮(ケイヒ)甘草(カンゾウ)

芍薬(シャクヤク)生姜(ショウキョウ)です。

7種類というと、多いような気がするかもしれません。

しかしこれはごく普通のブレンドのパターンです。

多いのになると、10~15種くらいの生薬を使います。

植物の根、実、葉、皮などから牛、豚の皮、骨、腱、蝉の抜け殻まで、ありとあらゆる者が漢方薬の対象になります。

大型哺乳動物の化石化した骨、牡蠣、熊の胆汁なども利用します。

Photo by leoncillo sabino

考えられる全てのものが薬になるのです。

どうしてこれがというものも、上手にブレンドすることで、大変な薬効を持つ薬に変身します。

まさに中国4000年の知恵といった方がいいかもしれません。

全て輸入に頼るということの怖さは石油を考えれば、誰にでもわかります。

ホルムズ海峡を封鎖されたら日本のエネルギーが止まるのです。

さらにアメリカと中国の貿易摩擦にみられるパターンを思い出せばいいでしょう。

ファーウェイのスマホにグーグルのソフトが入れられないなどという想像もできないことが現実に起こっています。

そこへもってきて、漢方の生薬が輸入できないとなったらどうなるでしょうか。

レアメタルと同じ構図です。

怖いことですが、たとえ輸入ができたとしてもさらなる価格の高騰はあり得ます。

中国市場でも漢方に対する需要は伸びる一方です。

中国も高齢化社会を迎えています。

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事情は日本とかわりません。

食料品の自給と全く同じ構図なのです。

朝、全く聞いたこともなかった三島柴胡の花の名前から、随分と遠くまで来てしまいました。

しかしこれがまぎれもない現実です。

今や、この問題は完全に国家的なプロジェクトになっています。

漢方薬とジェネリックという発想は馴染みません。

一方で薬価を下げつつ、しかし日本の生薬栽培農家を増やして自給生産への道を広げなければならないのです。

この話はけっして他人事ではありません。

今日も病院では漢方薬が処方され続けています。

ぼくたちはどうしたらいいのでしょうか。

三島柴胡の話だけではすまないのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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