【落語・ことばあそび】日本語の持つ音の魅力を堪能【人気3演目】

落語

ことばあそび

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

ことばあそびといえば、詩人の谷川俊太郎に同じタイトルの本がありますね。

福音館書店のロングセラーです。

ほんとに言葉のセンスだけでつくられたたのしい絵本です。

1つだけ、ご紹介しましょう。

かっぱ
かっぱかっぱらった/かっぱらっぱかっぱらった/とってちってた
かっぱなっぱかった/かっぱなっぱいっぱかった/かってきってくった

ののはな
はなののののはな/はなのななあに
なずななのはな/なもないのばな

いかがですか。

同じ音の繋がりから、意味が微妙に変化していきます。

その様子を想像するだけで楽しい気分になりますね。

この他にもたくさんの詩が載っています。

子供はすぐに覚えてしまうでしょうね。

音のセンスが全てです。

ぜひ、1度手にとってみてください。

落語にも同じように言葉のリズムだけで構成された噺がいくつかあります。

今回はその中でも代表的なものを3題、ご紹介します。

ことばあそびの部分だけでも声に出して読んでみてください。

楽しくなります。

「ん回し」「しの字嫌い」「山号寺号」です。

最近ではあまり演じる噺家がいなくなりました。

前座噺の一種ですが、音だけで構成されているので、やってみると結構難しいのです。

ん回し

これは「ん」の字を1つ言ったら田楽を1本食べようということになり、苦労するという話です。

上方では「田楽喰い」と呼んでいます。

最初はれんこん(蓮根)、にんじん(人参)、だいこん(大根)、みかん(蜜柑)、きんかん(金柑)などといっていましたが、これでは1本か2本しかもらえません。

そこで知恵のある男が長い文句を考えます。

ここが聞かせどころです。

男は「30枚はもらう」と大見得を切ったのです。

「先年(せんねん)、神泉苑(しんぜんえん)の門前(もんぜん)の薬店(やくてん)、玄関番(げんかんばん)、人間半面半身(にんげんはんめんはんしん)、金看板銀看板(きんかんばんぎんかんばん)、金看板『根本万金丹』(きんかんばんこんぼんまんきんたん)、銀看板『根元反魂丹』(ぎんかんばんこんげんはんごんたん)、瓢箪看板(ひょうたんかんばん)、灸点(きゅうてん)」

これを2度言って86枚の田楽をせしましめた。

別の男が、それなら「そろばんを用意しろ」と言って次のように言います。

「半鐘があっちでジャンジャンジャンジャン、こっちでジャンジャンジャンジャンジャンジャン、消防自動車が鐘をカンカンカンカン……」

あまりにふざけているので「こいつに生の田楽を食わせろ」と口々に叫びます。

男が焼いてないのは食えないと文句を言います。

そこで兄貴分が呟いたオチがこれです。

「今のは火事のまねだろ。それなら焼けないうちに食べたほうがいい」

しの字嫌い

これも言葉遊びの噺です。

飯炊きの権助と隠居との会話が中心です。

権助はいつも屁理屈をこね、隠居の揚げ足を取ります。

そこで隠居はなんとか困らせてやろうとして権助を呼びます。

「今日から縁起の悪い「し」の字を言ったらだめだ。もし1回言ったら、1か月分の給金はやらない」と告げるのです。

「そのかわり、もしあたしがしの字を言ったら、何でもお前の望みの物をやる」と隠居は条件を出しました。

さてポンポンと手を打って「しの字禁止合戦」が始まります。

隠居は、本家の嫁が器量良しだが尻(しり)が大きいと近所で評判なので、なんとか尻(しり)と言わせたいのです。

隠居 近所の若い者はなんと噂している

権助 本家の嫁御は器量はええが、尻(けつ)がでけえと言ってます。

権助はそれほどの間抜けではありません。

そこで隠居は四貫四百四十四文(しかんしひゃくしじゅうしもん)の銭勘定をやらせることにします。

ずっと座らせて勘定させればきっと疲れ果てて、足がしびれたと言うだろうとの魂胆なのです。

しかしそれもうまくいきません。

次は権助の逆襲です

権助 二貫とまた二貫、二百とまた二百、二十とまた二十、二文とまた二文、旦那さま、それでいくらだね

隠居 権助、お前が言ってみろ

権助 じゃあ、よん貫、よん百、よん十、よん文

隠居はついに 「しぶとい奴だ。しまった」と口走ってしまいます。

権助 そら言った、おらの勝ちだ、ウッシッシ。

2人とも「し」の字を2度ずつ言って引き分けになったという落語です。

この2人の掛け合いが妙味なのです。

最近は寄席でしかかかりませんね。

山号寺号

この噺は柳亭市馬師匠が時々やります。

明るくて楽しい噺です。

主役は幇間です。

別名がたいこもち、男芸者です。

相手の考えていることを常に先回りして行動しなければなりません。

頭が痛いと言えば、すぐに医者を呼ぶ。

先生が脈を取って首を傾げたら、葬儀屋を呼んでくる。

ここまで先回りをしなくてはならないのです。

逆に頭が働けば、こんなに面白い商売もない。

幇間 今日はどちらに。

若旦那 観音様だ。

幇間 若旦那、あすこは金竜山浅草寺に安置し奉る聖観世音菩薩、人呼んで観音様と言います。これを『山号寺号』と言うんです。

若旦那 それは恐れ入った。ここは下谷の黒門町。ここにその山号寺号があるか。

ご祝儀欲しさに幇間は頭をひねります。

そこで出てきた答えがとにかく面白いのです。

おかみさん(山)拭き掃除(寺)。

乳母(おんば)さん(山)子大事(寺)。

看護婦さん赤十字、自動車屋さんガレージ、時計屋さん今なん時、洋服屋さん紺サージ。

洋食屋さんソーセージ、果物屋さんオレンジ、お医者さん疣痔(いぼじ)。

高島屋さん左団次。

若旦那は懐にいっぱいになっただろ、と言って出した祝儀を全部私の掌に乗せなさいと言います。

幇間がご祝儀を全部乗せると、若旦那はそれを懐に押し込んで、お尻をはしょります。

若旦那 一目散随徳寺。

幇間 南無三しそん寺。

随徳寺というのは、「あとをズイとくらます」ということを意味する古いシャレです。

これは笑点などのテレビ番組でもたまにやります。

大喜利の定番にもなっています。

どこかの宴会で必要だったら、少し考えて仕入れておくのもいいでしょうね。

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日本語の持つ掛詞の妙というしかありません。

今回も最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。

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