ナブッコ
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
1月3日にNHKホールへ出かけました。
「新春オペラコンサート」へ出かけたのです。
初めてでした。
テレビでも同時に放送されましたね。
今までもオペラはいくつも見ています。
卒業生が二期会に入っていたりして、招いてくれた公演もあります。
モーツァルトのが1番、数が多いです。
ローマの野外劇場で公演された「カルメン」も見ました。
今回、コンサートの中で歌われた曲は実にさまざまでした。
その中で、最もいいなと思ったのは、実はアリアではないのです。
ヴェルディのオペラ「ナブッコ」の中の3幕に歌われる合唱でした。
タイトルは「行け我が思いよ、黄金の翼にのって」です。
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それまでこのような歌劇があることも知りませんでした。
あまりにもすばらしいので、それ以降、この曲が耳から離れません。
動画もたくさんあります。
やはりすぱらしい合唱を聞かせてくれる動画に、多くの人が魅せられるようですね。
このオペラは旧約聖書の話を題材にしています。
その解説を読むだけで、世界が平和になるための道がいかに遠いものかを感じます。
作品は1842年、ミラノ・スカラ座で初演されました。
ヴェルディにとって3作目のオペラです。
大成功をおさめた彼の出世作なのです。
第3幕での合唱「Va, pensiero」は、今日のイタリアにおいて国歌並みの扱いを受けています。
「ナブッコ」というタイトルは、ネブカドネザルとして知られるバビロニアの王の名前からとられました。
バビロン捕囚
この合唱曲はユーフラテス河畔で、ヘブライ人たちが祖国への想いを歌うシーンで使われます。
みな自分の明日の命がどうなるのかもわかりません。
ただ運命のままに囚われ、祖国に戻れるのかどうかも定かではないのです。
ここで歌われるのが有名な合唱曲「行け、我が想いよ、黄金の翼に乗って」です。
ヘブライ人の大祭司、ザッカリーアは祖国の最終的な勝利とバビロニアの滅亡を予言、人々を勇気づけようとします。
彼らがまさに処刑されようとする時、バビロニアの王だったナブッコが登場します。
王がこの心境に達するまでに、オペラの中では人々の裏切りや讒言が何度も繰り返されます。
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それが歴史なのでしょう。
彼はバビロニアの神々を祀った祭壇の偶像の破壊を命ずるのです。
ナブッコはエホバの神を讃え、ヘブライ人たちの釈放と祖国への帰還を宣言します。
「バビロン捕囚」という言葉を、世界史の授業などで聞いたことがありますか。
新バビロニアの王ネブカドネザル2世により、ユダ王国のユダヤ人たちがバビロンを始めとしたバビロニア地方へ捕虜として連行された歴史のことです。
このオペラはその歴史を下敷きにして書かれているのです。
最初の捕囚は紀元前597年に行なわれました。
それから数回にわたって行われたそうです。
流刑の後、ユダヤ人はキュロス2世のキュロスの勅命(紀元前538年)によって解放され、故国に戻ってエルサレムで神殿を建て直すことを許されたといいます。
中東の歴史は、3000年という時間の漂流の中にあるのです。
考えただけでも気が遠くなりますね。
第2の国歌
最初にこのオペラが演じられた時、ミラノ・スカラ座の聴衆は熱狂したそうです。
なぜそこまで彼らが熱くなったのか。
それも歴史が証明してくれます。
この合唱曲の一部に次のような歌詞があるのです。
おお、あんなにも美しく、そして失われた我が故郷という一節です。
オーストリアに支配された自らの運命を、きっと重ねあわせたのでしょう。
そこにはイタリア独立戦争が影を落としています。
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イタリアが統一のための運動を通して独立と統一を達成した際,オーストリアに対して行った戦いのことをさします。
このオペラ自体がイタリア全土で何度も上演された背景には、自分たちの国をなんとしても守りたいという悲願がこめられているのです。
歌詞もいいですね。
何度でも声に出して、読んでみてください。
行け、想いよ、金色の翼に乗って
行け、斜面に、丘に憩いつつ
そこでは薫っている。暖かく柔かい
故国の甘いそよ風が!
ヨルダンの河岸に挨拶を
そして破壊されたシオンの塔にも
おお、あんなにも美しく、そして失われた我が故郷!
おお、あんなにも懐かしく、そして酷い思い出!
運命を予言する預言者の金色の竪琴よ
何故黙っている、柳の木に掛けられたまま
胸の中の思い出に再び火を点けてくれ
過ぎ去った時を語ってくれ!
あるいはエルサレムの運命と同じ
辛い悲嘆の響きをもった悲劇を語れ
あるいは主によって美しい響きが惹き起こされ
それが苦痛に耐える勇気を我々に呼び覚ますように!
リッカルド・ムーティ
この動画を初めて見たのは、それほど前のことではありません。
元々はこのオペラの合唱の部分に添えられたものなのでしょう。
あまりにも感動的だったので、別の動画として発表されたに違いありません。
指揮者のリッカルド・ムーティは日本でも有名ですね。
何度も日本で演奏会を開いています。
ものすごく情熱的な人です。
イタリアのナポリに生まれ、シカゴ交響楽団音楽監督、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団名誉団員でもあります。
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1986年から2005年までミラノ・スカラ座の芸術監督も務めました。
1987年からはミラノ・スカラ座管弦楽団の首席指揮者にも任命されています。
大変、人気のある指揮者の一人です。
今回の主題は、その彼がミラノのオペラ劇場で「ナブッコ」を上演した時の動画なのです。
第3幕の合唱が終わると、ブラボーの嵐に包まれます。
拍手が鳴りやみません。
アンコールの声がかかります。
ムーティは少し考え、それから自分の思いを語るのです。
文化予算を削るというイタリア政府の政策に対して、主張したいこともあったのでしょう。
それならば観客のみなさん、一緒にもう一度歌いましょうと提案をします。
それからの演奏は、もうオペラの世界を抜け出して、まさに現実そのものです。
オペラの舞台にたっている合唱団の面々も、感動に包まれました。
そして全員での合唱が始まります。
なるほど、これがイタリアの底力だなと感じました。
感動的なシーンです。
曲もすばらしい。
音楽の持つ力がここに極まりました。
「ナブッコ」という歌劇をチャンスがあったら、見てみたいです。
あなたもイタリア語の原詩で歌ってみてください。
動画がたくさんあります。
今回のはこの動画です。
クリックしてみて下さい。
音楽は力の源泉ですね。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。