【元犬・滑稽噺】犬が人間に変身する素っ頓狂落語【ナンセンス究極】

落語

犬の目と元犬

みなさん、こんにちは。

アマチュア落語家でブロガーのすい喬です。

昨日は猫の出てくる噺をご披露しました。

その際、あんまり犬の出てくる落語はないなどとつい書いてしまいました。

しかしよく考えてみると、結構いろいろとあるじゃありませんか。

人間に犬の目を間違えてつけちゃうなんていう「犬の目」。

これはちょっととんでもない落語なので、滅多にきけません。

qimono / Pixabay

古典になりつつある新作ですかね。

寄席では古今亭菊之丞師匠が時々おやりになります。

もう1つあります。

こちらの方が圧倒的にポピュラーでしょうか。

なんといっても犬の出てくる噺の代表格といえばこれです。

ズバリ、タイトルは「元犬」。

寄席でも隋分かかります。

落語家なら必ず師匠に稽古をつけてもらう噺の1つです。

短いわりに笑いのスポットがたくさんあります。

なにしろ犬が人間になってしまうのですから、いろいろと妙なことがたくさん起こるのです。

最初に聞いたのはいつでしたか。

今までで1番印象に残っているのは桂宮治さんの「元犬」です。

ご存知ですか。

来年の2月に真打昇進が決まっている落語芸術協会所属の二つ目噺家さんです

よく「BS笑点」にも登場します。

実はぼくが入れていただいてる落語の会にもよく来てもらってます。

最初の打ち上げに見えた時はまだ前座さんでした。

あれから10年近くの歳月が経っています。

宮治さんは2012年、NHK新人落語大賞をこの「元犬」でとりました。

あの時はNHKの審査会場へ応援に行ったりもしました。

懐かしい思い出ですね。

白い犬は人間に近い

白犬は人間に近く、信心すれば来世には人間に生まれ変われるというのが、この噺の発端です

舞台は蔵前の八幡様。

一匹の白犬が住みつきます。

参詣の人たちにかわいがられ、いつか人間になりたいもんだと願うようになるのです。

白犬くん、一念発起してはだし参りをします。

犬だからあたりまえですけどね。

満願の日、一心不乱に祈っているとにわかに一陣の風。

全身の毛が抜け、あっという間に人間の姿になります。

大喜びした元犬は、たまたま通りかかった職業紹介所、上総屋の旦那にひろわれるのです。

おなかがすいているというので食事を出すと、アジの干物を頭からバリバリと噛んでしまいます。

aalmeidah / Pixabay

さらに足を洗った水まで飲む始末。

ふんどしをしめたこともなく、着物をきたことも下駄を履いたこともありません。

このあたりは笑いが多くて、演者にとってはおいしいところです。

あんまりかわっているので、変人好みのご隠居のところへ奉公させようということになりました。

ところが途中で電信柱に片足を上げたりするのです。

ご隠居のところでも

なんとかご隠居に対面するところまではよかったのですが、親のことや名前を訊いても、へんな返事ばかり。

「変わってるねぇ。おまえさん、ちょいとこっちへ。何だい、舌出してハァハァいって」

「驚いたね、飛びかかってきたよこの人は」

「おまえさん名前は何てんだい?」

「はい、シロって言います」

「シロ…。白吉とか白太郎とか…」

「いえ、ただシロってんです」

「忠四郎(ただしろう)いい名前だねぇ。どこの生まれだい?」

geralt / Pixabay

「八幡様の裏っ手の長屋の突き当たりです」

「突き当たりはゴミ溜めだろう」

「えぇ、ゴミ溜めで生まれました」

「えらい。若いのに苦労人だねぇ。自分を卑下して言ってるんだね。ゴミ溜めのようなところで生まれましたと、こりゃ感心だ。おとっつぁんは何をしてんだい?

「オスですか?」

「何だいそのオスってのは?」

Barescar90 / Pixabay

「それがどれだか分かんないんです。酒屋のブチが怪しいなんて、みんな言ってました」

「苦労人だねぇ。いやいや言いづらいことは言わなくていいんだよ。おっかさんは?」

「脇から来た毛並みのいいのにくっついてどっかへ行っちゃったんです」

こんな調子で次々とトンチンカンな応答が続きます。

お茶を焙じるので「焙炉を火にかけてくれ」と言われました。

『吼えろ』と聞きちがえて「ウーウー」「ワンワン」と叫び出します。

この部分は「焙炉」(ほいろ)という用具が今はないので、ちょっと厄介です。

しかしあえて説明しません。

Keiji_M / Pixabay

噺のスピード感が落ちてしまうからです。

これは現代の落語が抱えている1つの難問かもしれません。

へっついなんて聞いてすぐになんだかわかる人は、もうほとんどいませんからね。

昔の人の生活様式が全く通用しなくなりました。

しかし無視して勢いでやってしまうと、お客様は案外よく笑ってくれるものです。

ワンワンと吠える仕草が面白いのでしょう。

お元はいぬか?

「鉄瓶の蓋がチンチンいってるから、蓋を切っておくれ」

「ほら、チンチン」

あんまりご隠居がいうものですから、恥ずかしそうにして…。

「最近あんまりやってないんですけど、じゃあ」

こう言いながらチンチンの恰好をします。

ここも笑いがとれますね。

ご隠居はあんまり変わっているので呆れてしまいます。

そのうち女中のお元さんを呼ぶため、「お元はいぬか?」とご隠居が呼びます。

すると勘違いをして「元は犬でございましたが、今朝がた人間になりました」
と呟くのです。

これがサゲです。

geralt / Pixabay

「お元はいぬ(いない)か」と「元は犬か」を引っ掛けた地口落ちですね。

あんまりいいサゲではありません。

しかし最初からバカバカしい噺なので、ここいらまでくると、完全に抵抗がなくなります。

これくらい落語らしいなんにも中身のない噺というのも珍しいのではないでしょうか。

ただその場で聞いて、笑ってすぐに忘れる。

「犬の目」といい勝負です。

やっぱり猫の出てくる噺のレベルには勝てそうもありません。

この噺にちなんで台東区蔵前の蔵前神社(元は八幡宮)には元犬像が建てられているそうです。

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1度チャンスがあったら出かけてみてください。

奉納手ぬぐいをかけた素っ裸の人間(元犬)がひょっとしたらいるかもしれません。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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