生成AIとコンクール
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今日(6月6日)の朝日新聞朝刊をお読みになりましたか。
タイトルは「作文コンクールAI警戒」というものでした。
夏休みによく実施される作文コンクールの話です。
その応募作の中に、ChatGPTを使った文章がまじるようになったというニュースなのです。
近年、生成AIを使って文章を書くということが、ごく当たり前のことになりつつあります。
簡単な文章なら、数分間もあればそれらしい内容に即した文ができあがってしまうのですす。
1度使ってみたことのある人なら、すぐに理解できますね。
夏休みに小中高生らが取り組む作文などのコンクールの主催者側が、戦々恐々としているという話が新聞に載るようになりました。
ChatGPTの存在感のすごさです。
文章や画像などを瞬時に作り出す人工知能の能力を軽んじてはいけません。
昨年度、小中高生から260万以上の応募があった「青少年読書感想文全国コンクール」では、生成AIを使った作品が10作以上あったという話です。
なんだそれだけかと思う人もいるでしょう。
割合にしたらまだわずかなものです。
しかし夏に行われるコンクールはほぼ無数にあります。
最近は必ず注意書きのなかに、生成AIを使った文章は審査の対象にしないという文があるくらいです。
昨年はChatGPTの不適切使用が相次いだコンクールもあり、主催者側も頭を悩ませました。
公益社団法人全国学校図書館協議会によると、児童生徒は在籍する学校を通じて応募してくるそうです。
在籍校の教員が読んで疑いを抱き、生徒本人に尋ねたところ、生成AIの不適切使用を認めたケースがかなりあったという話です。
生成AIを使った授業
学校によっては、生成AIを利用して書かせることを授業の中で実践しているところもあります。
ChatGPTの書いた文章と、自分のものとを比較して検討することで、言葉の語彙や表現の使い方などを学ぶのが主目的です。
オリジナリティの大切さや、いかに自分の体験を織り込んで文章を書くことが意味を持つのかということなどを、その際に学ぶのです。
一般に小論文は導入、経験、理由、結論が大切だといわれます。
これは作文コンクールなどでも全く同じです。
一般論から結論に入っていくことは必要ですが、そこに自分らしさがなければ、文章が光りません。
生成AIがつくる文との差を知るためには、意味のある実践だと感じます。
事実、コンクールの担当者によっては、生成AIは使い方によっては教育的な効果があると考えている人もいます。
そのため一律禁止とはしていないケースもあるのです。
応募要項の禁止事項も「盗作や不適切な引用」を禁じるとしている場合が多いです。
コンクールの主催者側は、自分のことばで書くという読書感想文の本質を保持していれば、それ以上に細かいことは言わないというスタンスのところもあります。
しかし今の状態がさらに続けば、今後はもっと審査が困難になるでしょう。
精度も確実にあがります。
どこまでが、本人の書いたものなのかを峻別するのは困難になるに違いありません。
その時に、今と同じ基準でいられるのかどうか。
それも大きな問題です。
入試への応用
今後、問題になるのは生成AIを大学入試などでどう扱うか、についてです。
年内入試ではやく合格を決めたい学生にとって、総合型選抜(旧AO型)は魅力的です。
選抜の方法は探求型の研究テーマを論文化することです。
自分でみつけた内容を、どう発展させ、今後何に活用したいのかをある程度のまとまった字数書くのです。
試験の内容は、この提出論文と面接だけというのがほとんどです。
高校時代の成績を添付する場合もありますが、学校間の格差があり、大学が指定する推薦入試と違い、判断が大変に難しいのです。
そこで使われる可能性のあるのが、ChatGPTのような生成AIです。
総合型選抜では特に書類選考が大きなポイントになるのです。
学校推薦型選抜でもそれは同様です。
試験場で書く問題の他に、あらかじめ決められた課題を提出するケースもあります。
現在、50%以上の受験生が、この試験で大学への合格を決めているのです。
すごい割合だと思いませんか。
今後も入試の形態が変わっていくことは、容易に想像できます。
小学校の時からタブレットやパソコンを使い慣れている生徒にとって、生成AIへの道は、きわめて近く魅力的です。
自分が探求してきた内容を、具体的に入力していけばいくほど、ChatGPTは流暢な日本語で、わかりやすい文章を組み立ててくれます。
この提出論文を読むのは誰か。
当然、試験官でもある、その大学の先生方でしょう。
彼らにコンテンツとして、文章の内容を読み取る力はあっても、文章の流れをチェックする力があるのかどうか。
やはり文体よりも、内容を重視する傾向が強いのではないでしょうか。
特に専門性のあるコンテンツであれば、その比重が高くなると思われます。
それが1番懸念されます。
最後は面接
生成AIツールを使ったかどうかを判定するソフトは、まだ発展途上です。
多くの企業が開発にしのぎを削っています。
しかし十分な性能のものは、まだ出来上がっていません。
ある程度のレベルのものの登場は、数年後でしょう。
それまでは採点者の勘に頼ることになるはずです。
現在の流れからいえば、学術の世界では生成AIの使用を認めたうえで、どの部分でその能力を使用したのかというこを自己申告することになっています。
特に権利上の問題を正確に捉えようとする方向になっているのです。
生成AIはどこまでいっても、一般論を重視する傾向のものが多くなります。
そこに自分の経験や考えを散りばめて、整合性をとれるだけの筆力があれば、鬼に金棒ですね。
このことは、自己申告書でも同様のことがいえます。
志望理由書なども、ある程度文章技術のある生徒なら、確実にクリアできるのではないでしょうか。
ところで、生成AIを使いこなす高校生が多く現れると、入試において、最後のチェックポイントはどこになるのか。
おそらく面接がそれにあたるでしょう。
総合型や学校推薦型選抜に力を入れる大学では、ここが最後の正念場になりそうです。
よほど正確に、その人物の持つ能力を正確に把握しないと、論文だけの内容で合否を決めてしまうことになってしまいます。
ぼく自身、面接を何年もしてきた経験からいうと、短い時間で、その受験生の力量を見抜くのは大変難しいと感じました。
当然、探求型論文の内容とリンクさせて、質問をすることが重要な見極めポイントになるでしょう。
しかし受験生が、生成AIを使ったのかどうかを判断するのは至難です。
指定校推薦の場合は、高校での活動内容をある程度捕まえていないと、厄介かもしれません。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。