冲方丁の時代小説!天地明察・光圀伝にハマった話

時代劇エンタテイメント

みなさん、こんにちは。

ブロガーのすい喬です。

お元気ですか。

毎日、本を読むのがなによりの楽しみです。

月に何冊読んでいるのか。

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ブログ関係の本は片っ端から、落語関係の本は全部。

小説も気になるのはどんどん読んでいきます。

最近は口当たりのいい小説が多くて、正直途中で諦めてしまうのもあります。

世の中、こんなに単純じゃないよ。

長く生きていると、実人生の方がほとんど小説よりも複雑だなと感じることが多いです。

それだけ生きにくい世の中なんでしょうか。

そういう時は時代小説です。

司馬遼太郎の『竜馬がゆく』を読み返しました。

いい気分です。

藤沢周平の『蝉しぐれ』

これは泣ける。

こんなに我慢して我慢して生きていかなくちゃならないのかと何度も思いますね。

そういうのにくたびれたら、時代活劇だ。

最近はエンタテイメントの要素をたくさん持った時代小説もたくさんあります。

しかしそれもあまりウソっぽいと、ちょっと勘弁してよということになります。

何年前の本でもかまいません。

その時読みたい本が、一番自分にあった本なのです。

天地明察

数年前に読んで、その後映画を見たのが冲方丁の『天地明察』です。

これは数学に興味のあるぼくとしては、かなりユニークな内容でした。

2009年に角川書店より刊行。

江戸時代前期の囲碁棋士で天文暦学者の渋川春海の生涯を描いたものです。

第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞受賞。第143回直木賞候補にもなりました。

時は四代将軍徳川家綱の治世。

棋士の身分でありながら、会津藩主、将軍後見役保科正之に目をかけられる安井算哲(後の渋川春海)の物語です。

彼は天文、数学にも深い興味を示す好奇心旺盛な男でした。

保科はこの男の並々でない力を信じ、新しい暦をつくらせようとします。

算哲は正之に呼び出され、「半月後から日本各地で北極星の位置を確認せよ」と命じられます。

刀を下賜され職務に当たれというのです。

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これは幕府の正式な事業でした。

この後すぐに登場するのが関孝和です。

江戸時代に現在の微分積分学を発案した和算学の大家です。

やがて職務を遂行している途中に、月食が訪れます。

しかし今までの暦ではその日の月食について予見したものはありませんでした。

当時は800年前の唐から伝わった宣明暦しかなく、年月を経てズレが生じていたのです。

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北極星の位置を確認する作業は過酷を極めます。

それでも幕府の命令は絶対です。

算哲はある日、水戸光圀に呼び出されました。

算哲は暦のズレが2日あることを報告します。

光圀は公家たちが既得利権のために暦を独占していることをよく知っていました。

しばらく後、算哲は悲願であった改暦の責任者に任じられます。

しかし一度はできたと信じた暦には狂いがありました。

そのことにより、死罪となるところを、危うく許されます。

その後、完成までにはまた長い時間を費やしたのです。

保科という人物が、いかに度量の大きな、人間をみる目の確かな人だったのかということがよくわかります。

彼が将軍の後見役でなかったら、とうに算哲はその命を落としていたことでしょう。

これは江戸初期に実在した暦の改革者安井算哲、和算を完成させた不遇の算術家関孝和、さらに保

科正之、水戸光圀といった偉大な名君たちの物語です。

ここにSFエンタテイメントを書き続けてきた冲方丁の横顔はありません。

この小説を書いたことで、皮が一枚剥けたとでもいえばいいのでしょうか。

この作品は多くの人に迎えいれられました。

日本人が好きな、苦労の果てにことが成るというタイプの話であったことも、好感を持たれた要因でしょう。

しかし、冲方丁は今までこういうタイプの小説を書く作家ではなかったのです。

SFフリーク

彼は日本SF作家クラブ会員です。

『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞受賞ときくと、あまりにも『天地明察』との関連のなさに驚かされます。

この作品はガンアクションです。

身寄りのない少女が救いの手を差し伸べたはずの男シェルに突然殺されかけます。

瀕死の状態から目覚めると、その身には金属繊維の人工皮膚と、あらゆる電子機器を操る力が与えられていたという話です。

圧倒的に影響を受けたのは夢枕獏と栗本薫でした。

伝説化しているユニークな逸話としてこんなのがあります。

デビュー作執筆の時、夢枕の『上弦の月を喰べる獅子』を鋸で裁断したこと。

栗本の『魔界水滸伝』を学校の焼却炉に放り込んだこと。

どのくらいこの2人に惚れ込んでいたかが、よくわかるというものです。

その彼に『天地明察』を書かせたものはなんだったのか。

歴史小説です。

いいかげんなことは書けません。

夢をみたかったのではないか。

20年以上もかけて暦をつくるという作業は、想像を絶するものです。

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その姿に自分を重ね合わせたかったのかもしれません。

夢を実現するための勇気があれば、必ずことはなるという信念の書

ふと、そんなふうにも感じます。

光圀伝と麒麟児

この小説を書くきっかけになったのは、保科正之と水戸光圀の人間像があまりにもみごとだったからでしょう。

安井算哲を主人公にした物語を書かなかったら、絶対に『光圀伝』は完成しませんでした。

あるパーティ会場で、出版社の担当者が、是非書いてほしいと嘆願したとか。

テレビでおなじみの水戸黄門という人物を、正確に描いてみたいという気持ちが芽生えたと言っています。

それは何か。

人間をどのように分析して、表現すればいいのかというスキル。

それを前作で手にしたという自信が芽生えたからではないでしょうか。

とにかく長い。

750ページあります。

大きな活字でざくざくと印刷してあるというわけじゃありません。

本当に時間がかかります。

それでも内容に引きつけられて、最後まで一気に読んでしまいました。

登場人物が多彩です。

父頼房、宮本武蔵、兄頼重、山鹿素行、保科正之、林読耕斎、妻泰姫、安井算哲、朱舜水、藤井紋太夫

なぜ兄の頼重でなく、自分が水戸家を継がなければならないのか。

これは儒教の義に反するのではないか。

父は何も言いません。

次々と厳しい試練を光圀に課します。

傾奇者として暴れ回る中で、宮本武蔵と知り合い、人をあやめることの意味を考えさせられます。

このあたりはエンタテイメントの要素もかなりあり、今までの時代小説とは明らかに違います。

兄のいる身でありながら、水戸藩の跡継ぎとなったことがどれほどの苦しみとなったのか。

なぜ自分なのかという繰り返される問いとなっていきます。

妻として娶ることになった泰姫に、兄の子を養子として迎え、自分のあとはその子を世嗣としたいと告げます。

この時の妻のやわらかさは、冲方丁が今までに描いた女性像の中で、一番よく書けています。

それだけに早死にをしてしまった時の光圀の苦しさが、なおいっそう哀れを呼ぶのです。

それにしてもこの小説にはあまりにも多くの人の死が描かれます。

病に臥せってしばらくすると、すぐに死がやってくる。

そういう時代だったのだと言われれば、それまでですが、親しかったものが、目の前から次々とい

なくなる悲しさはなみなみのものではありません。

この作品が今までの小説と違うところがあるとすれば、それは重苦しいまでに人の死を続けて書き

続け、それを凝視したことです。

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苦しいからと言って、脇を向いていません。

やがて若い世代が台頭し、光圀は老いていきます

人が生きたことをどのようにして後世に残せばいいのか。

そこから歴史を書いて残すという彼の畢生の事業への目覚めが始まります。

まぎれもなく生きた人間達がそこには確かにいたのだというのが、光圀の信念です。

人の世は黙っていれば阿鼻叫喚の地獄となるという事実を教えてくれたのは宮本武蔵でした。

17歳の頃、光圀が武蔵に戦さというものを教えてくれと聞きました。

樽に鼠のつがいを数匹入れてみろと武蔵。

天敵のいない樽の中のネズミは、飢えもせず、病気にもならならない。

ただ自分の居場所を確保し、広げ、己の血筋を増やすためだけに殺しあっていきます。

戦国の世の人間の姿を武蔵が教え諭したのです。

『光圀伝』は三宅乱丈がコミックにしています。

小説がつらい人は一読してみるといいかもしれませんね。

ここにはあのテレビに出てくる水戸黄門はいません。

旅をすることもありません。

最後は途方もないことを考え、徳川家を転覆させようとした家来を自分の手で殺します。

その殺し方こそ、武蔵にならった脇差しを鎖骨から一気に肺まで突き通すという技でした。

鎖骨の上の急所を缼盆(けつぼん)といいます。

義のためだとする光圀最後の決断でした

何をもって名君とするのか。

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これは難しいことです。

しかし読んだあとのやるせなさは、人生そのものが持つ苦しみに裏打ちされています。

時代小説の3作目は『麒麟児』です。

勝海舟と西郷隆盛の無血開城への道のりが描かれています。

皆さんにも是非一読をお勧めしたいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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