議論がわかれるテーマ
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
いい季節になりました。
受験勉強は進んでいますか。
まだ志望校が決まらないという人も多いでしょうね。
しかしもう全てが始まっているのです。
3年生になって最初のキーポイントは校内テストです。
ここで内申点を稼ぐのです。
3年生は1学期の成績が換算の対象です。
既に1、2年の成績で3分の2は決まっています。
ここからの巻き返しは大変です。
高校の場合、3年になると選択科目が多いです。
得意な科目でいい成績をとり、生き残るしかありません。
体調をキープして、中間、期末にチャレンジしてください。
さて今回は小論文の中でも、とりわけ書きにくい内容を取り上げます。

それは誰もNoとはいえないテーマについてです。
議論が分かれる小論文は逆にいえば書きやすいです。
特にNoの立場から書くと、文章のインパクトが強くなります。
もちろん、Yesの立場でも書くことは可能でしょう。
しかしその場合も、裏側にはNoがあるということを強く認識していればいいのです。
それが文章のゆとりにもなります。
例えば死刑の是非などはどうですか。
ディベートのテーマとしてもよく取り上げられますね。
意見が完全に分かれるのです。
制服なども恰好の材料です。
反論できない内容
1番厄介なのは、どうやっても反論できない文章です。
筆者の論点を読めばよむほど、その通りだと納得させられてしまうのです。
通常、入学試験ではあまりそういう問題は出ません。
なぜなら採点がしにくいからです。
どこかにひっかかりがなければ、争点が明確になりません。

小論文はどこまでも論理で進みます。
つまり論理が組み立てにくい内容の文章は出題したくないのです。
あなたが受験する予定の大学の過去問をまず調べてください。
入学説明会などに出かけると、もらえるチャンスが増えます。
あるいはネットでの検索も役に立ちます。
とにかく過去にどんな問題が出たのかを、全部明確にすることです。
予備校や、塾、学校などの進路指導室などに、過去問が揃えてあることもあります。
どんな手段でもいいですから、まずそこをおさえて下さい。
そうすると、必ず論点になるところがある問題であることがわかります。
そうでなければ、採点ができません。
受験生の大半がこの意見の通りです。
何もこれ以上、付け足すことはありませんというような文章では差がつかないのです。
どんなに粗削りな内容でも、その受験生の国語力や理解力が試せる問題になっているはずです。
そうでない場合はどうしようもありません。
筆者が課題文にとりあげきれなかった内容に踏み込むしかありません。
しかしそこまですると、失敗する可能性も多分に出てきます。
SDGsは無意味
昨年からよく売れた本に斎藤幸平著『人新世の資本論』という本がありました。
今でも書店にいけば、必ず平積みになっておいてあります。
この本がどうして売れたのかといえば、SDGsはアヘンにしか過ぎないと言い切ったからです。
つまり飢餓や貧困に対してどれだけ効力を持つのか疑問だというのです。
あるいはジェンダーに対しても、効果は薄いと述べているのです。
現在、世界の富はほんのわずかの人々が、ほぼ全てを握っています。
彼らは、その富をさらに増やすことだけを考え、どうしても北半球でそれがかなえられなければ、南半球にある開発の遅れた地域へ移動すればいいと考えていると論じています。
貧困の連鎖がさらに広がるとしても、森林を減らせば、新たな開墾のための土地があらわれるのです。

パーム椰子などはその典型です。
少しくらいプラスチックを減らしても、それ以上に漁網が生産され、マイクロチップが海中を漂います。
それを知っていてもまだSDGsという免罪符の効果を唱えるのかというのが、この本の前半の主旨です。
これはある意味衝撃的でしたね。
自分では地球環境を保持するために努力しているつもりでも、それはあまりにも微々たるものでしかないというのです。
大資本の力が地球の環境を破壊し、もう取り返しのつかないところまできています。
成長をとめずに資本主義を発展させつつ、環境を維持することの難しさが示されているのです。
地球環境を守らなくてはならない。
今以上に二酸化炭素の排出量を増やしてはいけない。
気温上昇を防ぐのは喫緊のテーマである。
海洋汚染も同様だ。
そのためにプラスチックの生産を減らさなくてはならない。
自然エネルギーへの依存をさらに増加させるべきだ。
ここにあげた内容に対して、あなたは反論ができますか。
賛否のレベルを超えて
通常の小論文はYesの立場か、Noの立場をはっきりさせるところから始まります。
そしてどちらにもせよ、その理由をきちんと説明していくというのが通常のパターンです。
しかしここにあげたSDGsの環境問題に対してNoをいうことができるでしょうか。
それは必要ないと正面から反論できれば、それも1つの論点になります。
ところがかなり難しいのです。
というか、ほぼ不可能に近いでしょう。
それをやって見せたのが『人新世の資本論』でした。
どういう書き方をしたのか。
今までの方法はもう幻想でしかないのだという形で、突き放したのです。
これはもうNoを真正面からいうのではなく、諦めるしかないという立場です。
あなたにここまで書けというのは少し無理がありますね。

この評論の著者は後半で、ではどうしたらいいのかという方法論について、後期マルクスの論点を参考にしながら、文章をまとめています。
そこまで要求するのは、もちろん小論文の枠を超えています。
つまり一般的にはそこまで書けないのです。
としたら、自分にやれることはなんであるのかを、よりあなた自身の生活の中を振り返りながら、検証していく以外にないでしょう。
もしあなたが話題のこの本を読んでいたなら、新しい論点を構築できたかもしれません。
その意味で読書は非常に大切ですね。
自分にとっての新たな経験知になるからです。
筆者が書けなかったことを追記するという方法もあります。
しかしこれには知識が圧倒的に必要です。
小論文を侮ってはいけません。
そこに自分の世界を築き上げるだけの気概が必要な所以です。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
