「インクルーシブ・ランゲージ」多様性を目指す社会が求めているもの

ノート

男性と女性を示す単語

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は言葉の問題を少し扱わせてください。

大学時代、第2外国語としてフランス語を学びました。

詩や小説を読みたかったからです。

しかし英語に比べて、なんと理不尽な語学だと感じたことが何度もありました。

最も難しかったのは時制です。

過去の表現だけでも大過去、反過去、単純過去、複合過去などといった枠組みに驚いた記憶があります。

動詞の活用も複雑で、複合過去などは、英語のbe動詞やhave動詞にあたるものを主語に合わせて活用させます。

さらにその後、過去分詞をつけるという面倒な構造なのです。

考えただけで頭が痛くなりますね。

しかしそれ以上に厄介だったのが名詞の区分けです。

男性名詞と、女性名詞の種別を覚えなくてはなりませんでした。

しかし冷静に考えると、なぜペンが男性で、椅子が女性なのかわかりません。

出てくる単語についてことごとく分けて覚えていかなければならないのです。

単語には、当然のように冠詞がつきます。

不定冠詞と定冠詞には男性、女性、複数形がありました。

フランス語を母国語にしている人たちはどのように暮らしているのだろうか、と考え込んだ記憶があります。

それでもしばらく学んでいると、理解も進みました。

しかし新しい単語などが出てくるたびに男性、女性の違いを覚えていくのはつらかったです。

ある大学の入試問題に、「インクルーシブ・ランゲージ」(包摂的言語)について論じた文章がありました。

今日の世界の状況を俯瞰してまとめられたものです。

もちろん、それぞれの言語の特性を全て消去し、より単純にしてしまおうという話ではありません。

ここでは英語の話が中心ですが、他の国でもさまざまな言語が話題にのぼっていることは間違いないのです。

伝統的な文法を守るべきという意見や、性別による区別を廃止すべきという意見もあります。

フランス語の名詞の性に関する議論は現在も活発に行われています。

世界の思潮は今も確実に変化しているのです。

課題文

「友達」を意味するスペイン語をご存知だろうか。

正解はamigo(アミーゴ)だ。

スペイン語に詳しくない日本人でも、多くの人が耳にしたことがある単語だろう。

だが「女友達」の場合、amiga(アミーガ)に変化することはあまり知られていないのではないか。

スペイン語の「男性形」「女性形」である。

日本語や英語が母語の人にとってはなじみが薄いが、スペイン語やフランス語、ポルトガル語などのラテン語系言語では、多くの名詞、形容詞が男性形、女性形に分かれている。

ところが近年、言葉を男女で分けることを避ける「インクルーシブ・ランゲージ」(包摂的言語)が一部で使われているという。

スペイン語では複数人のグループを指す際、そのグループに男性が1人でもいれば原則として男性形を使用する。

ひとつの例として、「男性」を想起させる言葉を性別に関係なく使える一般的な言葉に置き換えるケースが見られる。

例えば英語の場合、「policeman(警察官)」をpolice officer、「manpower(人手、労働力)」をworkforce、「fireman(消防士)」をfirefighterにすることなどが挙げられる。

また、「guys(皆さん)」をeveryoneにすることもある。

このような言葉の選択の背景にはどういう意図があるのか。

男性形、女性形がない日本語を母語として育った私たちにとって、この問題は身近な出来事とは言えない。

しかしインクルーシブ・ランゲージは多様性のある社会において、ある特定のグループを疎外しないように配慮した、中立的な表現の集合体として定着しつつあるのだ。

背景にある「ダイバーシティ&インクルージョン」という概念と密接な関係があるからである。

「ダイバーシティ」は多様性と訳される。

誰もが価値ある、大切な存在であり、同じ場で会話に参加することを歓迎されていると感じられるような環境づくりをすることを意味する。

性別や世代、組織や国籍などの違いのある人たちが、どのコミュニティに属していても、自分自身や自らの意見が歓迎されている、価値があると思わせてくれる表現でなのである。

性別を超える言葉

この文章は、多様性を目指す社会で求められている「インクルーシブ・ランゲージ(包摂的言語)」について解説しています。

この背景には「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の概念があります。

つまり特定のグループを疎外しない言葉遣いを目指しているのです。

しかし、アルゼンチンなどでは、スペイン語の権威機関が否定的見解を示しているといわれています。

学校教育での使用が禁じられたという報道もあります。

新しい言語習慣に対する根強い反発があることも紹介されています。

ここであなたの具体的な体験を示しながら、800字でまとめなさいという小論文について考えてみましょう

常識的に考えたら、この流れに正面からNoをいうのは難しいかもしれません。

インクルーシブ・ランゲージ促進の流れには勢いがあります。

世界の趨勢にもあっているのではないでしょうか。

つまりYesの立場が多数派になりつつあるのです。

多様性を背景に

近年、ガラスの天井という言葉をよく耳にしますね。

一見、頭上には何もないようにみえて、実はそこにガラスがあるという事実です。

男女平等とは言いながら、政治や経済の世界を眺めてみると、男性優位であることは、誰の目にも明らかです。

日本でも今年、総理大臣にはじめて女性が就任しました。

しかし彼女は男性ばかりの議員の中で、ワークライフバランスを無視して、働かなければならないと就任の時、挨拶しました。

それくらい、男性を優遇する構造は根深いのです。

日本は世界の流れより、かなり遅れているといえるかもしれません。

簡単にそれが砕けるとも思えないです。

問題はそうした環境がずっと尾を引いているという実感をどれくらいの人がもっているのかということです。

近年、「guys」などと当たり前に呼びかけて演説をする政治家を、マスコミは相手にしなくなりつつあります。

そういう人権感覚を持っているということを知った瞬間、有権者の支持が揺らぐということなのでしょう。

世界の潮流はそこまできています。

「everyone」と語りかけることがごくあたりまえの社会なのです。

同様な視点はあらゆる言語に通じます。

言葉が文化であることは誰でもが承知しています。

それゆえ、意識の変化に応じてふさわしい選択をしていかなくてはなりません。

厄介で面倒なことはよくわかります。

しかしそういう時代になったということです。

結果として、変化を自然に受け入れられる言語だけが生き残ると考えられます。

世界標準のことばになるには、それだけの柔らかさを持っていなくてはならないのです。

さまざまな観点から考えたとき、英語は非常にフレキシブルな語学のひとつです。

包摂的言語という観点から、もう一度、自分の使っていることばの体系を考えてみることも意味があるのではないでしょうか。

日本社会の構造もそこから見えてくるはずです。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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