【ゲ―テの箴言】人間は努力するかぎり迷うものだ【小論文への糸口】

学び

ゲーテの箴言

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は平成17年、都立西高校に出題されたテーマ型小論文を扱います。

制限時間は50分、字数は600字です。

このパターンはずっと同じですね。

問題文はたった1行「人間は努力するかぎり迷うものだ(ゲーテ)」を読み、あなたの考えを書きなさいというものです。

問題には作文とありますが、内容は明らかに小論文です。

都立西高校の問題は、極端なことを言うと、何を書いてもかまいません。

内容と論理の整合性があれば、OKなのです。

問題文は全て抽象的なものばかりです。

どこにヒントがあるのかといえば、それは書き手自身の中というしかありません。

あらゆる方向から論を進めることができます。

ただしそこには論理的に卓抜したものがなければ、ダメです。

そういう意味では、あらかじめ勉強して、知識を蓄えておくということが全くできません。

SDGsの問題が出るとすれば、ある程度の予備知識が必要です。

その他、戦争、人権、医療、福祉、アイデンティティなど、どれをとっても学んでいなければ書けないのです。

逆にいえば、自分の知識である程度答案用紙を埋められるタイプの方が楽だとも言えます。

その点、西高校のテーマ型小論文は難問ですね。

想像力が豊かな受験生にとっては、どの方向にもいけるという意味で、おいしい面もあります。

極端な失敗をしない限り、自分のテーマに引きこむ技量さえあれば、内容のあるいい文章を書くことができます。

今回の問題はゲーテの『ファウスト』からの引用です。

どこから書くか

本番ではゲーテの本を全く読んだことがない受験生もいたことでしよう。

慌てたかもしれません。

しかし彼の本をたくさん読み、知識があるからといって、楽観はできません。

問題はそのレベルではないからです。

この問題の場合は、かなり自分に引き寄せてまとめる方がよかったように思います。

字数が600字しかありませんから、全文を一般論で埋めたら、読み飛ばされてしまうだけです。

なるほどそういうこともありますねといった印象しか、採点者は持たないでしょう。

むしろあなたらしさを前面に出す必要があります。

ひっかかるところをいくつか提示した方が、より読みごたえが出てくるはずです。

ただしその例示の長さは最高でも全体の3分の1までとしましょう。

いい気になって書いていると、だから何がいいたいのかといういらだちを採点者に与えてしまいます。

ここがこのタイプの問題の1番難しいところです。

内容の複雑な文章を書く必要はありません。

むしろ自分の体験を交えながら、中学3年である自分の立場を冷静にみつめる文章の方が評価は高くなると思われます。

ただし読み手を引きつけなくてはなりません。

そのためにはどうしたらいいのか。

技巧、語彙、正確な文法が必要になります。

書き出しの文章が持つ印象、文中で使う言葉、「てにをは」の正確さ。

これらがなければ、そこで採点者は加点することができません。

いずれにしても中学3年生が体験する内容に、それほどの差があるとは思えないのです。

だからこそ、「論理性」が絶対条件として浮かび上がってくるのです。

なんとなくではダメです。

数字を入れるのもいいですね。

確実な数字があると、読者の目を引くとよく言われます。

言葉の意味

ゲーテについては自分で調べてください。

全く読んだことがなかったといって慌てることはありません。

もちろん、知っていることがあれば、その場で反芻しましょう。

『ファウスト』はゲーテによる劇詩です。

ルネサンス期に生きたとされるファウストの伝説に基づいたものです。

ゲーテの全ての思想や体験を盛り込んだ超大作です。

主人公・ファウストはあらゆる学問にも満足せず、生の享楽と知的好奇心を追求するあまり、とうとう悪魔に魂を売り渡してしまうのです。

破滅と救済の物語だといってもいいでしょう。

日本では圧倒的に『若きウェルテルの悩み』が有名ですね。

読んだことのある人もいるはずです。

しかしそのことはここではあまり意味を持ちません。

「人間は努力する限り迷うものだ」というのはどういう意味なのか。

与えられた50分のうち、10分間ぐらいはあれこれと考えてください。

自分の中で迷った体験はなんだったのか。

クラブ活動、委員会活動、学校の選択、勉強の仕方、あるいは芸術的な活動、創作、研究、親、家族との軋轢など。

努力を続けた結果、そうした迷いが生じたとしましょう。

ポイントはその迷いからどう復活したのかということです。

あるいはそのまま失敗を現在も続けているということもあるでしょう。

その中でどうあがいたのか。

抜け出すためのヒントはなかったのか。

それをどうやってみつけようとしたのか。

見えた風景

採点者が知りたいのは、努力と迷いの後に見えた風景です。

それ以前との違いがあるとすれば、それは何であるのか。

当然、高校に入学した後も、再び迷いが生じるでしょう。

その時、どうやって脱出しようと考えているのか。

そのための方策はあるのか。

自由度が高いために、どのようにでも文章がかけます。

それだけに感情に流されてしまうと、自分勝手な文になる怖れがありますね。

つねに、もう1人の自分が冷静に全体の構成をチェックしていなくてはなりません。

感じたことの根拠と論理を示す。

PIRO4D / Pixabay

これが1番大切です。

表現の技巧に走りすぎてはいけません。

作家を養成する場ではないのです。

あくまでも客観的に自分を見つめ続けながら、淡々と書く。

その姿勢を守ってください。

自分の体験を振り回してはいけません。

それは目障りです。

むしろ自分が得た教訓の背後に控えている程度でいいのです。

『ファウスト』は、平凡に生きられなかったなゲーテの自戒の書でもあります。

だからこそ、迷い続けたと自分を分析しています。

芸術だけでなく、あらゆる人間の生には答えがありません。

それに手が届いたと感じた瞬間に、もうスルリと手の届かないところへいっています。

その実感を文章にしてください。

逆に言えば、諦念に満ちた生き方をしている人には迷いも悩みもありません。

迷うということは物事に真剣に取り組んできたという証拠なのです。

その論点を忘れなければ、必ず書ききれると信じています。

さっそく試みてみてください。

書き終わったら、自分で声に出して読んでみること。

その文の中に、まぎれもなくあなたがいますか。

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一般論でないあなたがいれば、それだけ合格に近づいているのです。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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