お国自慢
みなさん、こんにちは。
アマチュア落語家のすい喬です。
今回は「祇園会」という落語をとりあげます。
この噺は元々「三人旅」という落語が原型です。
その1番最後のところを1席に伸ばしたものなのです。
以前は八代目桂文治、五代目古今亭志ん生などがよく演じていました。
現在では春風亭一朝、春風亭正朝、橘屋圓太郎、三遊亭笑遊、三遊亭兼好などがよく演じています。
とにかくけたたましいくらい勢いのいい江戸弁が喋れないとできません。
啖呵を切るシーンがあるのです。
もう1つは京都言葉の使い方です。
はんなりとした京都弁のイントネーションとの対比があればあるほど、聞いていて楽しいのです。
さらにポイントをあげれば、威勢のいい江戸の祭り囃子です。
これを完璧に再現できなければいけません。
演者によっては太鼓を叩いたり、笛を吹くジェスチャーを入れるケースもあります。
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屋台、昇殿、神田丸という代表的な江戸の祭り囃子を頭に叩き込まなければならないのです。
その勢いが逆に祇園囃子ののんびりした気分を引き立てます。
この違いがとても効果的なのです。
それほどに長い噺ではありません。
枕を入れて15分もあれば終わってしまいます。
寄席の持ち時間は大体15分ですから、ちょうど手ごろな長さということになります。
ただし演じるのはそう簡単ではありません。
特に昇殿という将軍が上覧する時のお囃子を正確にやりきれるまでは、高座にかけられないのです。
最後まで勢いで聞かせる落語です。
それだけにこのお囃子のパーツだけは十分に稽古をしておく必要があります。
京見物
江戸っ子が3人、お伊勢参りの帰りに京見物をします。
昔の人の夢だったようです。
一生に1度は大きな旅をしたいですからね。
それくらい旅というのは大変なことだったのです。
3人は京都の女性に夢中になってあっという間に路銀を使い果たしてしまいます。
2人は結局江戸へ帰ることになりました。
ところが残りの1人だけは京に親戚があったため、居候を決め込みます。
やがて夏になり、叔父と2人で祇園祭を見物しようと料理屋で待ち合わせることにしました。
ご存知、八坂神社の祭礼です。
日本三大祭りの1つで、京都の夏の風物詩です。
しかしどうしたことか、なかなか叔父さんがやってきません。
一人で酒を飲んでいると、そこへ京男が寄ってきます。
先刻から様子をみて、心配をしてくれていたのです。
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「江戸のにいさん、一杯いきまひょ。どうどす」とやさしい言葉をかけてくれました。
いい酒だと世辞を言うとその後にでてきたのが、さっそくの京都自慢でした。
伏見の酒は日本一や、京は王城の地どすさかいになというワケです。
ここからしばらく京男と江戸っ子の掛け合いが始まります。
テンポよく噺を運ばなければいけません。
ここでモタモタしていると、面白味が半減してしまいます。
京の男は「江戸はなんやゴミゴミしててな。それに人間がどうしてあないにチョカやろか。武蔵の国の江戸やのうて、むさい国のヘドじゃと思たな」と言いだす始末。
江戸っ子だってやられっぱなしではありません。
「京は寺ばかりで線香くさくて抹香くさくて、いい若ぇもんの歩く所じゃねえや」と啖呵を切るのです。
祭り囃子
しばらくするうちに、とうとうお互いの国の祭り自慢が始まります。
どっちがどれだけいいかという話し合いに決着がつくはずもありません。
神輿の違い、お囃子の違いをそれぞれが述べ合うのです。
ここでそれぞれの囃子を表現します。
1番の山場で難しいところです。
お囃子を完全に腹に叩き込むまで稽古しなくてはならないのです。
このような祭り囃子を使う落語は他にもないワケではありません。
もっとも有名なのは「片棒」です。
これも楽しい噺です。
是非、1度聞いてみてください。
この噺ができていれば、「祇園会」はそれほど難しくありません。
しかしこの下敷きがないと大変です。
完全に覚え込まないとダメですね。
太鼓や与助と呼ばれる金でチャンチキチャンチキという音がする楽器もイメージしなくてはなりません。
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さらに笛です。
「おうひゅうひゃいとろ、ひゃいとろ」という哀調を帯びた音色を耳に貼り付けておかないと、うまくできないのです。
「おうひゅうひゃいとろ、ひゃいとろ、おひゃいひゃいとろ、ひゃっとひゃらら」
「ぴひーり、とろひゃらり、とろひゃらり、ぴっぴっ」
太鼓もそうですね。
「てんてんやてんてんてんどど、すけてんてんどどすけてんてんどど」
与助もそうです。
「すっちゃんちゃかちきちゃかちきち」
これに負けじと京男が祇園祭のお囃子をやります。
「こんこんこんこんこんちきちん。こんちきこんちきこんちきちん。ひゅうりひゅうりとっぴっぴ」
音の連続で祭りの風景を描写し、噺をつくりあげていくのです。
神輿をかつぐ
お囃子では決着がつかないので、次は神輿を担ぐ時の掛け声に移ります。
京男は町の中を上品に上品に曳いて歩くのだと言いながら、ジェスチャーでその時の様子を示すのです。
「ほな行きまひょか。あっ、ようさ、あっ、ちょうさ。そりゃ、あっ、ようさ、あっ、ちょうさ」
あまりにのんびりしているので、江戸っ子はじれてしまいます。
「わっせわっせ」と海へ神輿を担いだまま飛び込む掛け声のシーンを再現するのです。
2人のお国自慢合戦はまだまだ続きます。
最後に京男が「御所の砂利を握ってみなはれ、瘧が落ちまんがな」と言うと、江戸っ子もめげてはいません。
「こっちだって千代田の城の砂利を握ってみろい」と叫びます。
「瘧が落ちまっか」
「なあに首が落ちらぁ」と突然のサゲになるのです。
最後のオチがあまりに唐突なので、拍子抜けがしてしまうほどです。
この噺の真骨頂はまず江戸言葉です。
小気味いいくらいの江戸弁でないと、京男との対比が浮き立ちません。
自分の生まれたところを愛するというごく単純なストーリーだけに、言葉の持つ強さを表現できなければダメです。
あとは音感ですかね。
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お囃子の気分がたっぷり出てくれば、居ながらにしてお祭りの情景の中に飛び込んだ気分になれます。
身体にどこまで音が沁み込んでいるのかが勝負です。
それだけに稽古を続けなくてはいけません。
短い噺ですし、これといって山があるワケではないのです。
しかし聞いた後はスッキリします。
ちょうど「大工調べ」を聞いたあとのようです。
威勢のいい啖呵を聞くためのものですからね。
チャンスがあったら是非、さまざまな演者のものを聞き比べてみてください。
祇園祭の山鉾もそれは豪勢なものです。
小路に置かれた山鉾を見るチャンスがあったら是非ご覧になってください。
子供たちがちまきを売っている情景もいいものです。
京都の歴史を感じますね。
今回も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。