【生命倫理・IPS細胞・ゲノム】遺伝子の操作はどこまで許されるのか

学び

生命倫理・IPS細胞・ゲノム

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回はゲノムとIPS細胞に絡む生命倫理の問題を取り上げます。

医療看護系の学部はもとより、それ以外の分野にも出題される内容です。

近年、ゲノムという言葉をよく耳にするようになりました。

遺伝情報の総体をあらわすものです。

2000年に、ヒトゲノムを構成するDNAの全塩基配列が解明されました。

それ以来、30億個に及ぶ塩基配列をどう考えればいいのかということが、ずっと問題になってきたのです。

簡単にいえば、人間はこの遺伝情報のシステムを改変できるのかということです。

特にガンの発生などは免疫の仕組みがわかれば、その構造を別のものに置き換えることが可能になります。

さらに遺伝病の解明が進めば、1000種類を超える病気の発生メカニズムを変えることが可能になるのです。

しかしここには大きな問題があります。

遺伝情報は個人のプライバシーに属します。

勝手に他人が改変していいのか。

倫理的にそれは許されることであるのか。

さらにいえば、人権に関わる深刻な問題も考えられます。

社会に不適合であるという事実から、妊娠をとめてしまうなどという事例も出てくる可能性があります。

さまざまな病気の発生メカニズムを調べていくと、誰でもが遺伝子の中に異常を持っていると考えるのが自然です。

遺伝はある意味、一種の個性なのかもしれません。

そうした細胞単位の研究が進む中で発見されたのが、IPS細胞です。

IPS細胞とは、体の細胞に特定の遺伝子を導入し、受精卵に近い状態に戻すことで、さまざまな細胞に分化する能力と無限に増殖する能力を持たせた細胞のことです。

人工的に体細胞を別の形に誘導していくのです。

IPS細胞研究の優位性

数日前の新聞に、次のような記事が載っていました。

それによると、日本で世界に先駆けてつくられたiPS細胞の研究開発の優位性が揺らいでいるというのです。

近年、論文数や特許数は海外にリードを許していて、製薬企業が患者に試している段階の治療法の件数も、海外の製薬企業に追い上げられているのだそうです。

iPS細胞の研究に力点をおいてきた日本の真価が、今こそ問われているのです。

この技術を実際の患者に試す研究は、2014年に日本が、世界で初めて目の病気で実施しました。

現在もiPS細胞からつくった細胞で、失われた臓器の機能を回復させる「再生医療」を多く行っています。

しかし海外には日本よりも進んだ開発段階のものもあり、正式な承認を受けるケースが今後ますます海外にシフトしていく可能性も高いのです。

実用化に重要な関連の出願総数もアメリカ、中国に次いで3位です。

ただし、再生医療のための研究に限れば、中国を上回りアメリカに次いで2位をキープしています。

しかし医療分野の研究は日進月歩です。

どのような開発をしていくのかということになると、まさに生き馬の目を抜く競争になるのです。

当然ゲノム解析が行き着く先は、誰もが想像する遺伝子操作です。

植物、動物に対する実験はかなり行われてきました。

たとえば遺伝子を組み替えた大豆がそうです。

ゲノム操作をした大豆は、トランス脂肪酸を含まないのが特徴です。

過剰摂取をすると、心筋梗塞などの冠動脈疾患につながる可能性が指摘されています。

近年では食べられる部分を増量したマダイや、成長力を高めたトラフグの流通も開始されているのです。

さて、今回のテーマに対して、次のような問いかけの文章がありました。

筆者は生命倫理学者、赤塚京子氏です。

タイトルは「倫理の窓から見たIPS細胞」。

副題には「いかに社会的合意形成に向けた議論を進めていくのか」とあります。

課題文本文

この種の研究の倫理性や安全性については大きな懸念が持たれています。

また、こうした新たな科学技術や医療技術が登場したり、それらに関して何らかの事件が発生したりするたびに、新聞やテレビで有識者の見解を目にします。

さまざまな見解が述べられる中で、「社会全体で議論するのが望ましい」「専門家だけでなく、一般の人を交えて話し合うべきだ」という意見は、多くの有識者に共通している印象を受けます。

特に、既存の価値観に影響を及ぼしうる技術であればあるほど、その傾向は強いと言えるかもしれません。

昨年の秋に、中国でゲノム編集を行った受精卵を用いて双子の女児が誕生したというニュースが報じられました。

当時、これに対して、国内外の学会や学術団体が緊急声明を出したり、研究者などが意見を表明したりしました。

そこでも、一般市民を含むさまざまな立場の人を支えた社会的な議論が、必要であるという認識はおおむね共有されていたように思います。(中略)

もちろん日本でも、専門家と一般市民の対話を目的としたイベントは各所で開催されています。

しかし誰が議論に参加するのか、さらにその成果を社会やその後の議論にどのように活かしていくのか、という具体的な方法については、ほとんど顧みられていないように見受けられます。

社会的合意形成

この文章の中に中国での双子の女児誕生の話が出てきます。

2018年のことです。

ゲノム編集のターゲットになったのは、エイズウイルス(HIV)の感染に関係する遺伝子でした

研究者はマウスを使った実験、サルを人間のモデルにした実験を繰り返した後、最終的に臨床応用をしたといいます。

エイズの患者団体に依頼し、夫がHIV陽性で妻が陰性のカップルを対象としました。

体外受精した受精卵から、特定の遺伝子を抜き去ったのです。

このうちの1組から双子の女の子が生まれたといいます。

顕微授精を実施するにあたり、着床前遺伝子診断を実施しました。

その結果、双子の女の子の出生につながったのです。

遺伝子の文字列を変更する手段には、さまざまなものがあります。

しかしヒトの場合は30億個の配列があるのです。

その中で特定の遺伝子を分別することがいかに困難かは、誰もが想像できます。

その技術が開発されたことで、この書き換えが可能になりました。

しかしここで先程の問題が再び表面に出てきます。

ポイントは誰がどのようにして、社会的合意形成に向けた議論を進めていくのかという点にあります。

よく有識者という言葉を使いますね。

この表現の意味の深層をたどっていくと、はなはだ不安になります。

政府が行う諮問委員会はほぼ、官僚のつくった筋書き通りに進むことが多いのです。

時折、気骨のある人が反論をすることもありますが、ほぼシナリオ通りと言えるでしょう。

むしろ官僚たちの隠れ蓑としての、諮問委員会という存在になってしまっています。

ここから小論文の出題が可能になりますね。

あなたは誰がどのような観点から、この議論を始めるべきと考えますか。

具体的な例をあげながら、論じてください。

ゲノムの改変が可能になりつつある現在、その行方は生命倫理の大きなテーマです。

自分の力で考えてみてみましょう。

これは医療看護系だけの問題ではありません。

人間の未来に関わる重大なテーマなのです。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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