【国際バカロレア】発信力があり自力で問題解決できる能力が必須条件

学び

PISAの求める学力観

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師すい喬です。

今回はいつもとちょっと違う角度から日本の教育について考えてみましょう。

PISAの試験結果のことをつい先日記事にしました。

ご存知ですね。

OECDが進めているPISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度に関する調査のことです。

もちろん日本も参加しています。

中学3年生を対象に読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について、3年ごとに調査を実施しています。

その結果があまりよくないのです。

特に国語力では発信する力、自分の意見を述べる力が足りません。

英語も同様です。

日本人は長い間、島国の中で日本語だけを使って生きてきました。

それだけに微妙な場の雰囲気を察知する能力には長けているのでしょう。

しかし文化的背景が異なる初対面の人に自分の意見をきちんと述べるというコミュニケーション能力には欠けているのです。

rawpixel / Pixabay

PISAの結果がその事実を明白にしました。

その結果、文科省は発表する能力の重視という学習の方向性を打ち出したのです。

読む、書くという能力を大切にしながらも、他者とのコミュニケーションを大切にする言語活動に重点が移りつつあります。

それと連動するように学力というものをどう評価するのかということも問題になっているのです。

簡単にいえば、今までのやり方でいいのかということです。

ITの時代になりました。

以前のように知識の詰め込みだけでは成果が出なくなっています。

今1番必要なのは情報にすばやくアクセスできる能力です。

さらに大切なのは得た知識をどう活用し、考え、深めていくかということでしょう。

答えのない問い

答えのない問いに自分なりの結論を出す力が求められているのです。

議論、作文、プレゼンテーションなどの力が必要になりつつあります。

「探究型学習」と呼ばれるものです。

内容は非常に多岐に渡っています。

「私たちは何者なのか」といったテーマが仮に設定されたとしましょう。

それに対してあらゆる角度から調べたり考えたりすことが求められます。

その後、それぞれのグループが内容を発表し、さらに学び合い議論します。

そうして思索を深めていくのです。

もちろん、哲学的なアプローチだけではありません。

科学の視点から、人体の構成、神経、脳などの機能まで学びます。

これが現在公立校で行われている「調べ学習」「総合的な学習の時間」と呼ばれるものです。

しかし現在実践されているものは全体の一部にしか過ぎません。

それぞれの個人が議論をして、自分の意見を作り上げていくレベルにはまだ達していないのです。

それだけのノウハウを教員も持っていません。

機材も十分には揃っていないのです。

ICT教育はまだ始まったばかりです。

タブレットを全員に配り終えたとしても、Wifiの設備が不十分だったり、家の環境と違っていたりしてうまくいっていません。

サーバーがフリーズするトラブルも多く伝えられています。

機材の管理なども煩雑です。

先生の仕事が増えるばかりで、入り口でとまどっているのが現状なのです。

バカロレアの考え方

バカロレアという言葉を聞いたことがありますか。

最近、日本にも国際バカロレア(IB)の資格を取得できる学校が増えてきました。

インター校とは内容が違います。

こちらは各種学校の扱いです。

日本の大学を受験するには新たに高校卒業認定試験を受けなければなりません。

しかし国際バカロレア認定校ならば、卒業と同時に日本の大学も受けられます。

ちなみに、フランスには国民の80%が取得するという「バカロレア」という国家試験があります。

同じ名前がついていますが、全く関係はありません。

国際バカロレアは本部がジュネーブにある機構が提供する国際的な教育プログラムなのです。

混同しないでくださいね。

『哲学する子供たち』を書いたエッセイストの中島さおりさんによれば次の通りです。

フランスの高校はこの試験を準備するための機関として位置づけられているといってもいいのだとか。

高校にはクラブ活動も文化祭も体育祭も特にありません。

入学式もないのです。

とにかくバカロレアのために、皆勉強をするというワケです。

この試験、なんとナポレオンが始めたとか。

長い歴史を持っています。

国際バカロレアとは無関係ですが、共通点はあります。

それはなにか。

一言でいえば、自分の頭で考えるということなのです。

記憶力だけをただ試しても、実力を知ることにはならないという思想が両者には徹底しています。

フランスのバカロレアの試験は全て論述式か口頭試問です。

4択で答えるなどということを彼の国の人たちは考えていません。

それというのも、哲学が全ての授業の基礎にあるからです。

参考までに問題をいくつかご紹介しましょう。

① 自由とは、何の障碍もないということか。
② 不可能を望むことは不条理か。
③ 言語は道具でしかないのか。
④ 科学は事実の証明に限られるのか。
⑤ 我々は国家に対していかなる義務を負うか。
⑥ 認識を欠いた場合、事実を解釈できるか。
⑦ 政治に関心を持たずに道徳的にふるまうことはできるか。
⑧ 労働は自意識を持つことを容認するのか。

すごいテーマですね。

日本の高校生に論述式の解答ができるのでしょうか。

歴史の問題も同様に難しいです。

① ドレフュス事件以来のフランスにおける大きな政治的危機におけるメディアと世論につ いて述べよ。
② 歴史家とアルジェリア戦争の記憶について考察せよ。

生徒たちは自分の持っている全ての知識を総動員して論述するのです。

フランスでは高校への入学に際して試験がありません。

さらに大学も授業料は無料です。

一方で中学卒業の段階で、普通高校に行く生徒、職業高校に行く生徒に振り分けられます。

都会と地方でその比率も違うのです。

国際バカロレアの今後

コロナ禍の現在、留学するのも思うようにいかなくなりました。

しかし国際的な視野を持つ人間を育てることは必須です。

互いの立場を認め合いながら、さまざまな言語を使って授業をするというプログラムには多くの魅力があります。

IBのカリキュラムを修了し、最終試験に合格すれば、国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)を得られます。

ハイスコアを獲得すると同時に、世界を代表する難関大学への門が開けるのです。

ただし入試は大変です。

都立国際高校のIBコースは偏差値70。

定員は20人です。

公立はどこもかなり難易度が高いです。

現在、日本にあるIB認定校は殆どが私立です。

自分で問題をつきつめる能力が要求されるのはいうまでもありません。

geralt / Pixabay

宿題やレポートの数も多いのです。

ただ机に座って先生の話をきくというタイプの授業ではありません。

クリティカルシンキングのできない生徒は入ってからが苦しいでしょうね。

授業は全て英語で行っている学校もあります。

よほど強いバランス感覚と信念がなければ続かないと思われます。

学費もかなり高いです。

最近ではIT関連の知識を得やすいインド系のインター校に入学する日本人も増えたという話も聞きます。

進路は以前に比べて多様に開かれているのです。

是非、興味や関心があったらご自身で調べてみてください。

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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