【緊急・医療看護系小論文】安楽死と尊厳死の境はいまだ確定せず

学び

ターミナルケアの難しさ

みなさん、こんにちは。

小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は昨日容疑者が逮捕された嘱託殺人事件について緊急に考えてみたいと思います。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者を、致死薬で殺害したとして2医師が逮捕された話です。

いわゆる安楽死をどこまで容認するのかという大変に難しい内容です。

医学の世界では長い間、議論になり続けてきました。

今回の事件をうけて、再び安楽死と尊厳死の問題がクローズアップされることも考えられます。

医療系の学校を受験する人は必ず自分の考えをまとめておいてください。

終末期医療(ターミナルケア)の問題は非常に複雑です。

人間は必ず死ぬべき存在です。

死を目前にした人間が自分の「生」を自分の意志で終わらせたいとする気持も理解できないワケではありません。

「安楽死」は薬などによって死を早める処置を行うことです。

「尊厳死」は患者自身が延命治療を希望しない場合、過度に医療的な処置を加えないことをいいます。

末期患者の苦しみを少しでもやわらげるための施設として、近年ホスピスなども増えました。

そこで行われるのが終末期医療です。

カウンセリングなどを含めて、さまざまな角度から治療が行われています。

さらに本人の希望によっては在宅ホスピスの考え方もあります。

これらはターミナルケアという総称で呼ばれています。

今日の日本ではかなり受けいけられつつある考え方です。

mohamed_hassan / Pixabay

明らかにこの2つの行為には違いがあるのです。

しかし仔細にみていくと、その線引きには微妙なグレーゾーンもあります。

根本は身体、生命は誰のものなのかという哲学的な命題につきあたります。

今回のような安楽死とも尊厳死ともつかない事件があると、あらためて動揺をします。

なぜ今度の医師の処置が嘱託殺人罪の疑いになるのかというところをおさえていけば、この問題の複雑さがよくわかるはずです。

安楽死をめぐる過去の例

今までで1番衝撃的だったのは、東海大学病院での事件でした。

平成3年、神奈川県の東海大学付属病院の医師が末期がんの患者に塩化カリウムを投与して死亡させた事例です。

日本もここまで来たのかというのが実感でした。

高齢化社会に突入し始めた、まさに直後の出来事だったのです。

患者の家族から「楽にしてやってほしい」と頼まれて迷った末の行為だと医師は弁明したそうです。

結局、殺人罪で起訴されました。

判決は執行猶予付きの有罪となりました。

この事件以降、何件か似たような事例が報告されています。

しかし全てが起訴されて有罪になったのかといえば、そうではありません。

どのレベルに殺人罪を適用するかというのは、大変に難しいのです。

医師による安楽死や尊厳死は、事件がおこるたびに論争になってきたというのが本当のところです。

決定的な結論は出ていません。

一応の線引きはありますが、いまだにもめています。

法的な裏付けもないのです。

事件を契機にして、横浜地裁は安楽死が認められる要件として次の4案件を提出しました。

①耐えがたい肉体的苦痛
②死が避けられず死期が迫っている
③肉体的苦痛を取り除く代替の手段がない
④生命の短縮を承諾する患者の意思表示がある

しかしこの4つの要件も医療が進み、苦痛を取り除く緩和ケアが実施されるようになると現実離れが起こり、かえって判断を複雑にしています。

金銭の授受

今回のケースが今までの事件と異なる点は逮捕された医師が主治医ではなく、多額の金銭を授受していたという点です。

過去の処置例では患者の苦痛を見るにみかねて、家族らに懇望されるという側面がありました。

今度のケースでは患者とSNSで連絡を取り合った結果だと言われています

宮城県と東京の医師2人は通常の開業医で「安楽死させてほしい」という女性の投稿により知り合ったということです。

女性の住むマンションに防犯カメラがなかったら、今回の自宅訪問もわからなかった可能性があります。

宮城県で開業していた医師は呼吸器内科や心療内科などの診察を行っていました。

mohamed_hassan / Pixabay

クリニックにはホスピスがあり、終末期の患者の緩和ケアも行っていたのです。

さらには厚生労働省で医系技官として7年余り、働いていました。

ターミナルケアに対して、自分の信念を持っていたが故の行動だと考えていいでしょう。

しかし多額の金銭受領という事実は以前の安楽死事件とかなり性格を異にしています。

医師が書いたといわれる過去の文章を読むと、日本の終末期医療にかなり強い不満を抱いていたことが明確に示されています。

この女性は体を動かすことができなくなったあと、文字盤を視線で追うなどの方法で会話をしていたといいます。

どこまで生きたいと願い、それが果たせないことへのいら立ちを抱いていたのかは、容易に想像できません。

現在日本では患者を死亡させる薬物の致死量の投与を認めていません。

実行すれば、今回のように「殺人」「嘱託殺人」「承諾殺人」「自殺幇助」の罪に問われる可能性があります。

ところが「消極的安楽死」と呼ばれる「尊厳死」の場合は患者の意思に基づいて延命措置を中止するもので、国内の医療現場で事実上、容認されているのです。

ここが1番厄介な分岐点です。

日本医師会は終末期医療に関するガイドラインを5月に改訂しました。

①可能なかぎり苦痛を緩和するなどの医療ケアを行う
②患者が延命措置を望まない場合は医師が本人や家族と繰り返し話し合いを行う
③十分な手続きをとれば延命措置を中止できる

としています。

海外の実情

国内では「尊厳死」の法律化を望む声もあります。

しかしそれも遅々として進んでいません。

あくまでも医師会の指針にとどまっているのが現状です。

ここにこの問題の難しさがあるのです。

生きることへの否定につながるのではないかという声を無視できないからです。

薬物の投与で患者を死なせる「積極的安楽死」が認められているのはオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダ、コロンビアなどです。

2001年に世界で最初に「安楽死」を合法化したのはオランダです。

医師による患者への致死薬の投与も処方も認められています。

近年では安楽死は年間6000人を超えているとのこと。

スイスやアメリカのオレゴン州やワシントン州などでは、医師が致死薬を処方して自殺を幇助する行為だけが許されています。

許されているのは個人主義の考えが強い国に偏っていると考えた方がいいでしょう。

欧米中心と考えておいてください。

人生の最期をどうするかというのは大きなテーマです。

当然日本でも本格的な論争をしなくてはなりません。

いつまでもタブー視しているワケにはいかないのです。

医療系の学校を受ける人にとっては避けて通ることのできないテーマです。

この事件について出題される可能性も高いです。

geralt / Pixabay

ガイドラインだけでは裁判に対応できなくなっています。

当然、今回の事件もいろいろな争点が持ち出されるものと思われます。

ただし今までのケースと違い、死期が迫っているとまではいえない患者を、本人の意向にそって金銭を受け取り死亡させたので、一般論では語れません。

かなり事件性の高い案件だと思われます。

これまでの事例とは大きく異なっているのです。

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今後、どのような進展をするのか。

注目し続けてください。

最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。

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