【小論文・新宿高校】科学技術を医療分野に導入する際に直面する課題

小論文

接点を探る

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は新宿高校の推薦入試に出題された過去の問題を取り上げます。

問題は「科学技術が貢献すべき分野」として何が考えられるかというものです。

提示された図によれば、複数選択式で、トップに挙げられたのが医療分野でした。

その次には地域環境の保全に関する分野とあります。

設問は次の通りです。

世論調査で選んだ人の割合が高かった「医療分野」と「地球環境の保全に関する分野」のうちからどちらか1つを選び、その分野に現在どのような課題があるかを示しなさい。

そし今後どのように解決することによって科学技術は貢献できるかについて240字以上300字以内で書きなさい、というものです。

実際にはこの他にも200~300字程度でまとめる問題が2問あります。

今回は最も根幹をなす設問だけを扱いましょう。

ポイントは「医療」と「環境」のどちらかを選び、科学技術との接点を探れというものです。

ここでは「医療」に特化して問題を考えます。

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「環境」については後日、SDGsとの関連で解説していきましょう。

近年、医療技術の進歩は目覚ましいです。

ある程度、その内容を知っておく必要がありますね。

全く具体的なイメージがないまま、小論文を書こうとしても無理です。

そのうえ、字数が極端に少ないので、かえって難しいです。

練習のときは、800字程度でまとめる方法をとってください。

短くするのは後からでもできます。

キーワードをきちんとおさえて、時代の流れを捉えてください。

医療技術の進歩の例

医療技術という表現から、あなたは最初に何を連想しましたか。

この問題にはどこにもヒントがありません。

通常なら課題文があり、そこにいくつかの重要語句がでてきます。

しかし今回は全くそれがないのです。

自分で最初に思いついた内容をメモしてください。

そこから深掘りしていく以外に方法はありません。

少し前ならば臓器移植の問題がありました。

しかし人間の身体には複雑な免疫のシステムがあります。

それだけ拒否反応も強いのです。

そこでIPS細胞の研究が始まりました。

拒否反応のない細胞から組織をつくりあげ、それを移植していくのです。

ゲノム解析という技術もあります。

さらには人工関節に代表される交換可能な部分としての、人間の組織も手術が可能になりました。

それ以上に大切なのは、より人に対してやさしい医療の開発です。

体に負担の少ない手術などという考え方は近年になって生まれたものです。

以前なら治癒すればそれでよかったのです。

しかし最近ではなるべく患者に苦痛を与えず、治療期間も短くて済むという流れになっています。

心筋梗塞の多くは、足の付け根や腕からカテーテルと呼ばれる細い管を通します。

さらにステントと呼ばれる網状の金属の筒を入れ、拡げることによって治療するのです。

以前ならメスで大きく切り、血管のバイパス手術などをしました。

もちろん、今でも必要なケースでは行うこともあります。

手術後、長い入院生活が必要なことはいうまでもありません。

医療技術の発達が劇的に治療の方法をかえたといえるでしょう。

コロナワクチンの場合

世界的な流行、パンデミックを引き起こしたコロナワクチンの開発にも新しい医療技術が使われています。

ファイザーとモデルナのワクチンは、ともに「mRNAワクチン」と呼ばれています。

新型コロナウイルスの表面には「スパイクたんぱく質」と呼ばれる突起があり、ウイルスはここを足がかりとして細胞に感染するのです。

遺伝物質のmRNAは、ワクチンを接種すると、これをもとに、細胞の中でウイルスの突起の部分を体内で作ります。

この突起によって免疫の仕組みが働き、ウイルスを攻撃する「抗体」などが体内で作られるのです。

あらかじめワクチンを接種しておくと発症や重症化を防ぐ効果があるのはそのおかげなのです。

mRNAをワクチンに用いるアイデアは以前からありました。

しかし、体内に入れると異物として認識されて炎症反応が起きることから、なかなか薬として開発することができなかったのです。

しかし長い基礎研究のおかげで、1年もかからずに90%以上の効能を持つワクチンが完成しました。

これこそが研究の勝利と言えるでしょうね。

ところがこの研究開発には紆余曲折があり、想像以上に長い時間がかかっています。

今後どのような感染症が出てきても、同じシステムを使って薬を短期間で作れることが判明しました。

これは本当に画期的なことです。

AI技術の導入

さて科学と医療の接点は何でしょうか。

AIです。

AI医療技術が医療の世界を大きくかえています。

今回の小論文のポイントはまさにここです。

絶対に落としてはいけません。

何が可能になったのでしょうか。

「画像診断」「過去の事例との照合」「データの整理・入力」といった多くの医療データを扱う業務にAIが圧倒的に適しているということがわかったのです。

同じ画像を過去のデータの中から識別し、病状を診断することが可能です。

医療従事者の勘に頼るのではなく、ビックデータに支えられて今も前進しています。

早期発見や確実な診断ができるようになっているのです。

先進医療技術の大きな特徴は、CTやMRI、超音波検査などの先端技術を使えば、かなりの精度で体内をくまなくチェックできます。

マンモグラフィーと呼ばれるX線撮影装置などもその一種です。

これらの診断機器なしに今日の医療は成立しません。

AI医療技術との接点は今後も緊密さを増していきます。

と、ここまではメリットばかりを書きました。

しかし光があれば、必ず影もあります。

重大なポイントは何でしょうか。

ズバリ、コストなのです。

医療技術開発が盛んになると、想像もつかないコストがかかります。

日本は国民皆保険システムで動いている数少ない国です。

誰にでも平等の医療をという掛け声のなかで、高齢者の医療費が膨大なものになっています。

厳しい言い方をすれば、経済的生産性につながらない延命措置も増えています。

貧富の差をそのまま認めるアメリカでは、治療のレベルには自ずと差があります。

しかし日本ではそれを声高に言うことはできません。

財政が逼迫し、医療費をあげなければならない中で、高度な先進医療をどこまで続けられるのか。

大きな問題になっているのです。

さらに行政の薬事法などの足枷もあります。

簡単に欧米で許可された薬でさえ、日本ではなかなか承認されないという事実も今回のコロナが証明しました。

規制の承認には長い時間がかかることが多いのです。

当然、安全性への危惧もつねについてまわります。

全人口の25%を超えたといわれる高齢者の存在が大きな社会問題になっていることもあわせて承知しておいてください。

この問題を解答するために、メリットとデメリットをきちんと分析しておくことをお勧めします。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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