思考コード
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
本当に複雑な時代になりました。
世界の先が見えません。
それぞれの政府が自国の利益を追究し、今ではグローバル化の掛け声もむなしく響きがちです。
最も大きな影響を受けるのは、若い世代でしょう。
自分たちの立つ地球という場の、存立そのものも危うくなりつつあるのです。
折から新しい技術が次々と開発されています。
生成AIの存在が語られるようになって、まだ数か月足らずに過ぎません。
ChatDPTの話題も増える一方です。
個人の尊厳や、プライバシーの侵害、著作権などの問題を含めて、難問が山積しています。
しかし利用しないという選択肢はありません。
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大手のIT企業が次々と開発に着手し、その勢いは止まるところを知らないのです。
アカデミズムの世界は言うまでもなく、行政などの現場でも使用を容認されつつあります。
繰り返しておきます。
今日、人々は全く先の見えない時代の先端に立っているのです。
未来の図式が全く見えなくなっています。
これからの若い人たちは、何を評価の基準にして生きていけばいいのか。
本当に難しい時代です。
現代の宗教と呼ばれるものの幾つかが、識者によって提示されています。
名づければその1つが拝金教であり、もう1つは偏差値教でしょうか。
より高い偏差値の学校に入り、価値のある教育を受け、収入の多い職業につく。
それが幸福な人生を送るための、唯一の道だという考えです。
この話を一笑に付すことはできません。
そのために早くからレベルの高い教育を受ける。
人々はそのための受験テクニックを、必死に身につけようとしているのです。
新学力観
時代はどこへ動きつつあるのでしょうか。
もう少し考えてみましょう。
従来の生き方ならば、既定の路線にのっているだけでよかったのかもしれません。
しかしそれでは不十分な状況になってきました。
なぜでしょうか。
世界の先が見えないからです。
今までの評価基準で学んでいたのでは、正解のない時代を生き抜くことができなくなりつつあります。
そこで新しく登場してきたのが、「思考コード」と呼ばれるものです。
新しい指導要領も、この思想を背景にして構築されました。
「2020年からの新しい学力」とはどのようなものなのか、あなたは知っていますか。
切り口は3つの軸から構成されています。
A軸は従来と同じ「知識と理解」です。
B軸は「応用と論理」です。
しかしこれからの時代に最も大切なのが、C軸の中心である「批判と創造」なのです。
この流れは現在増えつつある総合型推薦入試と、確実にリンクしています。
今までの日本の教育は圧倒的にA軸が中心でした。
教科の内容をとにかく暗記し、記憶する。
その能力の高い人間が必要でした。
産業化した社会の要員として、戦士たりえたのです。
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しかしその方向が行き詰っていったのは、誰もが知るところです。
そこから次の段階の人材が必要とされるようになったのです。
それが「応用」し「論理」を活用できる人間です。
ここまでの能力があれば、世界に伍していけると判断されました。
ところが今や、このままでは新しいものが生み出せなくなってしまったのです。
日本は完全に出遅れてしまいました。
GAFAMの嵐や台湾の先進的半導体企業、中国、韓国などの産業との戦いは熾烈です。
さらにIT技術を利用した生成型AIの前では無力に近いのです。
ザビエルの問題
最近の入試に出された問題の例として、よく引き合いに出されるのがこれです。
課題をいわゆる「自分ごと」として受け止め、それにどう関わることができるかを考え、記述させるタイプのものです。
つまり「自分軸」が試される出題です。
「もしあなたが、ザビエルのように知らない土地に行って、その土地の人々に新しい宗教や文化を伝えようとする場合、どのようなことをしますか。600字以内で答えなさい」というものです。
フランシスコ・ザビエルはイエズス会という修道会から派遣され、キリスト教や新たな文化をもたらした人物です。
来日したのは、1543年の鉄砲伝来から6年後の1549年と伝えられています。
従来ならば、何年に誰がどこへなんのために来たのかという事実を暗記すればよかったのです。
しかしそれが今日では自分がザビエルなら、何から着手するかというタイプの問題に変化しました。
この流れは劇的です。
日本人にキリスト教を伝えるなどという途方もないことが、簡単にできるワケもありません。
今から500年近くも前の話なのです。
以前ならば、そこまでで終わりでした。
しかし現在はあなたがザビエルになり、実際に行動しなければならないのです。
結論から言いましょう。
正解はありません。
当時の状況を、頭の中で想像し、答えを作り出していかなければいけません。
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学習コードのCに分類された部分に抵触します。
この問題は私立中学校の入試問題として出題されました。
象徴的なスタイルの問いです。
変化の激しい時代に、全く未知の世界を想像し、そこで直面する課題を考え抜くのです。
「答えが一つに定まらない問い」に対して、最適解を導き出していく真の実力が求められています。
いわゆる思考力入試と呼ばれるものは、確実に総合型推薦入試とリンクしていることは、先ほど述べました。
近年、この型の入試に志願者が集まる傾向は、時代の流れそのものと言ってもいいでしょう。
もちろん知識を記憶することを否定しているのではありません。
それらの集合体として、思考力を試す入試が飛躍的に増えているという事実を押さえておきましょう。
この他に、よく引用されるのがお掃除ロボット「ルンバ」とカブトガ二の比較や国際宇宙ステーションのロボットアームとタカアシガニの足の比較が述べられています。
実際の問題文を読みながら、なぜこのような比較が出てくるのかを考えさせるのです。
いくつも問題がある中で、最後の設問は難問です。
➀「人間の作った物」と「動物」で類似性を持った組み合わせを1つ挙げなさい。
②「人間の作った物」と「植物」で類似性を持った例も1つ挙げ、同様に説明しなさい。
③それらの似ているところと、類似性が生じた理由について、あなたの考えを説明しなさい。
工夫を凝らした問題
こういう問題の例もあります。
1問目はカンボジアの市場の写真8枚を提示して「読み取れることをなるべくたくさん書き出してください」というのです。
2問目は、カンボジアの肉市場と日本のスーパーの肉売り場の写真を並べて表示し、それらを比較して気づいたことを書き出させます。
3問目はあなた自身がカンボジアで暮らすことになったら、どんな能力が必要になると思うかを問います。
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4問目では、このテストを受けて考えたことを200字以内にまとめさせるというものでした。
あなたならどのような解答をしますか。
明らかに今までの試験とは違うことがよくわかるはずです。
いわゆる暗記中心の受験勉強をしている生徒にとっては、かなり苦しいタイプの問題であることは明らかです。
必要なのは圧倒的な想像力です。
授業中に自分の意見を明確に述べる能力が大切です。
教師の側にとっても大きな意識の変革が必要だということがよくわかります。
明らかについていけない教師が増加するに違いありません。
正解のない問いに対して、正当な評価をするということの難しさを同時に考えなくてはならないのです。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。