週刊文春編集部
みなさん、こんにちは。
元都立高校の国語科教師、すい喬です。
かつて雑誌の記者をやっていたことがあります。
わずか1年半だけでしたけどね。
毎日何杯のコーヒーを飲んだことか。
名刺1枚持って、来る日も来る日も知らない人に会いに行きました。
よくあんな青臭い記者にインタビューなどをさせてくれたものだと感謝の気持ちしかありません。
パーティにもたくさん出ました。
朝は少しのんびりと出勤しましたが、帰りは決まっていませんでした。
タイムレコーダーはいつも真っ赤でしたね。
つまり遅刻のオンパレードです。
それが勲章みたいなものでした。
朝、一斉に飛び出すと誰がどこにいるのかわかりません。
今と違って携帯電話などはありませんでした。
ただデスクや編集長は電話があるのを待っているだけなのです。
それでもなんとかなりました。
とにかく記者にはいろんな人がいました。
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ああいうタイプの人達にはあれ以来会っていません。
教師になってからは種族もガラッとかわったような気がします。
どうしてこんなことを書き始めたのかといえば、週刊文春の編集局長だった新谷学さんの本を読んだからです。
タイトルは『週刊文春危機突破リーダー論』(光文社)。
7月に初版が出ました。
最初から最後まですごい勢いです。
読んでいるだけで大変くたびれます。
スジのいいストーリー
稼がなくてならないのが企業の宿命です。
リーダーになれば、必ず数字がついて回ります。
それを無視して仕事はできません。
とても苦しい。
しかし稼ぐことばかりに目がいくと、やはり品性が下がってしまいます。
そのバランスが難しいですね。
今、雑誌は苦行の時です。
ネットにほぼエネルギーを吸い取られてしまったかのようです。
広告も減り、売れ行きも落ちるばかり。
なんとか挽回しなくてはならないと思ってみても、お金を出して買ってくれるお客を掴むのは大変です。
儲けを気にしなくては管理職は務まりません。
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しかしそればかりが話の根幹になると、人間性が卑しくなる。
スクープは雑誌を売るためのものです。
しかし売るという前提の前にもう1つのクッションがあります。
社会の公器になれというのがそれです。
そんなものはタテマエだといってしまえば、それだけのこと。
しかし細い蜘蛛の糸が、社会に向かって力を発揮することもあります。
2019年の法務大臣公職選挙法違反の裏話は特に面白かったですね。
河合克行大臣と妻の案里さんの参議院選にからんだスクープです。
ウグイス嬢に公職選挙法で定められた倍の額の手当を支払っていたという内容です。
同時直撃
編集長は13人のウグイス嬢を同時に直撃しなければリアルな反応が得られないとして断行しました。
前夜に広島に向かい、朝の8時に口裏合わせをしないうちに証言を得ようとしたのです。
全員が知らないといえば、ムダになります。
お金もかなりかかりました。
広島往復の電車賃と宿泊費。
特集班は30人の世帯です。
その中の半数を割いてまで決行したのは編集長のカンだけが頼りでした。
掲載予定の記事を週刊文春発売の前日にニュースサイト「文春オンライン」に1部流しました。
ただちに政界を揺るがすスクープとなり、河井法務大臣は翌日の朝に辞任。
その後のことはご存知の通りです。
裁判の末、杏里参院議員も辞職。
2人の議員は政界から追放されました。
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その後も1億5千万円といわれる選挙対策費がどうしてこの大臣に渡されたのか。
噂は幾らでも出てきています。
今もはっきりしないまま、選挙に突入してしまいました。
スクープをとるには手間も暇もお金もかかります。
この一連の取材の中で週刊文春は何を得たのでしょうか。
お金はもちろんのこと大切です。
稼いだことは間違いがありません。
しかしそれ以上に1番大切だったのは読者の信頼でしょう。
あの週刊誌にネタをもっていけば、なんとかしてくれるという気分が大切なのです。
情報の持ち込みはあれ以来飛躍的に上がったそうです。
他に持って行っても握りつぶされると感じた人が文春に持参するようになりました。
もちろん、中身を精査しなければ絶対に着手しないことは言うまでもありません。
デジタルの時代
今の時代、ネットのスピードに絶対に勝つことはできません。
となれば、新しい稼ぎ方の仕組みはデジタルとのコラボしかないという読みはあたりました。
文春オンラインを有料化しつつ、記事の2次採用などにも課金するようにしたのです。
自分たちが苦労して集めた写真や記事の内容を垂れ流すようにしてテレビの番組が作られることには、以前から不満があったそうです。
今はそれも全部解消し、それぞれのセクションとの間の風通しがとてもよくなったとか。
どうしても所属部署同士の対立というのは出てしまうものです。
その関係をよくするために脇から口をはさまない。
全てを編集長権限にするというのも不文律になってるいるそうです。
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組織は横に連携していかなければ、必ず自家中毒を起こします。
文春の例でいえば、広告収入の減少を救ったのはオンラインでした。
デジタル版の活用で出版部との関係もスムーズになり、週刊誌の記事がよければすぐにムック化できるようになりました。
当然スピードもあがり、タイムリーになります。
その成功例が『コロナ完璧サバイバルガイド』だったそうです。
発売と同時に1部をオンラインで流し、目玉記事を公開するのです。
そこでさらに新しい読者を開拓するという仕掛けです。
ワンソースマルチユースの典型的な例だといえるでしょう。
組織が生きるかどうかは、人事が全てです。
適材適所と言葉でいうのは簡単です。
しかしそれを実際に行うことの難しさはやってみればわかります。
男の嫉妬は仕事から生まれます。
地位だけではありません。
課せられた仕事の内容も大切なのです。
リーダーになる人の苦労は想像を絶するものです。
日々の戦いの中で、それでも楽しくなければ、だれも満員の電車に乗ってまで会社に行こうとは思いません。
厄介な仕事ほど熱を覚えるものなのでしょうか。
今回も最後までおつきあいいただきありがとうございました。