楽しい噺
みなさん、こんにちは。
アマチュア落語家、すい喬です。
毎日、コロナウィルスのニュースばかりなので、あえて落語のお話を書かせてもらってます。
つらいですからね。
コロナ鬱の人もたくさんいるんじゃないですか。
生活の心配から、仕事の先行きまで考えだしたら本当にキリがありません。
少しでも心のゆとりを持ちたいと思うのが人情です。
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なんとか楽しい噺を探してご紹介しましょう。
今回のお題はズバリ「初天神」です。
いままで何度高座にかけましたかね。
今年もお正月にお呼ばれした時、やらせていただきました。
本当に笑いの多いネタです。
ぼくにとっても大切な噺です。
1年中、寄席でもよくかかります。
短くもなるし、長くもなります。
すごく便利な噺なのです。
初天神というネーミングがいいですよね。
いかにも新春を飾るにふさわしいタイトルです。
菅原道真を祀る天満宮は25日が縁日です。
というワケで初天神とは1月25日のこと。
東京では湯島、亀戸、谷保が有名ですね。
この噺の舞台は亀戸天神だという話です。
ストーリーは基本的に3つの要素に分かれています。
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飴、団子、凧です。
この3つを全てやると、20~25分くらい。
団子までで10~15分というところでしょうか。
1番受けるのが団子の蜜を舐めるシーンです。
これが自然にできれば、ほぼ成功でしょうか。
あらすじ
初天神に出かけようと思い立ち、熊さん、羽織を出してくれと女房に頼みます。
すると初天神に行くのなら、息子の金坊を連れていけと言われるのです。
何度もイヤだといってると、そこへ金坊が帰ってきます。
しぶしぶ連れていくことになった倅に熊さんは約束をさせます。
「いいか約束だぞ。今日はあれ買えこれ買えと言っても何も買わねえからな」
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「いいよ、そんなこと言わないから」
「今日、何か買ってくれとせがんだら、あの川に放り込むからな」
「川の中には河童がいてガリガリかじられちゃうんだぞ」
いくら脅かしても金坊には効果がありません。
「そんな架空の動物を信じているおとっつあんにこの国の将来は任せておけない」とバカにされる始末。
金坊は父親よりずっと知恵がまわるのです。
いよいよ天神様が近づいてきます。
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さっそく飴屋を見つけて買ってくれと駄々をこね始めます。
このあたりは噺家によって演出がかなり違いますね。
駄々のこね方で1番ハデなのが、三遊亭遊雀師匠。
この人のはほとんど狂気に近いです。
いつも金坊の目が血走ってます。
その次が春風亭一之輔師匠、それよりちょっと柔らかめが柳家喬太郎師匠かな。
ちなみにぼくは後者2人の中間くらいです。
父親が誘拐犯
一之輔師匠のは父親が誘拐犯で、ぼくをどこかに連れて行こうとしていると周囲の参拝客を見回しながら叫ぶ演出です。
道端に土下座までしようとします。
とにかくハデです。
最初に聞いた時、ここまでやるのかと思いました。
ぼくはそのちょっと手前でお茶を濁してます。
金坊は上を向いてアメ玉をしゃぶっていたものの、足元の水溜りに気がつきません。
熊さんから気をつけろと頭を叩かれます。
すると突然金坊が泣き出します。
アメ玉を落としたというのです。
あたりを探しても見つかりません。
金坊はお腹の中に落としてしまったのでした。
次が団子屋さん。
子供だからあんこにしろというのを蜜がいいと叫ぶところも大切です。
とうとう根負けして蜜を買う羽目になります。
しかしぽたぽた垂れるので、それを熊さんが舐めます。
ここが最大の爆笑ポイントかな。
蜜のついた団子を全部舐めつくしてから金坊に渡すのです。
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真っ白な団子を手にしてわめきだす金坊。
熊さんは団子屋に言いがかりをつけて、蜜つぼの中へ団子をドボン。
団子を食べ終わると今度は凧を買ってくれと騒ぎ始めます。
大勢の人が見ている前で泣き喚くものですからどうにもなりません。
一番小さい凧を買おうとするものの、凧屋の主人にうまく丸め込まれてかなり大きな凧を買うことになりました
ここからが親父の活躍する場面です。
父子の愛
手本を見せてやると空き地で凧を上げ始めた熊さん。
しまにいにはついに金坊よりも凧上げに熱中し始めます。
このあたりは誰でも経験があるので、昔を思い出すんでしょうね。
懐かしそうに、皆さん聞いてくれます。
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糸を操る時の仕草も大切です。
嬉しそうに凧を上げる熊さんの表情が無邪気であればあるほど、いい出来になります。
「ねえ おとっつあん代わっておくれよ」
「うるせえ 邪魔だ。子供は引っ込んでろ」
ここでは金坊が完全にわき役に回ります。
そして最後のオチ。
「こんなことなら おとっつあんなんて連れてくるんじゃなかった」
ここで拍手をいただけます。
楽しいですよ。
縁日で子供に駄々をこねられた思い出は誰にもあるんですね。
だからすごく共感してくれます。
金坊もなかなかの知恵者ですが、やはりそこは子供。
あどけなさもなくてはダメです。
そして肝心の熊さんはなんだかんだいっても、子供が可愛い。
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この愛情の形がきちんとみえないと、後味の悪さが残ります。
無邪気な父と子の触れ合いがお客様への最高のプレゼントなのです。
親子っていいなあと思える瞬間です。
誰もが昔は子供だったというアタリマエの話なんです。
あたい、今日はいい子だよね。
あれ買ってくれ、これ買ってくれって言わない、すごくいい子だよね。
このセリフが何度も出てきます。
泣く子と地頭には勝てぬという諺をご存知でしょうか。
子供に泣かれたら親は負けですね。
でもそれが嬉しい。
誠に親子というものは不思議な縁で結ばれた存在だと思います。
大御所の噺家もたまにこの落語を寄席で演じたりもします。
チャンスがあったら是非聞いてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。