算数文章題
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は話題の教育関係図書をご紹介します。
書評でたまたまみつけ、興味を持ったので読んでみました。
小学校の児童を対象にした研究の結果をまとめた本です。
率直に言って驚きました。
特にこの本では算数の文章題が解けない理由を探ろうとしている点が新鮮でした。
著者は慶応大学の今井むつみ教授をはじめとする研究グループです。
彼女たちは理解力を測定する新しいアセスメントテストを開発しました。
生きた知識をどれくらい持っているかを調べたかったようです。
学力を測ると称したテストが、実は「死んだ」知識を問うている例が、とても多いという実感から始まったそうです。
1度つまづいた児童はあっという間に応用問題が解けなくなります。
特に文章題の理解が止まってしまうのです。
その結果、自己肯定感が下がり、勉強嫌いになります。
そのプロセスがどのようなものなのかということを、分析するというのが、調査の基本でした。
しかし単純に「生きた知識」とは何かと言われると、それもまた難しいですね。
単純にいえば、四則計算の意味がよく分かっていないというケースが多いのだといいます。
演算の意味を理解することがある意味で困難なのでしょう。
わからない子は計算相互の関係性がみえていないのです。
よくある誤解の1つが次のようなものです。
足し算と掛け算は元の数字より大きくなる。
引き算と割り算は元の数字より小さくなる。
明らかな間違い
あなたはこの考え方をどのように感じますか。
明らかにこれは間違いですね。
しかし多くの児童がこの考え方に染まっています。
誤った考え方が身体の中にしみ込んでいるのです。
割ったり引いたりすれば、数が減る。
その反対は増える。
ぼんやり読んでいると、ついその通りだと思い込んでしまいます。
特に子供はその傾向が強いのです。
どんなつまづき方を実際にしているかみてみましょう。
2つ、例題をあげます。
この問題はどうでしょうか。
250グラム入りのお菓子が、30%増量して売られるそうです。
お菓子の量は何グラムになりますか。
単純に250に0.3をかけると結果は75です。
さすがにこれでは少ないと考えるのか、児童はその後に0をつけて、750グラムと答えるケースが多いのです。
さらにもう1つ。
250を0.3で割るといくつになるか。
普通なら、250に0.3を掛けるというイメージが先行します。
しかし掛けたら75になってしまう。
そこで0をひとつ付け加えて750という結果を出してしまう児童がいます。
いつも割れば減るという観念から抜けきれないのです。
つまり四則演算の意味が理解できていません。
どこかでつっかえるということは、1つ1つの学習がうまく統合されていない証拠です。
実際の問題に遭遇したとき、力を発揮しません。
その時に必要なのがまさに「生きた知識」「生きた学力」なのです。
読書習慣の大切さ
「文章題」においても、事情は全く同じです。
つまづきの原因は「読解力が足りない」と一言で言い切ってしまえるほど、単純ではありません。
ほんものの学力を生むための環境も必要なのです。
読み解く力の基本は国語力です。
数学の基本は実は言葉の理解なのです。
実際にどうしたらいいのか。
どのようにしたら読解力がつくのか。
多くの人が考え込んでしまうところですね。
これはかなりの難問です。
1つだけヒントを提示しましょう。
最も基本になるのが本のある暮らしです。
身近に本があるということは、家族がそのどれかを読んでいる風景を子どもが絶えず見ていることに繋がります。
家に本があれば、子どもはいつでも本を手にすることができます。
それが長い読書習慣に繋がるのです。
この場合の本は、書店で買ったものに限定されません。
図書館で借りてきたものも、その範疇に入ります。
本のある家庭環境は、ことばの力を育てるのと同時に、数字の概念を育てます。
そこからものを類推するという能力を飛躍させるのです。
読書習慣はどのようにして身につくのでしょうか。
ここには興味深い結果があります。
読み聞かせの意味
よく幼いころから読み聞かせをするといいといいます。
確かにその傾向が強いことは事実です。
しかしそれ以上に成長しつつある今の様子がどうであるのか、といった方が影響は強いといいます。
子どもが読書の習慣もっているかどうかは、把握しておくべきでしょう。
さらにより大切なこととして、就学前にひらがなに興味を示して、読んだり書いたりしたことや、数を数えたりしたことが、将来の学習には大変効果があるということです。
さらに時計をみて時間を意識すること。
無理に覚えさせるというのではなく、子どもが自発的に興味や関心を持つことが大切だということもよく言われています。
つまり環境を整えることが、より大切だということです。
文章題を解くことの困難は文章に書かれていないことを自分の想像力で補って推論する力が足りないためである可能性が非常に強いのです。
この研究グループは「たつじんテスト」というものをつくったそうです。
そこでは数の概念や、図形の形を問いました。
その結果、子どもたちが学ばなければならないことばや数の概念はこんなに抽象的で難しいものなのかということがわかったといいます。
どこでつまづいてしまったのかを理解しないことには、先に進めないことがわかったのです。
文章題で問題になるのは、問題文の状況がイメージできるのかということです。
例を1つあげます。
こどもが14人、1列に並んでいます。
ことねさんの前に7人います。
ことねさんの後ろには何人いますか。
多くの児童は、文章の意味を十分に考えず、問題文にある数字を全部使って、計算をして答えを出そうという意識が特に強いのだそうです。
もう1つ。
ケーキを4個ずつ入れた箱を、1人に2箱ずつ3人に配ります。
ケーキは全部で何個入りますか。
児童には問題文のイメージがなかなか作れません。
1人が何個のケーキをもらえるのかを最初に計算します。
それが3人分なので、24個という答えがでます。
4年生くらいになっても、10%程度のミスがあったそうです。
1枚の画用紙からカードが8枚作れます。
45枚のカードを作るには、画用紙は何枚いりますか。
割り算の余りをどうするかについても、なかなか理解が進まないようです。
えりさんは、山道を5時間10分歩きました。
山をのぼるのに歩いた時間は2時間50分です。
山をくだるのに歩いた時間は、何時間何分ですか。
さまざまな問題を繰り返しながら、ポイントをおさえていこうとした点は実に興味深かったです。
最終的な問題はここから抜け出る方法でしょうね。
次の1冊が待たれるところです。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。