スマホの時代
こんにちは。
アマチュア落語家でブロガーのすい喬です。
ここのところ毎日落語のことばかり書いています。
頭がどうかしちゃったんじゃないかと心配してくださる方は、まさかいませんね。
それでいいんです。
それがあたりまえです。
令和に入ってから、実にせわしなくなりました。
毎日、たくさんの情報が飛び込んできます。
以前は新聞、ラジオ、テレビなどマスコミからのものが圧倒的でしたけど、今はそんなことを言ってられません。
なんといっても生活のスタイルが劇的に変化しました。
一番はスマホです。
![Photo by kaboompics ネット photo](https://suikyoblog.com/wp-content/uploads/2019/06/51e9d443485bb114a6da8c7ccf203163143ad8e55557724d702b_640_ネット.jpg)
ほんの数年前には、こんなものなかった。
みんなガラケーだった。
それが瞬く間に普及し、みんな突然コンピュータ人間になってしまったのです。
実にガチャガチャした世の中なのです。
距離も時間も全く関係なくなりました。
メッセンジャーやライン、メールを通じて、動画、音声が全世界から容赦なく届きます。
それが現代です
まさに令和の時代です。
さてそういう世の中をどうやっていきていけばいいんでしょうか。
これは難問ですね。
与太郎が令和の理想のモデル?
ところで、今までにいくつの落語を覚えてきたのか。
自分でもよくわかりせん。
稽古した噺は100ぐらいはありますかね。
覚えているのは30ぐらい。
すぐにここでやれと言われたら、さて幾つかな。
アマチュアの悲しさで、毎日高座で喋っているわけではありませんし…。
そんなに突然スラスラと出てはこないのです。
さて、レパートリーの中で、何の噺をした後は心持ちがいいのか。
これも難問です。
怖い噺も好きだし、お相撲の噺も、長屋の噺も好きです。
しかし喋った後にふわっとした柔らかな気持ちになれる噺というのがあります。
それが「与太郎噺」なんです。
ところで与太郎って誰?
落語家が一番最初に話す決まり文句というのがあります。
それをご紹介しましょう。
落語の方に出てまいりますのは、長屋の八っつぁんに熊さん、大家さん、横丁のご隠居さん。
人のいいのが甚兵衛さん、馬鹿で与太郎と相場が決まってます。
この最後にでてくる与太郎が今回の主役なんです。
馬鹿で与太郎というと、なんとなく響きがああ、そうかなあと思いますけど、いったいどんな人なんでしょう。
与太郎さんは言葉のイメージの通りです。
自分の子供に与太郎という名前をつける親はどれくらいいるんでしょうか。
辞書でひいてみました。
与太とは…
1 愚かで役に立たないこと。また、そのさまや、そのような人。
2 いいかげんなこと。でたらめなこと。また、そのさまや、そのような言葉。
3 素行のよくない人。
これじゃあ、大事な子供には絶対につけませんね。
![Photo by Qiuyang 女 photo](https://suikyoblog.com/wp-content/uploads/2019/06/57e8d04b4f54a914ea898675c6203f78083edbe35357774b742c7d_640_女.jpg)
与太郎さんは例外なくぼんやりした人物として描かれます。
性格は呑気そのもの。なにをしても失敗の連続です。
周囲の人が心配してくれますが、格別にありがたいとも思わない。
いつもフラフラしてます。
でも与太郎の登場する噺はいずれも楽しいものが多いのです。
いろんなパターンの与太郎さんがいますが、だいたい独り者です。
定職もなく、「大工調べ」だけは腕のいい職人という設定になっています。
しかし完全なばかというわけではありません。
「牛ほめ」 左兵衛叔父さんがいろいろと心配をしてくれます。
「ろくろ首」 兄が登場します。自分もお嫁さんが欲しくなり、大家さんに相談します。
「錦の袈裟」 おかみさんが登場。実にしっかりもので、亭主の与太郎を吉原の遊びに行かせる時に恥をかかなくていいように、お揃いのふんどしの誂えまでします。しかしそのふんどしが実はお坊さんが身につける袈裟だったのです。
その他に「かぼちゃ屋」「道具屋」などなど…。
与太郎は商売をさせてやろうする叔父さんたちの涙ぐましい世話を、全てご破算にしてしまいます。
実に頼りなく、それでいて憎めないのです。
与太郎とは何者か
与太郎は失敗ばかりします。
![Photo by qimono 失敗 photo](https://suikyoblog.com/wp-content/uploads/2019/06/57e7d44a425bae14ea898675c6203f78083edbe35752794c712772_640_失敗.png)
しかし愛されているんです。
そこがただの失敗話とは違います。
相手の懐に完全に飛び込んでしまっている。
そうして相手に安心感を与えます。
どんなに失敗しても、しょうがねえなあと許してもらえる。
憎めない愛嬌のある男です。
人間、ここまでになりきれば、どんな時代の荒波でも乗り切れるんじゃないでしょうか。
しかし、なぜなんでしょう。
なぜ、与太郎にだけそれができるのか。
立川流元祖家元、立川談志は、「彼はばかじゃない」という定義をしました。
ただの「非生産的なやつだ」と言ったんです
こんな人なら憎めないじゃないですか。
与太郎みたいな言動をする人がいたらどうなりますか。
周囲の人間はどうでしょう。
受け入れてあげなよ。効率優先ばかりが人生じゃないよ。
スマホの使い方なんか知らなくても、親孝行ならいいじゃないか。
そう落語は言っているわけです。
今の時代にふっと風穴をあけてくれるような人物じゃありませんか。
友達の中に一人くらいはいてもいいんじゃないのかな。
道具屋のあらすじ
与太郎が叔父さんに呼ばれます。
おまえも三十過ぎてんだ。いつまでも遊んでいちゃあいけない。何か商売をしろ。
商売はいろいろやったよ。
ほお、何をやった。
飼ってた伝書鳩を売ったんだ。
うまくいったのか。
売っても相手が放すと戻ってくるから、また売って、それもまた帰ってくる。
で、一羽あればずっと儲かると思ってね…。
どうだった。
結局、買って放したら元の鳥屋にもどっちゃった。
呆れた叔父さんが商売をやらせてあげることになります。
おじさんの商売知っているよ。
頭にどの字が付くだろ。
![Photo by 3D_Maennchen 泥棒 photo](https://suikyoblog.com/wp-content/uploads/2019/06/55e9d2434b55a814ea898675c6203f78083edbe35752794c732b7b_640_泥棒.jpg)
えへへ、ドロボウだろう。
バカだな。どが付いたって道具屋だ。そんな事、世間様には言わないだろうな。
少しだけ。
道具屋と言ってもガラクタばかりを扱う叔父さんの商売モノは、お雛様の首が抜けるのや、火事場
で拾ってきたノコギリ、ボラがそうめんを食べているかと思う、鯉の滝登りの掛け軸のようなもの
ばかり。
元帳があるから、それより高く売れたら、儲けの分はお前のだ。
蔵前の伊勢屋さんと言う質屋さんの裏のレンガ塀のところだ。今すぐ行ってこい。
蔵前に来ると「神田三河町の杢兵衛のところから来た、与太郎さんだ」と自己紹介して仲間に入れてもらいます。
脇に薄縁を敷き、値段の高いのは自分の回りに、立てかける物は後ろの塀に品物を並べたが客は来ません。
やがてお客が来ます。
![Photo by coffeebeanworks お客 photo](https://suikyoblog.com/wp-content/uploads/2019/06/55e1d7444350a414ea898675c6203f78083edbe35752794c722b79_640_お客.jpg)
お二階へどうぞ。
どこに二階があるんだ。
などとトンチンカンな応対。
そこのノコ見せろ
ノコってタケノコ ノコにある。アッこれノコギリか、ギリ(義理)を欠いちゃいけません
これは甘いな、焼きが生だな。
そんなことはないですよ。おじさんが火事場で拾ったんだからよく焼けてます。
最初から失敗の連続です。
やがて次のお客が来ます。
そこの唐詩選を見せなさい。
これはあなたには読めません。
失礼なこと言うな。読めるよ。
読めません。それは表紙だけですから。
短刀をみせな。
その白鞘の短刀だ。
銘はあるか。
めいは神田に住んでます
サビ付いていて抜けないな。
手伝え。
一生懸命二人で引き合うが抜けません。
抜けないはずです。木刀ですから。
木刀なのに何故手伝う。
いちおう、顔を立てて。
顔なんかイイ。なにか抜けるものはないのか。
お雛様の首が抜けます。
落語は暢気でいいですね。
最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。