止揚という作業
みなさん、こんにちは。
小論文添削歴20年、元都立高校国語科教師、すい喬です。
みなさんは「止揚」という表現を御存知ですか。
これは哲学、論理学の中でも大切な言葉です。
ヘーゲルという哲学者がこの言葉をよく使いました。
ドイツ語では「アウフヘーベン」と言います。
その意味は…。
①あるものを否定するが、契機として保存し、より高い段階で生かすこと。
②矛盾する諸要素を、対立と闘争のプロセスを通じて発展的に統一すること。
わかりますか。
もう少し簡単に言えば、古いものを否定し新しいものを出現させることです。
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しかし古いものを全面的に捨て去るのではありません。
良質なところだけを取り出します。
それが積極的に新しく高い段階として保持され、次の段階に至ることを意味するのです。
つまり全てを否定するのではありません。
その中で使えるところをとって、より高い次元のものとして再生していく。
あるいは含みこんでいく。
この作業を「止揚」と呼びます。
小論文を書くということはまさにこのプロセスを行うことを意味する作業なのです。
そう考えると、反論という表現も理解しやすいのではありませんか。
なんでも反対だ、何でもNoだというワケではありません。
この論理のこの部分にはどうしても納得がいかない。
しかし別の論点には賛成だというケースもあるでしょう。
無限ループにならないのか
冷静に考えてみましょう。
筆者の論点に反論したとします。
かなり新鮮な視点で自分では案外いい線をいったかなと思うこともあるでしょう。
しかし別の答案には、当然のようにそこまでの推論が出ていた。
それに対して再度問題意識を持ち、反論していたものもあった。
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ということにはならないでしょうか。
意見に対しての反論、それに対しての再反論というように無限ループとなる可能性があるのです。
もちろん、そこまで短い時間や字数の中でできる人が何人いるかはこの際、考えません。
しかし可能性としては十分あり得ます。
テーマはなんでもいいですね。
簡単に解決のつかないものならなんでもいいです。
核開発などいうのはどうでしょう。
これだけ世界が核を廃絶しようとしても、なくなりません。
いや、むしろ秘密裡に研究開発は進む一方です。
完全に地球上から核をなくすことは可能なのか。
あるいはこれ以上に保有国を増やさないことが現実的なのか。
エネルギーの問題と絡めれば、その複雑さがよくわかることでしょう。
プラスチックフリーも同様です。
ものすごい量のマイクロチップが世界中の海を漂っている現状をどう変革させるのか。
具体的な実効性のある方法はあるのか。
少子高齢化、ジェンダー、食料問題、地球温暖化。
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どんなテーマでもかまいません。
少し複雑な問題を考えてみた時、反論が次々と重ねられていくということの意味が理解できるのではないでしょうか。
世界は難題で膨れ上がっています。
どれひとつをとってみても簡単に解決のつく問題はありません。
反論には限界がある
ここまで反論の可能性を考えてきました。
賛成と反対の繰り返しはどこまでいっても際限がありません。
としたら次の方向はどうすればいいのでしょう。
短い字数の中で、存在感を感じてもらう必要があります。
そこで新たな方向性を打ち出すのです。
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小論文の試験で複雑な世界の問題を解決しようなどと考えるのには無理があります。
いくらかでも肉薄できれば、それでよしとすべきでしょう。
入試です。
まず合格することが目標なのです。
そのためにはどうすればいいのか。
反論の繰り返しはやめた方がいいですね。
そこまで考え続けるのは、得策ではありません。
というより、実際の試験ではできません。
時間と字数が限られているからです。
ではどうしたらいいのか。
表現力と論理性
入試小論文のポイントは内容理解の正確さです。
一言でいえば論理力なのです。
ディベートを授業などでやったことがありますね。
あれを解答用紙の上で行う作業だと考えてください。
最後はジャッジをしてくれる人がいます。
その採点者に全てを任せることです。
逆にいえば、自分にできることをきちんと示すのが大切です。
ここまでは考えたという軌跡をみせるのです。
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いい加減な反論をいくつも加えることは得策ではありません。
そんなことをするくらいなら、1つを徹底的に効率よく書くことです。
ここまでは考えたが、ここから先はさらに勉強したいと素直に表現することです。
もしそのテーマが自分の将来学んでみたい分野だったら、そこをめがけて猛烈にアタックすることです。
採点者の心証は悪くないはずです。
ここまで思考を進めて、さらに研究を続けたいのであれば、頑張ってもらいたいという気持ちになるものです。
あるいは対立から抜け出せなくなることがあるかもしれません。
その時は、なぜそうした構造になるのかを説明することです。
問題の深刻さがこれだけわかっていながら、解法への道がみつからないということは、そこにあるテーマの根深さが理解できているということです。
それを1つでいいから示しましょう。
それだけでも現状をきちんと理解しているという事実を示したことになります。
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事象が対立するにはそれだけの理由があります。
止揚するという作業を連続させるための視点を示せれば、それで十分です。
問題が複雑になればなるほど、このやり方で切り抜けられます。
解決策を示せなくてもかまいません。
そこまでの道のりをあらわし、あとは採点者にジャッジしてもらうのです。
小論文に模範解答はありません。
あなたが自分で最後まで作るのです。
これからの学習に期待しています。
最後までお読みいただきありがとうございました。