【新型入試・総合型・推薦】ポートフォリオ提出に潜む格差社会の現実

学び

ポートフォリオって何?

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は新しい大学入試のシステムについて考えましょう。

学習指導要領が改訂されるのにあわせて、次々と新しい言葉が出てきています。

その1つが「ポートフォリオ」です。

ご存知ですか。

ポートフォリオとは、運べる書類という意味です。

フォリオはイタリア語です。

ポータブルな書類ということです。

わかりやすく言えば、自分史を記録した書類です。

今までも似たようなのはありました。

内申書や推薦書がそれです。

しかし実際に内申書を書いていた身としては、隋分と苦労しましたね。

同じ生徒を最初からずっと見ているワケではありません。

3年生になって突然、自分のクラスになった生徒もかなりいます。

行動の記録から、短所長所までを全て書き込むのは大変な仕事でした。

しかしこれが3年の担任の重要な任務なのです。

時間も取られますしね。

最近はパソコンで作成します。

1年生の時からの活動記録があるので、それに追加して書き込んでいきます。

しかし記入欄はそれほど大きなものではありません。

フォーマットがあらかじめ決まっています。

どうしてもよく出てくる表現のオンパレードになるワケです。

性格は温厚で礼儀正しく誠実である。

積極性があり友人の信頼も厚い。

クラスの委員としてよく他人の発言を聞き、きちんと役割を理解して実行する。

学力も優秀で勤勉である。

このような文言が次々と並ぶのです。

あとは入部していたクラブ名や、委員会名でしょうか。

試合などでの実績があればあわせてそこに書き込みます。

推薦書はつらい

学校推薦型選抜(推薦入試)、総合型選抜(AO入試)に必要なのが、まさに推薦書です。

これは学校によって実にさまざまでした。

忙しい時は1日に3通くらい書きましたね。

内申書に比べて記入欄が格段にあります。

裏表にわたって書いた時もありました。

昨今の推薦入試、総合型入試などではクラブ顧問、外部のNGOやNPOの代表に活動した記録などをまとめてもらうケースなどもあります。

書ける内容が少ない時には、何を書いてほしいのか一覧にしてもらいました。

どのような活動を校内や校外で行い、それ以外にどんな実績を残してきたのか。

大学に入学するにあたってアピールしたいことがあったら全て書き出してもらいました。

それを次々と文章にしていくのです。

どこまで入試担当者が読んでくれているのかはわかりません。

しかし書き方が悪くて入学できなかったということがないように、最善を尽くしました。

最近のAO入試は願書の締め切りが早いのです。

夏休みに入ったあたりから受付が始まります。

そのためにどんどん仕事が前倒しになっていきました。

主体的な学び

この流れを読んでどう思われましたか。

もっと生徒自身が積極的に関われないのかと考えるケースも当然あるでしょう。

つまり自分で自分の歴史を積み重ねて記録しておき、それを入試の際に提出するという考え方です。

全てを教師にまかせるのではなく、主体性をもって評価のための資料を作ろうというのです。

もちろんその考え方を貫いている大学も少数ですがあります。

推薦書は不要なのです。

新しい指導要領は「主体的な学び」に重点を置いています。

ポートフォリオの考えとまさに合致しているのです。

従来の知識、技能、思考、判断などとあわせて、主体性を前面に掲げています。

自分で自分の行動を認識し、それをまとめ上げていくという方法は理想的なものともいえます。

ポートフォリオはキャリア形成といっても差し支えありません。

昨年、その狙いでできたのが「ジャパンeポートフォリオ」(JeP)でした。

geralt / Pixabay

生徒が日々の学習の記録や何を学び、何を得たのかを電子化していきます。

生徒はJePのポータルサイトやJePと連携できる民間のアプリを使います。

学習、部活動、委員会活動などの記録を入力していくのです。

しかし利用する大学が少なかったことから、現在はシステムの運営を中断しています。

しかしこれで終わりということは考えられません。

この流れは今後拡大していくことと思われます。

日本よりも韓国の方がこのシステムの運用は先に進んでいます。

ところが問題がさまざまに露見し、今後どのようになるかまだ先が見通せません。

英語の外部試験導入も韓国の方が先に実施する予定でした。

入試が日本よりも厳しい現実の中で、模索が続いているのです。

しかしこれも記述式解答の採点をどこまで平等に行えるのかという難題の前で頓挫しているのが現状です。

何がネックなのか

韓国では日本の大学入学共通テストにあたる試験を「大学修学能力試験」(修能)と呼んでいます

「定時募集」と呼ばれ、かつてはこちらの試験がメインでした。

しかし今は「随時募集」が大勢を占めています。

日本のAO入試や一般推薦にあたる試験です。

内申書やポートフォリオが選抜の資料です。

ところが高校時代の実績を積み上げるのは容易なことではありません。

学内外のコンテストに入賞するために家庭教師を雇ったり、エピソードをつくるために、あらゆる努力を惜しまないのです。

裕福な家の子弟は有利な情報をできるだけ早く入手し、それを実行しようとします。

このことが随時募集の入試は「金の匙入試」と呼ばれている理由です。

それを象徴する事件が元法相の娘の不正入学疑惑でした。

高校生だった時、法相の娘は医学論文の筆頭著者となり、名門高麗大学に入学しました。

通常はこのような論文の筆頭著者になることなどできません。

まさに富裕な家系に生まれた人にだけ可能な裏ワザだったのです。

将来の大統領候補ともいわれた元法相は、あっという間にその座から引きずりおろされました。

ポートフォリオは確かにすばらしいシステムだと思います。

生徒が自分で自分のキャリアをつくり出していくという方法は、アメリカ型のものです。

しかしそれが厳しい受験戦争の国に移植された途端、全く違う表情をみせてしまったのです。

westerper / Pixabay

それでなくても学歴社会の弊害が日本以上に激しいと言われる韓国ではあっという間に変質してしまいました。

ボランティアを何時間やらなければ合格はおぼつかないとか、校内での受賞実績が何回以上は必要だとかという競争になってしまったのです。

スポーツにしても、語学にしても、大学入試に有利な方向へシフトしています。

経済力がなければ、とても合格を勝ち取ることはできません。

日本で実際にこのシステムが運用を開始された時、どのようなことがおこるのでしょうか。

冷静に判断をしていかなければなりません。

格差社会に入ってしまった日本でも韓国と同様なことが起きないとは言えないのです。

理想は高く、現実は低くというのでは改革になりません。

この問題については、もう少し考えてみたいと思います。

今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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