中国の若者たち
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回はお隣の国、中国について少し書きます。
昨年、卒業した大学、大学院生の総数はなんと1158万人でした。
中国の人口は現在、14億2570万人です。
インドに続いて世界第2位です。
ちなみに今年の6月7~8日の2日間、中国で全国統一大学入試(高考・ガオカオ)が実施されましたね。
今年度の受験者数は1291万人。
去年より100万人ほど増えているのです。
中国には二次試験の文化がありません。
大学に合格できるかどうかは、高考(ガオカオ)の結果のみにかかっています。
現在、大学進学率は約60%です。
ここ10年間でほぼ倍増しました。
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近年、小学生に対して家庭教師と宿題を禁止したなどというニュースを耳にした人もいるでしょう。
しかし、それも焼け石に水というのが、現状のようです。
親たちはありとあらゆる抜け道を探します。
とにかくなんとしても子供を有名な大学に入れる。
そこからしか、人生を切り開く道はないと信じられているのです。
ところが中国ではシステムがほぼ出来上がってしまいました。
国をリードする人材が、以前ほど必要ではなくなっているのです。
今の状態で大学卒業生が生まれ続けたら、どうなるのか。
おそらく大半の人が、希望する職種にはつけないでしょう。
就職先がないから、大学院へ進学する人も多いのです。
しかしその数年後には、同じような現実が待っていることになります。
実験中学訪問
今から20年ほど前に中国東北部の実験中学を訪ねました。
日本でいうと、かなりレベルの高い高校に相当します。
日本の高校生たちと、中国の生徒の懸け橋になりたいというNPOの活動を数年間続けました。
基本は手紙のやりとりです。
しばらくその活動をしているうち、文通相手の学校を訪ねようということになりました。
NPOの担当者とぼく、生徒2人を連れて、中国東北部、長春を訪ねたのです。
かつて満州と呼ばれていた地域です。
皇帝溥儀のいたところです。
3月のことでした。
彼らの在籍していた学校を訪れ、ぼくは日本語で簡単な自己紹介の授業を行いました。
同時に彼らの授業風景を見学させてもらったのです。
先生方ともいろいろな話をし、日中の友好の在り方についても貴重な意見を交換しました。
生徒の家に招かれ、夕食をご馳走になったり、先生方とも晩餐会を開きました。
1番、驚いたのは生徒の数ですね。
日本の数倍はいました。
あまりに在校生が多いので、体育の授業がなく、クラブ活動もありませんでした。
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毎日、授業の合間の決まった時間に、全生徒が校庭に出てラジオ体操をするのです。
これには驚きました。
それ以上に驚いたのは、勉強への取り組み方です。
名前を呼ぶと、必ず立ち上がり、自分なりの考えを必ず先生に伝えます。
机の上にたくさん教科書がのっていました。
生徒用のロッカーがないからです。
生徒は先生の話を聞き逃すまいと必死でした。
居眠りなどということは考えられません。
寝たら負けなのです。
一人っ子政策の最中でした。
親の世話をしなければならないという義務感が、たった1人の子供の肩に重かったことだろうと思います。
長春外国語学校
周恩来首相の肝入りで作られたという長春外国語学校も訪れました。
特別選考で入学する学校です。
日本語クラスの生徒はよくできましたね。
日常の会話はもちろん、日本の新聞などを元に、作文を書いていました。
その当時、よく論じられていた内容が、日本の受験戦争です。
厳しい入試を突破しないと、大企業に就職できないという事情を彼らは詳しく知っていました。
市場の案内なども、生徒にしてもらいました。
日本企業へ勤めたいという生徒もいました。
将来は大連の日系航空会社などへ就職したいという女子生徒もいて、関心の高さに驚いたものです。
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あれから20年の歳月が経過しました。
その間に中国はあっという間に日本のGDPを抜き、世界に躍り出たのです。
授業の中で、いずれ中国は日本を追い抜くだろうと話しました。
そのスピードは予想以上に早かったです。
その後、一人っ子政策などは取り下げられました。
しかし現在も出生率はあまり上がっていません。
それ以上の難問は、彼らがみなホワイトカラーを目指して、大学へ殺到したことです。
中国は科挙の国です。
学力さえあれば、のし上がれるという伝統を信じています。
親は将来のことまで考え、財産の多くを子供に使います。
それでも国力が増進し、それを支える企業が伸びている時代はよかったのです。
バブル崩壊
昨今の様子をみていると。そう単純な構造でないことがはっきりしてきました。
住宅バブルは深刻です。
中国恒大集団、碧桂園などは雇用を大幅に減らしています。
IT企業も従業員の数を絞り始めていることはいうまでもありません。
日本の現状との差をみてみましょう。
日本の大学の数はどうなっているのでしょうか。
2023年度の日本の大学数は793校でした。
昨年度は790校で、3校増加したことになります。
定員数はどうなのか。
2024年4月は定員約63万9000人に対して、志願者は約61万9000人と見込まれています。
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つまり全入状態なのです。
当然閉鎖せざるを得ない大学がでてきますね。
中国はどうでしょうか。
大学の総数は2000年時点で約1100校ありました。
しかし2023年には2800校以上と3倍近くになったのです。
さらに大学を卒業しても就職できないので、大学院を増設しました。
ところがこれも単なる問題の先送りにすぎなかったようです。
そこへもってきて、留年をする学生もいます。
その結果がタイトルにある通り、大卒、大学院卒の合計が1158万人ということになりました。
日本でも学歴フィルターの話題はよく聞きます。
それ以上に中国では、どこの大学を出たのかがより厳しく選別の対象となるのです。
卒業したら即失業というのが、今の中国の実態に近いようですね。
希望する職種に採用される人の数はわずかです。
少し前までは「寝そべり族」という言葉が随分はやりました。
卒業はしてみたものの、何もしないで遊んでいる状態です。
経済の状態が次第に悪化しています。
高齢化も日本以上に急速に進んでいるのです。
中国政府も手をこまねいているということはありません。
2020年からは公務員の求人も増やしました。
しかし20万人の募集に770万人もの応募があったといいます。
誰もが都市でのホワイトカラー化を望めば、現在のような状況になるのは、目に見えていました。
仕方なく、家で「専業子供」になるしかありません。
不安と不満のマグマが地下から噴き上がった時、中国の若者たちはどこへ向かうのか。
考えただけでも怖ろしいことです。
外国への留学や、外国企業への就職を目指す人も多くなりつつあります。
裕福な人ほど、たくさんの抜け道を画策しています。
日本以上に問題が先鋭化する日は近いのではないでしょうか。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。