ジェットストリーム
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
高校生だった頃、友人の家へよく遊びに行きました。
いくらでも話は尽きませんでした。
彼の父親が大変なステレオマニアで、居間には自作のアンプセットが備え付けられていたのです。
スピーカーも大きかったですね。
遊んでいると帰る時間が遅くなるときもありました。
深夜の12時近くだったと思います。
もう少しするとジェットストリームが始まるから聞いていかないかというのです。
初めて聞くタイトルでしたね。
ラジオの番組だということはすぐにわかりました。
まだFM放送が実験段階だった頃です。
1967年、東海大学がFM東海という名前で試験放送を始めたのです。
現在のFM東京(TOKYO FM)の前身です。
「ジェットストリーム」は日本航空の1社提供でした。
実に洗練された番組でしたね。
超短波放送で、音質がすぐれていました。
雑音が全くないのです。
中波の放送とはくらべものになりませんでした。
ジェット機の離陸音とともに始まるオープニングは本当に美しかったです。
ナレーションが特に素晴らしかったのです。
声優の城達也さんでした。
グレゴリーペックの吹き替えで有名な人ですね。
彼はこの番組のパーソナリティを放送開始から27年半務めました。
歴代パーソナリティーの中では最長記録だそうです。
この番組を降板したのが1994年12月末。
その直後、1995年2月に亡くなってしまいました。
人生のエネルギーを全てこの番組に費やしてしまったのでしょうか。
エンジンの轟音とともに
番組が始まると、すぐにエンジンの轟音が鳴ります。
そしてフランク・プールセル・グランド・オーケストラの『ミスター・ロンリー』が流れます。
弦楽器を見事にフィーチャーした滝のような音色でした。
そこに流れるのがこのオープニングのナレーションです。
今でもファンが多いようですね。
ナレーション入りのCDは今も販売されています。
夜の闇の中を飛び去っていくジェット機のイメージが、すぐに思い浮かびます。
声優の真価はまさにこれにつきると言ってもいいのではないでしょうか。
試みにご自身で声を出して読んでみてください。
きっといい気持になれると思います。
オープニングナレーション
遠い地平線が消えて、
深々とした夜の闇に心を休める時、
遥か雲海の上を、音もなく流れ去る気流は、
たゆみない宇宙の営みを告げています。
満点の星をいただく果てしない光の海を、
豊かに流れゆく風に心を開けば、
煌く星座の物語も聞こえてくる、夜の静寂(しじま)の、
なんと饒舌なことでしょうか。
光と影の境に消えていったはるかな地平線も
瞼に浮かんでまいります。
日本航空が、あなたにお送りする
音楽の定期便。
「ジェットストリーム」。
皆様の、夜間飛行のお供を致しますパイロットは、
わたくし、城達也です。
ラストナレーション
夜間飛行の、
ジェット機の翼に点滅するランプは、
遠ざかるにつれ、
次第に星のまたたきと
区別がつかなくなります。
お送りしておりますこの音楽が、
美しくあなたの夢に
溶け込んでいきますように。
日本航空がお送りした音楽の定期便、
「ジェットストリーム」
夜間飛行の
お供をいたしましたパイロットは
わたくし、城達也でした。
——————————–
最後まで聞くことはあまりなかったですね。
ぼくは布団に入るとすぐに寝てしまいます。
それでもいい気持ちで、曲の前に入るナレーションに聞き入ったものです。
後年、このオープニングが変わりました。
城達也さんが亡くなって、ナレーションのメンバーも変わりましたからね。
その後はどうしてもなじめなかったことを告白しておきます。
ぼくはやはり最初のバージョンが好きでした。
彼の甘い声が忘れられません。
まだ海外旅行が夢だった時代なのです。
ヨーロッパの街の名前がごく自然に語られると、自分がそこへいって街角に佇んでいるような気分になりました。
懐かしさ
今もPCの中に音源をたくさん入れてあります。
時々、聞いてみるのです。
すると、すぐにあの時代にふっと戻っていけるような気がします。
既に何年が経過したのでしょうか。
友人宅でよく受験勉強した頃が妙に懐かしいです。
彼の母親がつくってくれたインスタントラーメンの香りもします。
あんな時代があったということが、嘘のようです。
ジャズを初めとした名曲をたくさん聞きました。
確かな時代の音楽番組でした。
あの頃から日本は驚くべき高度経済成長を遂げたのです。
旅愁という言葉がありますね。
遠い異国の地を1人で歩いているような気分とでもいったらいいのでしょうか。
日本を取り巻く状況も以前とは全く違います。
JALも2010年には会社更生法の申請を行い、事実上倒産しました。
さらに今回のコロナ禍以降、航空会社の経営も厳しさを増しています。
現在はさすがに1社提供ではないものの、この番組に対しての熱意には変わりがないようです。
ナレーターも次々とかわりました。
それでもぼくにとっては、やはり城達也さんしかいないのです。
この人のナレーションがあったからこそ、今日までCDが販売され続けているという事実をみつめて欲しいです。
今回はあまりに懐かしくて、つい昔のことを書いてしまいました。
ぜひ1度、オープニングを聞いてみてください。
きっと気に入ることと思います。
今回も最後までお読みくださり、誠にありがとうございました。