さまざまな感慨
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今年の卒業式もほぼ終わりましたね。
いろいろなことのあった3年間でした。
コロナの影響で修学旅行や文化祭などが中止になった学校も多いことでしょう。
本当に無念としかいえません。
それでもみなさん、よく我慢して耐えたと思います。
できなかったことは未来に希望を託すしかありません。
毎年、式には出席させてもらっています。
何回出たことでしょうか。
自分でもよくわかりません。
ものすごい回数であることには違いがありません。
入学式の晴れ晴れとした雰囲気も嫌いではないです。
しかし卒業式のしっとりとしたあの気分はやはりいいものですね。
もう同じ教室でみんなに会うことがないという別れの寂しさは、時代を超えています。
担任として何回呼名をしたことか。
その度にさまざまな感慨がありました。
式が終わり、全員が校舎を出た後、1人で教室へ行くと、言葉にならない複雑な気分になります。
生徒の顔がそこに浮かぶから不思議です。
残していった掲示物や黒板の落書きもいとおしいです。
今までと同じように明日もここで顔をあわせることはもうないのだという当たり前のことが信じられません。
その心の結界を作り出す儀式がまさに卒業式なのでしょう。
自分自身の卒業式のことを思いながら、隋分と卒業式の歌もかわったなというのが実感です。
最近は卒業証書授与の際、BGMで流す曲にもいろいろな工夫がされています。
ぼくの時はドブォルザークの「新世界」でした。
最近は合唱コンクールの時にクラスで歌ったものが多いようですね。
最も懐かしい思い出の曲です。
その日のことは忘れられないに違いありません。
卒業ソング
卒業式のクライマックスはなんといっても卒業生の代表が答辞を述べるシーンです。
かつて小学校では1人ワンフレーズで掛け合いのように次々と言葉にしていくのがはやりました。
今はどうなのでしょうか。
中学、高校では1人、または数人が代表になり挨拶をします。
彼らの思いが伝わるすばらしいものが多いです。
あらかじめ生徒の書いたものを先生がチェックしながら、最終的に練り上げていくパターンが多いのでしょう。
3年間の思い出を語る生徒の涙も貴重です。
楽しいことやつらかったことを思い出しながら、彼らの清々しい心をみせてくれる光景です。
教師になって1番よかったなと思うのはこの時かもしれません。
別れることの寂しさと、これからの長い人生へのエールを心から送りたくなります。
最後に感謝をこめてという言葉とともに、歌われるのが卒業の歌です。
ここが式のクライマックスでしょうね。
音楽の持つ力というのを肌で感じます。
考えてみれば、卒業式の歌も隋分とかわりました。
以前は「仰げば尊し」と相場が決まっていたのです。
歌詞をよく読んでみると、今の時代とはかなり違います。
古語が使われているので「思えばいと疾しこの年月」などといわれても「いととし」とはなんのことかよくわからなかったりします。
「疾し」というのは「はやい」という意味なのですね。
「身を立て名を上げやよ励めよ」という歌詞などもまさに立身出世を願った時代のものでしょう。
「蛍の光」とあわせて静かに歌った日がそれでも今は懐かしいです。
時代の中で
昭和から平成に入り、卒業式の歌も変化してきました。
ある通信会社が調べた結果によると、幾つかの曲に集中しています。
いわゆる卒業ソングとはまた一味違うのです。
多くの人が式で歌うということから、メロディの流れに無理のないものが多いようです。
ここに挙げてみましょう。
1位 仰げば尊し
2位 蛍の光
3位 旅立ちの日に
4位 翼を下さい
5位 贈る言葉
6位 巣立ちの歌
いかがですか。
時代の気分と離れつつある曲は、最近あまり聞かれなくなっています。
個人的には6位の「巣立ちの歌」は懐かしい曲です。
これはいかにもプロの作曲家が作った歌だなと感じさせます。
音の使い方が華やかで見事です。
変ホ長調の曲想が卒業式の気分によくあっています。
村野四郎が作詞し岩河三郎が曲を書きました。
言葉が本当に美しい合唱曲です。
間奏に入るピアノが華麗で力のあるのが特徴です。
旅立ちの日に
最近はもっぱらこの曲ですね。
今や、完全に定番になりました。
この曲が作られるまでの話は今や多くの人に知られています。
ご存知ですか。
1991年に埼玉県の秩父市立影森中学校の教師によって作られた合唱曲なのです。
作詞は当時の校長、小嶋登先生。
作曲は音楽の高橋浩美先生です。
原曲は変ロ長調ですが、ハ長調などにしたものもあります。
小学校などではハ長調バージョンが多く歌われているようですね。
学校の荒廃ぶりをみて、心を痛めていた校長先生がなんとか歌で生徒の心を和らげることはできないかと腐心したそうです。
その結果がこの曲でした。
生徒への贈り物として作られたといいます。
小嶋先生自身もこの年に退職。
サプライズはこの時だけのはずでした。
しかし次第に近辺の小中学校でも歌われるようになったのです。
歌の持つ力ですね。
2007年にSMAPが出演するNTT東日本のCMソングに起用されたのも大きな契機になりました。
非常におおらかで希望にあふれたいい曲だと思います。
秩父の山なみと青空がきっと全国の人々の心にも響いたのでしょう。
今ではこれがベストのような気がします。
音の作り方に無理がありません。
使っている和音も特別に複雑なものではありません。
歌いやすく覚えやすく、人の心を打つ。
ここしばらくはこの歌の時代が続くのではないでしょうか。
多くの歌手が自分のものにしています。
合唱曲だけに多くの動画がアップされています。
どれも素晴らしいです。
作詞をした小嶋先生自身が登場されているものもあります。
少し調べてみてください。
ぼくが個人的に気に入っているのはユーチューバーの2人組、MELOGAPPAと山田姉妹のものです。
御存知でしょうか。
ちょっと調べてみてください。
音の作り方もていねいです。
たくさんの合唱曲を歌っていますが、「群青」と並んでお勧めしたいですね。
今回も最後までおつきあいいただきありがとうございました。