内向き志向
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今日は日本の若者について考えます。
今の若い人は自分の国の中で満足してしまって覇気がないなどと評されます。
よく耳にする表現です。
本当なんでしょうか。
このテーマで小論文が出題されたことが過去に何度もあります。
どちらかというと、否定的な調子で書かれたものが多かった気がします。
毎年継続的に実施されている調査によれば、新入社員の60%が「海外で働きたいとは思わない」との回答をしているとの結果が示されているのです。
グローバルな時代の中で世界を舞台にして働く若者の姿といえば、すぐに商社マンなどが思い浮かびます。
しかし彼らの軸足はあくまでも日本にあります。
たとえ外国へ行くことがあっても数年すればまた日本へ戻ってくることが約束された職場に就職しているのです。
海外で働き、それこそ骨を埋める覚悟の人はそれほど多くはありません。
なぜこういう傾向が強いのか。
このテーマを自分のこととして想像してみてください。
海外留学や海外勤務を実際にしてみたいかどうかについてです。
積極的に外に出たいとすれば、それはなぜですか。
その反対に躊躇ってしまう理由は何ですか。
そこにこの問題の核心があります。
日本はかつてアジアの覇者でした。
世界のといっても過言ではありません。
しかし今のポジションはどうでしょう。
低成長に加え少子高齢化の波が襲い掛かっています。
その一方でアジアの国々の発展はものすごい勢いです。
目を見張るものがありますね。
起業意欲
こういう質問はどうでしょうか。
あなたにはインドネシアやベトナムで起業をする意思がありますか。
そのためにあらゆる努力を惜しまないと言えますか。
海外留学をして、積極的に外国での商取引などの勉強をしたいですか。
グローバルな事業展開を行う外国の企業に就職する気持ちはありますか。
ここまで書いてみて、このような問いかけをされたことが今までなかったという人も多いのではないでしょうか。
国内にいたら、あまり真剣に考える機会もなかったというのが正直なところかもしれません。
日本の若者が内向きだと口にすることは簡単です。
しかしそこに至るプロセスまでていねいに学んだ記憶がないに違いないのです。
けっして留学をしたくないというワケではない。
しかしためらいも残るというところかもしれません。
現代は世界標準でものごとが決まります。
つまり地球全体を見回せるような広い視点を持った人材が要求されているのです。
確かに大学の講義などでも扱われることはあります
しかしあまりにも実感が遠いのです。
特に国際関係の学部では留学を単位の基準にしている大学が多いです。
必ず半年から1年間かけて、外国で勉強してくるというカリキュラムが組み込まれています。
しかしそこに立ちふさがったのがコロナウィルスの蔓延でした。
この壁の厚さは予想以上のものだったのです。
外国から人が来なくなり、こちらからも行けなくなりました。
その結果現在ではリモートでの疑似的な留学しかできません。
このダメージは想像以上のものです。
数年後には必ず再開すると信じていますが、大きな損失でした。
意識調査
2019年5月末に、若者に対する内閣府の意識調査が行われ、様々なメディアで取り上げられました。
調査の対象は13~29歳の男女です。
対象国は日本・韓国・アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデンの7カ国。
調査方法はインターネット調査で各国約1000名ずつが対象に選ばれました。
最初に留学に関する項目を見てみましょう。
「将来海外留学をしたいですか?」という問いに対して「はい」と答えた人は韓国が65.7%、日本は32.3%です。
考えられることは「日本の若者が内向きだからだ」とか「異文化への興味が減少している」などの理由に突き当たります
本当なのでしょうか。
どうして留学したくないのかという理由が諸外国と日本ではかなり違います。
代表的な理由は次の3つです。
① 言語面の不安
② 金銭的な問題
③ 留学の必要性の程度
圧倒的なハードルは言葉でしょう。
今や世界の共通言語は英語です。
しかし日本人の大多数は苦手意識を強く持っています。
英語が母国語でない欧米人にとって、英語を学ぶことにそれほど高いハードルはありません。
単語も発音もアルファベットも似通っています。
さらにいえば地続きのため、幼い頃から英語を耳にする機会が豊富でした。
違和感が少ないのです。
アジアの言語圏に属する民族が英語を学ぶ労力に比べれば3分の1程度の時間で習得できると言われています。
それに比べて漢字とひらがなの文化から英語へ到達するのは容易なことではありません。
金銭面の不安
その他の理由もあわせてみておきましょう。
① かなりの金銭が必要
② 行く必要性を感じない
③ 治安が不安
④ 健康面の不安
この4つが大きなものでした。
問題は①の予算の問題です。
7か国を比較した時、韓国を除いてヨーロッパ圏は移動に必要な金銭の額がかなり少なくてすみます。
極端なことをいえば、イギリスとフランスなどはバスで数千円を出せば移動できるのです。
これだけでも日本からの留学がいかに大変なことか理解できるでしょう。
半年、1年間留学するとなると、100万円以上の費用がかかります。
現在でもEU圏内では人の移動がとても活発です。
EU国間で留学をした場合、学生ビザで気軽にアルバイトもできるのです。
ロンドンからパリの距離は、東京・京都間の距離とほぼ同じです。
アルバイトをしながら学生をすることがそれほどに難しくない理由がよくわかるのではないでしょうか。
調査対象になっている韓国はどうなのでしょう。
アジア圏では大変留学生の多い国の1つです。
ポイントは若者の就職率の低さなのです。
SKY(ソウル大、高麗大、延世大)と呼ばれている有名大学を卒業しても、なかなか大企業に就職するのは難しいのが実態です。
さらに国としても海外で働くことを支援しています。
わかりやすくいえば国内にいても仕事がないのです。
そこで目は必然的に外に向かいます。
それに比べれば日本は就職率が格段にいいのです。
必ずしも留学経験を必要としません。
治安や健康面での不安も島国で暮らしている日本人には大きな問題かもしれません。
コロナ禍の問題が解決した時点で、短期の留学研修などを積極的に進め、奨学金制度などを広く整備しないと現状から先に進むことはないでしょう。
子供を海外へ留学させるにはかなりの費用が必要です。
今の日本の経済状態からみて、経済的に余裕のある家でないとできないことなのです。
単純に内向き志向になったといって嘆いているだけでは済みません。
複雑にからみあった要素を1つ1つ冷静にときほぐす努力をする必要があります。
単純に風評だけで決めてはいけません。
このテーマで小論文を書く時は最低限、ここに示した内容をチェックしておいてください。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。