過去問を分析する
みなさん、こんにちは。
小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。
ここまで数回にわたって高校入試の小論文について説明してきました。
内容を理解していただけたでしょうか。
最初に言っておきますが、小論文攻略はそれほど簡単な話ではありません。
ある程度のレベルまで達するには、かなりの時間がかかります。
文は人なりとはよくいったものです。
人間の成長と比例して、文章もその形を整えていくのです。
だからといって、それをいつまでも待っているワケにはいきません。
スキル向上のためのメソッドを身につけなくてはならないのです。
入学試験の基本はまず相手を知ることです。
実際、どんな問題が出るのか知りたいですね。
この春に受験した生徒たちはどんな問題にチャレンジしたのか。
過去問を徹底的に分析する必要があります。
幸い、入試問題をかなり手にいれることができました。
いくつかご紹介しましょう。
しかしさらに詳しい内容は各学校のHPや、業者の資料にあたる必要があります。
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学校説明会に行くと、その場で配布されるケースもあると聞きます。
学校の進路の先生に訊ねてください。
過去数年分の問題がファイルしてあったりもします。
先生にお願いして、コピーさせてもらうのも1つの方法ですね。
もちろん、塾で配布されるということもあるでしょう。
手段はなんでもかまいません。
とにかくあらゆる手をつくすことです。
今回は都立高校でこの春に実際出題された問題について考察します。
内容は多岐にわたりますが、全く歯が立たないという問題はありません。
ことばや社会の情勢について
具体的に問題をみてみましょう。
いくつかの高校で言葉についての問題が出されました。
この流れは2021年度も続くと思われます。
立川高校では全く内容の違う問題が毎年2問出題されます。
そのうちの第1問目がことばとの関係を問うものでした。
「情けは人のためならず」という言葉の意味は、つぎのどちらだとあたなたは思いますかというものです。
① 人に情けを掛けておくと、巡り巡って結局は自分のためになる。 ② 人に情けを掛けて助けてやることは、結局その人のためにならない。
この問題とからめて、この慣用句の使い方を間違える人が多いという日本人の価値観について課題文は言及しています。
![](https://suikyoblog.com/wp-content/uploads/2019/10/分析_1571471852-1024x340.jpg)
設問は「教育の在り方を見直した方がいいかもしれない」という課題文の内容を説明し、これからの教育はどうあるべきかを論じなさいというものです。
ただし条件があります。
① 学校生活での経験を踏まえて書くこと。
② 授業という観点から考えを書くこと。
③ 300字~360字以内で、論の展開に応じて段落分けを行うこと。
出典は大竹文雄『競争社会の歩き方』です。
制限字数はわずか360字です。
正直にいえば「起承結」の3段構成を使うことも厳しい状況です。
最初のことわざの扱いを間違えたら、そこでアウト。
さらに言葉の問題と教育の在り方を経験に即して扱わなければなりません。
第2問目は資料問題です。
資料が4つ提示され、そのうちの1つは棒グラフです。
内容はキャッシュレス社会に関してのテーマです。
設問が2つに分かれています。
設問1は資料を4つ読み取り、日本におけるキャッシュレス社会の現状について分析をしなさいというもの。
設問2はキャッシュレス社会を推進するためにはどうしたらよいのかという考えを訊くものです。
日本においてキャッシュレス支払いが普及しにくいという背景を踏まえながら、今後の展望を示せというのが全体の主旨です。
中学生にとってこのテーマはどの程度の理解力を示せるものなのでしょうか。
キャッシュレスという、あまり馴染みのない話です。
ほとんどの生徒は考えたこともないテーマなのではないでしょうか。
この分量で試験時間は50分です。
かなりの難問ですね。
進路指導重点校としての位置をキープするために、どういう問題を出したらいいのか。
先生方の苦労が見えるようです。
環境問題は必須
富士高校の問題は典型的な資料読み取りでした。
内容も地球の未来を守るために、接続可能な発展の方向性を探るというものです。
直球に近いコースから投げられた問題といえるでしょう。
問題は4つの資料から成り立っています。
そのうちの2つが世界地図です。
森林面積の減少量が示された地図と、哺乳類の分布図です。
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さらに3つ目の資料は『地球の未来を守るために』という学者による提言。
4つ目は世界が守るべきアジェンダを17のトピックに分けたものです。
特に学者の提言による3番目の資料は内容が複雑です。
使われている言葉もかなり難解です。
そのための別注があるほどです。
例をあげてみましょう。
土壌侵食率、遺伝子的損失、減耗率、臨界性、自由財など。
さらにこの問題には解答の際、書式の条件があります。
問1は資料1と2を使い120字以内で熱帯地域における特徴を読み取ること。
問2は資料3を利用して「接続可能な発展」について120字以内でまとめること。
問3は「接続可能な発展」に向けて現在の日本における問題と解決策を具体的な見聞を含めて、420~540字以内でまとめることとあります。
最後の問3が主問と考えていいのではないでしょうか。
実に噛み応えのある問題です。
相当、このテーマについて勉強していないとうまくまとめきれないでしょう。
書式の条件も、数字は漢数字のみ、かぎかっこなどはすべて1字扱い、「%」の表記以外は認めないとあります。
この問題のレベルなら大学受験用に出しても十分に通用します。
受験生諸君は相当に苦しんだのではないでしょうか。
事前の勉強が絶対に必要なパターンの問題だといえます。
ちなみに検査時間は1時間でした。
自己への関心を持つ
その他、数校見た中で日野台高校の問題に「温故知新」という言葉から現代社会の問題を取り出し、学ぶべき過去のできごとや考え方を探りなさいというのがありました。
今後の取り組み方がどの程度具体的に、なお自分の問題として捉えられるのかという点が大きなポイントだと思われます。
同じように南平高校では数学者、森毅の失敗談を綴ったエッセイが登場しました。
課題文を読んで、今までの経験の中から「失敗から学んでうまくいったこと」「失敗から学んだこと」というタイトルで書きなさいというものです。
これからの学校生活に自分の「失敗」をどのように生かしていくのかが大きな評価ポイントでしょう。
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501~600字という典型的な字数の問題です。
こういうテーマはよく出題されますが、侮ってはいけません。
きちんと「起承結」のルールを守って、字数のワクを頭の中に描きながらまとめなくてはいけません。
いい気になって失敗談を書いていると、すぐに字数がなくなります。
どこまで書くかではないのです。
何を書かないかを決めることが1番大切です。
町田高校では岩波ジュニア新書からの文章がでました。
この新書は是非多くの生徒に読んでもらいたいです。
出典は清水真砂子『大人になるっておもしろい』です。
第1問は「自信」についての筆者の考えを150字以内でまとめる。
第2問はあなたの自信についての考えをこれまでの経験や見聞を元に400字以内で書きなさいというものです。
![](https://suikyoblog.com/wp-content/uploads/2019/06/57e9d3424f51aa14ea898675c6203f78083edbe35253744c742773_640_明るい.jpg)
最初の問題でポイントをしぼらせ、次の問題へ進むという典型的なパターンの構成です。
60分の中で少し長めの文章を読ませてから書くという、いい問題だといえます。
特に自己肯定感が薄いと言われる世代に向けてのテーマといえるでしょう。
以上、いくつかの都立高校の問題を見てきました。
2021年度の問題として考えられるのは新型コロナウィルス禍の後の世界のあり方です。
人々の「生」に対する認識にも大きな変化がもたらされつつあります。
今後もさらに変容を重ねることは間違いありません。
この論点については別の記事で書くことにしましょう。
いずれにせよ小論文のテーマ、難易度は各学校によってバラバラです。
自分が受験したい学校の過去問を知ることがいかに大切か、理解してもらえたでしょうか。
実際の答案例なども可能な範囲で、ここに掲載していきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。