門外漢
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、ブロガーのすい喬です。
今回はちょっと業界用語と隠語の話をしましょう。
「マジ」なんていうのは今じゃ誰でも使ってます。
「ヤバい」「ダサい」「ムカつく」「ビビる」とかにぎやかそのものですね。
「マジ」などは江戸時代から使われているそうです。
芸人の楽屋言葉です。
「ヤバい」は十返舎一九の『東海道中膝栗毛』にもでてきます。
江戸時代の矢場(射的場)からきているという説が有力です。
いろいろとアヤシイ人間がたむろしていたのでしょう。
役人に目をつけられたら危ないというところから「ヤバい」となりました。
元々は盗っ人たちの隠語だったのです。
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「ビビる」という言葉も追いかけていくと平安時代まで遡れるのだとか。
すごい話ですね。
いつだったか、近頃の学生は業界用語を使いすぎると大学の先生が苦言を呈してました。
「かんじゃう」「かぶっちゃう」「話をふる」などは今やごく普通の表現です。
英語を日本語風にして「ディする」なんていうのもありますね。
芸能人がテレビで喋っている表現を、そのまますぐ口にする。
きっとかっこいいと思うんでしょう。
軽い口調と言葉のノリがなんとなく今という時代に馴染むのかもしれません。
しかし元々業界用語というのは、素人に知られてはならない一種の符丁なのです。
隠し言葉ですね。
どちらかといえば、ちょっとアブナイ世界から来た言葉が多いのです。
お金にからむ隠語
特に金銭にからんだ話をお客の前でする時は、どの世界でも隠語を使います。
噺家の世界では、1はへい、2はひき、3はやま、6は真田の紋からさなだなどと言います
ご祝儀が中心の仕事ですから、ご贔屓筋の前でお金の話をあからさまにはできません。
そこでこんな表現を使うのです。
たとえば1万円なら「へいまん」と言います。
これなら誰にもわかりませんよね。
手拭をマンダラ、扇子を風などというのも落語界ではごく常識です。
しかし最近はあまり使われていないようです。
あんまり客をいじるなよといえば、からかいすぎるなということになります。
甘い客だといえば、よく笑う雑作もないお客のことです。
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元々定価のなかった下駄や草履を商いする人たちは、客の前でダイマルとかカタリとかいう数字の隠語を使いながら、商売をしたものです。
ちなみにお寿司屋さんは今でもピンとかゲタとか数字を符丁で言いますね。
ことほどさように、他人に知られたくないことをひっそりと語るのが業界用語なのです。
「どさまわり」などという表現も佐渡をひっくりかえした表現なのは、よく知られています。
特に芸の世界では言葉を反転させたり、短くする傾向が強いようです。
「まじ」などというのは全くの隠語なのです。
つまり大声で話すのにふさわしい表現ではないワケです。
いっぱしの通をきどってその気になると、手ひどいしっぺ返しを受けることになります。
トンボを切るなんていうのも雑誌の編集の世界では独特な表現ですね。
ある新人が1日中、トンボを切り抜いていたという笑えない本当の話もあります。
逆に「笑って」といえぱ、カメラの視界からはずれてくださいという意味です。
何も知らない噺家たちがそう言われて、一斉にゲラゲラ笑いだしたという愉快な話もあるくらいです。
野暮はダメ
野暮という言葉を御存知ですか。
今風にいえば、ダサイということでしょうか。
広辞苑によれば「洗練されていないこと。風雅な心のないこと。無風流」とあります。
ヤボだと決めつけられるのはあまり心地いいものではありません。
人間失格を宣言されたようなものです。
おまえはダサイなあと言われて喜ぶ人が果たしているでしょうか。
しかし野暮の方がもっと感覚は複雑です。
風采、風貌よりむしろ心の内面に絡みますからね。
その人間の全人格をあらわす表現なのです。
まさに隠語の世界はこれに通じます。
相手にはわからないだろうと思って隠語でお金の相談をしていたら、全部筒抜けだったというのでは目も当てられません。
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ではどうしたらいいのか。
知っていても知らんぷりをしている方がいいのです。
垢抜けるという言葉をご存知ですか。
あの人は垢抜けているね、というのは最高の褒め言葉です。
『いきの構造』という本が九鬼周造にあります。
ユニークな名著です。
最近はあまり「いき」という言葉を使うことはなくなりました。
江戸情緒の香りがしますね。
イキになるのは大変です。
金離れがきれいでなくてはいけません。
使う時は使う。
しかしやたらに使ってもダメです。
使わなくてもダメなのです。
必要な時にさっと出す気構えがいつも必要です。
気品
高級なものを身にまとえば、それでいいというものでもありません。
汚い恰好はもっとダメです。
垢が抜けるという表現はここから出ています。
いつも清潔でさっぱりとしていること。
気品を感じさせなければいけないのです。
風雅の心がなくてはいけません。
風流を愛する者だけが、かろうじて野暮にならずにすむのです。
それには芸術に通じていなければいけません。
しかしそれをひけらかしてはいけないのです。
音楽や芝居のことなんか、何も知らないというような顔をしていることが大切です。
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業界の隠語なんか、素知らぬフリをしていることです。
時に鋭い批評を試みることがあってもいいでしょう。
さらにもう1つ。
これが最も大切です。
諦めるという感情を忘れてはいけことなのです。
あまり理屈をこねる人をイキとは言いません。
しかし何も考えようとしないのはもっとダメです。
相手の立場に立つ心のゆとりが大切なのです。
勿論男女のことは言わずもがなです。
喋りすぎるのもよくない。
言葉遣いで品性がわかります。
こんなことをいつまでもダラダラ書いてるようではいけませんね。
これこそがヤボの極みです。
テレビでタレントが使っている「まじ」「ダサい」などという表現を使っているようではとても「イキ」な大人にはなれそうもありません。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。