書けそうで書けない問題
みなさん、こんにちは。
小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は2019年度、慶応義塾大学環境情報学部に出題された課題文について考察します。
慶応義塾大学は小論文に関して一貫して先駆的なテーマを追求してきました。
このテーマも非常にユニークな視点から出された問題です。
問題にはSFC構内の写真などが26枚添付されています。
路上観察型の課題です。
一見すると、なんとかなりそうな気がするのです。
しかしやってみると、なかなかに骨があります。
書けそうでなかなか書けないのです。
今回は観察をすることにどのような意味があるのかということについて考えてみましょう。
ポイントはいくつかあります。
キーワードは日常にある違和感に気づくことで、自分の周囲を注意深く観察しようということです。
世の中には多くの未解決の問題があります。人口問題や地球温暖化問題のように、広く知られており解決が難しい大きな問題がある一方、身の回りの小さな問題は見逃されていることが多く、意外な解決法が隠れていることがあります。
これが問題の最初の説明です。
なるほどと思いますね。
大きな問題ばかり見ていないで、自分の周囲にある小さな問題をみて欲しいという出題者の意図を感じます。
では何を小さいと考えたのでしょうか。
その次に本論が出てきます。
それが電車のITカードなのです。
交通系ITカードは今やごく日常的な風景の1つになりました。
しかしカードの情報を読むにふさわしい構造やデザインを決定するためには長い時間がかかったのです。
なぜの繰り返し
問題作成者は次々となぜを繰り出します。
ここで考え込んでしまうと、これから先に進めなくなります。
例えば次のようなものです。
①選挙のたびになぜ投票所へ行かなければならないのはなぜか。
②手紙を出すのにポストまで行かなくてはならないのはなぜか。
③使われていない個人の家の部屋がたくさんあるのに、ホテルの部屋が足りないのはなぜか。
身の回りの小さな出来事を「なぜ」をキーワードにして観察した結果が次々と出てきます。
そのうちの1つが偶然路上で発見した駐輪場の使い方でした。
マンションの駐輪場に停めてある自転車の荷台に箱が積まれています。
それが店舗の看板になっていたのです。
同じマンションの2階にある鍼灸院の宣伝です。
普段住居として使われているマンションに自転車が停められ、その荷台に箱が乗せられている写真が添付されています。
そこにある宣伝媒体の箱には鍼灸院の名前が大きく書かれています。
通行人の目をとめる広告に十分なりえているのです。
自転車という乗りものとしての本来の役割だけではありません。
その荷台の上で看板としての役目を果たしているのです。
意外な効果が十分に認められますね。
誰の迷惑にもなりません。
しかし有効性は認められるのです。
これは問題文とは直接関係ありませんが、せっかくですからここに示しておきましょう。
最近では走行中の自動車の横や後ろに宣伝用のステッカーを貼ってくれれば相応の金銭を支払うという広告販売型の企業もあります。
アドトラックというのもご存知ですか。
街中などで見かけることがあると思います。
トラックの荷台に大型の看板を設置し、通行人など多くの人の目に触れさせる宣伝カーのことです。
夜は特にライトアップされ注目度は抜群です
アドトラックは走るという行為をはるかに超えた現実を作り出しているのです。
問題のかたち
ここまでさまざまな例を出してきました。
実際の課題文はもっと長く、写真がたくさん入っているために読むのにもかなりの時間がかかります。
第1問は次の通りです。
現在広く使われている身近なものについて、それがなかった時にはどういう問題があり、それがどのように解決されたのかを具体的に320字以内で記述しなさいというものです。
当然ここまでの文章がヒントになるのは言うまでもありませんね。
あなたなら、何をイメージして書きますか。
わずか320字というのが気になります。
短いほど文章は難しいのです。
メリハリをつけて、要約したものでなければなりません。
贅肉のある文ではとてもこの文字数でまとめることはできないのです。
「現在広く使われている身近なもの」が20字。
「それがなかった時の具体的な問題」が150字。
「どのように解決されたのか」が150字。
プラスマイナス10字ずつくらいでアレンジしなければ、とてもまとまりません。
テーマ発見能力を磨く
とにかく問題を発見する能力を自分自身で熟成させることです。
一番書きやすいのはサンプルとして挙げられている切符のかわりになるICカードが可能でしょう。
しかしそれではあまりにも内容が似すぎていて新鮮味に欠けます。
ETCゲートシステムもその1つとして考えられます。
従来のようにゲートで現金を支払っていた時代に比べれば、通過が隋分とスピーディになりました。
料金所での一時停止は渋滞のネックだったからです。
高速道路を通行するための方法として有効でしょう。
これで320字書けそうですか。
もう少し考えてみます。
この問題をさらに掘り下げていけば、スマホを利用した多くのアプリケーションも考えられます。
特に現金を用いないQRコードやバーコードによる支払いはどうでしょうか。
コロナ禍の中で急速に利用者が増えたと言われています。
店員と直接対応しなくても支払いができるというシステムには確かにスマホが必要です。
まだ現実には中国や韓国ほどの普及率に達してはいません。
しかしこれからのキャッシュレス時代に向けて、新しい方向性を打ち出したとは言えないでしょうか。
今回のテーマにも十分合致する可能性があります。
どうしても新しい技術ということになると、ITを中心としたガジェットを必要とします。
そこが弱点といえなくもありません。
もっと広く考えてみれば、携帯電話からスマホへの移行は私たちの生活を劇的に変えたとも言えます。
スマホ以前と以後の違いもここではそのテーマになりうるのではないでしょうか。
問題作成者はあらゆるニッチな話題を日々探しています。
あなたの周囲でこれだという例はありますか。
なるべく問題とは違う角度からの解答が欲しいですね。
100均の存在はどうでしょうか。
他にいい例がありそうですか。
受験勉強をしている人は目を光らせて喫緊のテーマを探してください。
試験は追いかけっこなのです。
新しいテーマは目の前に転がっています。
それを拾い上げるだけの眼力があるかどうかが、ポイントでしょう。
勉強を続けてください。
最後までおつきあいいただきありがとうございました。