【医療看護系小論文・医療政策】外国人医師の確保は実現可能なのか

学び

医師不足の現実

みなさん、こんにちは。

小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は実際に出題された問題に触れながら、テーマを探っていきましょう。

2017年、奈良県立医科大学の入試問題です。

資料が掲載されています。

2012年の統計です。

世界的な医療提供体制の比較を載せた表です。

病床数、医師数、看護職員数に関してです。

日本は人口1000人単位の病床数は13.3でかなり多い方です。

しかし同じ人口1000人当たりの医師数は2.3人。

OECDの平均は3.5人です。

厚生労働省の医師数推計から計算すると、日本の人口1000人当たりの医師数は2030年前後に3人程度になると予想されています。

世界全体で見ると日本は61番目です

ちなみに60番目はセルビア、ウズベキスタン、レバノン、モンテネグロです。

日本の人口1000人あたりの看護師・助産師数は10.8人。

OECD加盟国35ヶ国中11番目です。

全体では193ヶ国中14位でした。

しかし日本よりも高齢化が進んでいないといわれるドイツ、アメリカ、スウェーデンに比べると少ないのです。

このことは何を示しているのでしょうか。

日本は総じて医師の数が少ないと言えます。

今後の問題はまさに、医師をどのように増やしていくかにあるのです。

その方法を問うのが問題の主要なテーマでした。

医の倫理

今まで出題された医療系の小論文はどちらかというと、医の倫理を問う問題が多いようです。

終末期医療のあり方や、医療と患者との関係を示せといったような問題です。

しかし今日、より喫緊なテーマは医療政策そのものなのです。

どのようにして、医療従事者を恒常的に確保するのかという内容です。

受験生はあまりこの問題を考えたことがないのではないでしょうか。

なんとなく医の原点だけを抑えておけば、それで難問が片付いたと思っているのかもしれません。

とんでもないことです。

哲学的な大枠を抑えることはもちろん大切ですが、それ以上にどうやって従事者を確保するのかという問題は喫緊のテーマなのです。

当然のことながら医師の養成には長い時間を必要とします。

最低でも10年はかかります。

医学部定員の増設だけではとてもまかないきれません。

日本では人口1人当たりの死亡率が出生率を上回っています。

つまり人口は減少する方向にあるのです。

医師を大量に育成するのはいいとしても、やがて医師の過剰という問題がかぶさってくることも十分に予想されます。

近年、弁護士の登録者数が増えている事実をご存知でしょう。

それと同じようなことが起こらないとも限らないのです。

そこで長期的な視野にたって医師をていねいに確保していかなければなりません。

従来このような視点で作られた入試問題は殆どありませんでした。

いわゆる医療政策に関する問題です。

これは小論文だけに限った話ではありません。

試験の後で必ず行われる面接の時の大きな質疑内容になる可能性もあります。

この問題はちょっと考え方をかえると、さまざまな新しい視点を作り出します。

1つは入院患者を減らすことです。

つまり予防医療の促進です。

定期健診を日常的に続けることで患者予備軍を減らす方向へ切り替えるという考え方です。

中高年齢者の生活習慣病などに対しては非常に効果的だと考えられます。

たとえ病気に罹ったとしてもそれを軽度なものにする努力をしていくことが大切でしょう。

適正配置の方法

しかし根本は医療従事者の適正配置につきるのではないでしょうか。

そのためにはどうすればいいのか。

考えたことを自由に書きなさいという問題が出る可能性があります。

何がポイントになると思いますか。

長期的な視点に立って医療政策について書く姿勢をキープしておいてください。

大きな問題として考えられるのは地域偏在の現在でしょう。

どうしても大都市に医師が集中しやすいのです。

子供の教育、住環境などを考えた場合、無理もないかもしれません。

oswaldoruiz / Pixabay

しかし放置しておくワケにはいかないでしょう。

養成に時間とコストがかかることを考慮した時、1番のポイントは外国人医師の一時的な補完ということです。

このテーマは十分に出題される可能性があります。

それだけ内容が深いということも言えます。

どうでしょうか。

このテーマで小論文が書けそうですか。

日本の医療の国際化をどう進めるのかというのは大きな論点です。

比較的に余裕のある国から短期的に来てもらうことが現実的に可能かどうか。

その際、何がネックになるのか。

具体的に研究してください。

たとえ小論文で出題されなかった場合でも、面接で問われる可能性があります。

外国人医師の可能性は

外国人医師が日本において診療を行うこと自体は,法律上不可能ではありません。

しかしアメリカやイギリスなど海外から医師を受け入れている国々と比べて,日本の医療現場は低賃金で長時間労働を余儀なくされる傾向があります。

外国人医師から見てあまり魅力的とは言えないのです。

さらにOECD諸国の平均レベルである3.00人/1000人まで医師数を増やすためには,約12万人の医師の増員が必要です。

医師数が日本よりも多い国は中国,アメリカ,インド,ロシア,ドイツの5か国しかありません。

中国、インドから医師を呼ぶことはあまりにも非現実的です。

人口の多い国から、無理に招へいしたとなれば国際社会から非難を浴びることでしょう。

また英語圏などから日本へ来て働くためには、専門用語を含めて日本語の習得が必須になります。

介護福祉士を養成するために日本語の勉強を続けているベトナム人のニュースが時折流れることがあります。

想像以上に専門用語を覚えるのが大変だということは容易に想像がつくでしょう。

日本人医師が行きたがらない地方へ外国人を派遣することは、さらに困難です。

彼らの生活基盤を破壊してしまうことにもなりかねません。

つまり短期的な解決法として外国人医師を導入することは非常に難しいことなのです。

互いに意志の疎通が不十分な中で、医療行為をするということは危険なことでもあります。

現在のまま、人口が次第に減少していくまで時間稼ぎをしつつ、過重労働をなるべく抑制する方向へ舵を切らなければなりません。

夜間診療などを若い医師に任せきりにすることで、疲弊していくのを傍観することはできないのです。

医療機関の重点化や集約化が急がれます。

このように医療政策にはさまざまな問題があります。

その幾つかをここに紹介しました。

自分でも勉強を続けて下さい。

困ったから助けてくれと外国人にお願いすることはできません。

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話はそれほど単純ではないのです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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