「孔子家語」子路の問いに対する孔子の教え「人を登用することの難しさ」

孔子家語(こうしけご)

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回は孔子の人間観について少し触れてみましょう。

『孔子家語』は孔子の言行とその門人たちの問答を記した本です。

いつ成立したのかはよくわかっていません。

孔子といえば『論語』が最も有名ですね。

では『孔子家語』とはどういう位置関係にあるのでしょうか。

『論語』には孔子一門の話が10巻にわたって記されています。

日本にも大きな影響を与えました。

しかし彼の発言の全てが『論語』に収録された訳ではありません。

散逸した文献から採ったものを拾い集めたのが『孔子家語』なのです。

孔子の門人たちを含めた説話集として価値があったものと思われます。

それで現在まで伝えられているのです。

孔子の門人は3000人もいたと言われています。

その中でよくあげられるのが孔子十哲ですね。

学徳のすぐれた十人の高弟という意味です。

顔淵(顔回)、閔子騫(びんしけん)、冉伯牛(ぜんはくぎゅう)、仲弓、宰我、子貢、冉有(ぜんゆう)、子路、子游、子夏がそれにあたります。

最も優れていたのは顔淵でしょう。

しかし『論語』への登場回数が最も多いのは子路です。

彼は孔子の門下の中では珍しく武勇を好みました。

性格にいささか軽率なところがあり、他の弟子たちからは敬遠されたこともあったとか。

しかし質実剛健とした人物で、孔子に愛されたようです。

性格の軽率さを時にとがめられたものの、率直な人間性を孔子は高く評価したのです。

今回は孔子と子路との問答を収録しました。

人間の登用はどのようにすればいいのかという、一番難しい内容がテーマになっています。

書き下し文

子路、孔子に問ひて曰はく、「賢君、国を治むるに、先んずる所の者(もの)は何ぞ」と。

孔子曰はく、「賢を尊びて不肖を賤(いや)しむるに在り」と。

子路曰はく、「由(ゆう)、聞く、晋の中行氏は賢を尊びて不肖を賤(いや)しめりと。その亡びたるは何ぞや」と。

孔子曰はく、「中行氏は賢を尊ぶも用ふること能(あた)はず、不肖を賤しむるも去る能はず。

賢者はその用ひられざるを知りてこれを怨(うら)み、不肖者は必ず己の賤しまるるを知りてこれを讎(あだ)とす。

怨讎(えんしゅう)存して国に並び、隣敵兵を郊に構ふ。

中行氏、亡ぶること無からんと欲すと雖(いえど)も、豈(あ)に得(う)べけんや、と。

注 

中行氏(ちゅうこうし) 春秋時代の中国の氏族。同族である智氏と共に晋の六卿を世襲した。

怨讎(えんしゅう) 賢者は登用されないことを怨み、愚か者は不適格者とレッテルをはられて敵視すること。

現代語訳

子路は孔子に質問した。

賢明な君主が国を治める時には、何を先にしたらいいですか。

孔子は答えた。

在野の賢人を尊び、不肖の者の地位を低くするのが最善の方法だ。

子路は言いました。

私が耳にしているところによれば、晋の中行氏は人を尊び、不肖の者の地位を低くしたそうです。

それなのに、中行氏が滅亡したのはなぜですか。

孔子は答えた。

中行氏は賢人を尊んだものの、任用することはしなかった。

不肖の者を憎んだが、彼らを追放することができなかったからだ。

賢者は任用されないことを知って、それを怨み、不肖の者は自分が必ず憎まれていることを知ってこれを仇とする。

怨む人と讎(あだ)とする人が、国に併存していた。

不満が渦巻いていたのだ。

だから隣の敵が郊に兵を構えた。

中行氏に滅亡することがないように望んでも、どうしてそれが、可能だっただろうか。

やはり無理だったと言わざるを得ない。

賢者と愚者

この話のポイントは孔子の人間観のあり方そのものを問いかけたところにあります。

あなたがもし組織を司るとしたら、どのような人的配置をしますか。

賢君が国を治める時に最初に行うべきことは何でしょうか。

孔子はわかりやすく単純な図式を示しました。

賢者を尊び不肖な者を軽視すればいいというのです。

しかし弟子の子路には納得がいきません。

それは晋の中行氏が滅亡したいきさつについての疑問と重なります。

中行氏は賢者を尊び不肖な者を軽視しました。

しかしそれにも関わらず、滅亡してしまったのです。

そこに理由があるとすれば、それは何なのかということです。

孔子が言う理由は次の4つです。

①中行氏は賢者を尊ぶことを実行した。
②しかし適切に彼らを用いることができなかった。
③一方で不肖の者を軽視した。
④しかし彼らを排除することが出来なかった。

賢者は当然、自分が十分に用いられないことにすぐ気付くはずです。

したがって人の顔色ばかり見て忖度し、すぐに人心は離れますね。

また不肖の者たちは己が軽視されていることがわかり、その処遇に不満を覚え、復讐します。

国中を忖度と復讐の機運が駆け巡るのです。

隣国の兵が国境に配置されれば、中行氏の滅亡は目前だったということでしょう。

用いること、去らせること

この話のカギは大変にわかりやすいです。

人事は評価だけではなく、実際の運用まで一貫していなければ組織は崩れるという点です。

孔子は次のポイントで人材を得なさいと言っています。

賢者を見出し、尊重する。
その賢者に実際の権限や仕事を与える。
不適任な者は組織の重要な地位から外す。

この動きを徹底すれば組織は機能するはずだと考えたのです。

しかし中行氏は賢者を褒めが実権は与えなかった。無能な者を嫌った。しかし彼らの地位はそのままにしたのです。

その結果、賢者は「評価されても用いられない」と失望して離反してしまいます。

不肖の者は「自分は嫌われている」と感じ、組織への忠誠心を失うのです。

中行氏はどちらのタイプの人をも敵に回したことになります。

「怨む者と仇とする者が国に併存する」という状態は最悪ですね。

内部対立を抱えた組織は、外部から少し圧力が加わるだけで崩壊するのです。

あなたの属している組織をイメージしてみてください。

優秀なスタッフを「期待している」と言いながら、重要な仕事や決裁権を与えないパターンは危険です。

成果を上げない人を問題視しながら、配置転換や役職変更を行わないパターンも危ないですね。

これでは組織の中に不満だけが渦巻きます。

有能な人材は去るか、やる気を失ないます。

成果を出さない人も組織への不満を募らせ、協力的でなくなるのです

ポイントは「尊ぶなら実際に登用せよ」「不適任者を退けるなら中途半端にするな」の2点につきます。

最後は評価と処遇の一致が最も大切だということでしょうか。

人間の心理と組織運営の本質がこの文章には滲み出ています。

今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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