【三遊亭好楽・どちら様もお先でございます】自然体の人生がいきついた先は

のんきな聞き書き

みなさん、こんにちは。

アマチュア落語家でブロガーのすい喬です。

今回は久しぶりに、噺家のエッセイについて書きます。

正確にいうと、エッセイじゃありません。

単なる聞き書きです。

今年の一月に彩流社から出版されました。

それほど売れているというワケではなさそうです。

新聞記者だった松垣透が定年になって、毎週しのぶ亭に通い、好楽といろいろな話をしたのです

それをそのまま文字に起こしました。

だから特に凝った文体があるワケではありません。

ただしゃべったことがそのまま書きとってある。

75歳になった噺家の独り言に近いものです。

しかしそこには彼の人生観が色濃くにじんでいます。

噺家の世界はかなり特殊ですからね。

普通なら、師匠にお金を払っていろいろ教えてもらいます。

それが芸事の基本です。

お茶、お花、踊り、楽器、なんでもそうです。

しかし落語は違う。

全部タダなのです。

さらに15年ほどして真打になれば、披露口上にまでずっとつきあってくれます。

今はあまりないですが、内弟子の場合、食事から小遣いまで、全部師匠もちです。

着物まで買ってくれ、さらには一番大切な商売のタネである落語を稽古してくれるのです。

それも全部タダです。

全く不思議な世界ですね。

人生を豊かに

落語は噺の中に全部その人の人生がでます。

だから甘く見ちゃいけない。

他人に対しての思いやりとか、気の遣い方がすべて噺の中にでるのです。

好楽は円楽の弟子でしたが、その前は林家正蔵の弟子でした。

九蔵という名前です。

本名が亡くなった正蔵の息子と同じだったので、それはそれは大切にしてくれたそうです。

本当なら、もう弟子はとらないはずだったのに、息子が生きて帰ってきたと思ったのでしょう。

そこから彼の今があるといっても過言ではありません。

本当に師匠を尊敬しているのが、よくわかります。

落語家の人生はかなり不思議な色合いのものです。

お金の使い方、お酒の飲み方、女性との付き合い方、先輩噺家との関係。

実に人間臭い社会です。

ここまで気を遣わないと生きていけないのかと思いますね。

お礼をするのも、宅配便で送るなどということは考えられません。

必ず自分で届けなくてはならないのです。

そうすることで、相手に対する感謝の気持ちを伝えます。

自筆で書くお礼の手紙も大切です。

人間の気持ちをきちんと汲み取れる心の度量が試されるのです。

それができないような人は、必ず落ちていく。

礼儀の基本が身に備わっていないと、この稼業は終わりです。

天狗になったら、そこから地獄への道は近いのです。

消えていった落語家がどれほどいることか。

しかし餓死する人はあまりいません。

誰かが仕事を回してくれる。

そういう社会なのです。

上下関係

タテ社会の典型なのでしょう。

理不尽なことも多いです。

しかし人たらしになれるかどうかが、勝負の分かれ目です。

噺は長くやっていれば、必ずうまくなる。

しかし噺の上手下手だけでは、人気がでません。

そこに人柄がつけ加わるのです。

だからこその噺家家稼業なのでしょう。

好楽の人生は、多くの人に支えられています。

何度も破門にあい、それでも生きてこられたのは、人たらしの部分が圧倒的に多いことがよくわかります。

いい弟子もとりました。

社会人をしてから入ってきた兼好などは、その代表でしょう。

彼自身、お金のことはほとんど考えなかったといいます。

すべてなくなった女将さんが仕切ってくれのです。

その結果として池之端にしのぶ亭ができました。

しのぶは信夫につながります。

彼の本名です。

のぶおという名前が、正蔵の中に火をつけたに違いありません。

亡くなった息子さんの名前だったからです。

落語協会から脱退した時の話も書いてあります。

先代の円楽のところへいった時の話も興味深いですね。

この騒動については、いろいろな角度から本がでています。

関心のある人はお読みください。

円丈の『ご乱心』をお勧めします。

好きな言葉

噺家は本当に生の人間性がそのまま出る商売です。

小さんはよく「料簡」という表現を使いました。

金銭に汚くてはいけない。

つねに正直であれ。

感謝の気持ちを忘れるな。

噺は後からついてくる。

登場人物の料簡になりきることが、落語家の本道だというのです。

好楽が多くの師匠に愛された理由は、彼の人生哲学にあったと考えるべきです。

「笑点」という人気番組を4年間おろされたこともあります。

しかしその後、円楽が復活させてくれました。

女将さんに旅だたれ、寂しい思いをしている日常も素直に吐露しています。

エッセイの持つ特別な味わいはここにはありません。

ただ一人の噺家の嘘偽りのない日常が淡々と述べられています。

正直にいえば、最初読むつもりはありませんでした。

しかしいつの間にか、最後まで読んでしまいました。

軽い本といえば、いえます。

内容も重複しているところが多いです。

きちんと整理しきれていません。

それでも中にでてくる文言には心惹かれました。

ぼく自身の生き方の指針にしたいと思います。

それはなにか。

次の言葉です。

「恨みは水に流せ、恩は石に刻め」

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人間が生きるということは、結局こういうことにつきるのかもしれません。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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