常識を疑え
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
今回は小論文を書く時の守るべきルールについて考えます。
もちろん、制限字数や時間以内に書ききるなどというのは、あたりまえのことです。
ここではもう少し、書く作業に特化したテーマで考えていきます。
小論文を書く時、何が1番難しいのか。
それは自分の立場を明確にして、テーマに呼応する内容の文章をまとめることです。
レベルの高い小論文は、読んでいても心地がいいです。
なぜか。
きちんと課題文のテーマを咀嚼し、自分のものにしているからです。
何を問われているのかを明確に知り尽くしています。
だから、1つ1つの答えが、相手の胸に響くのです。
しかしこうした答案を書ける生徒は、圧倒的に少ないのが実態です。
読んでいて、これは合格答案だと直感的に感じるのは10~20%あればいい方でしょう。
たいていの文章は、どこへ向かっていくのかが1度読んだだけではわかりません。
結論までの道のりが直線ではないのです。
600~800字程度で、それほど複雑な内容の文章が書けるとは思えません。
つまり1つの文章が、1つのテーマできちんとまとまっていることが大切なのです。
それならば、誰もが書くようなあたりまえのことを書き連ねたらいいのでしょうか。
答えはNoです。
文章には新鮮な視点がなくてはなりません。
あなたにしか書けない内容が絶対に必要なのです。
誰もが思いつくようなことをただ書き連ねても、評価はされません。
知的ストック
文を書く時に必要なことは何か。
それは常識をつねに疑う姿勢です。
アインシュタインの言葉に、次のようなものがあります。
「重要なのは、疑問を持ち続けること」
「知的好奇心は、それ自体に存在意義があるのだ」
18年間も生きていれば、あなたはかなりの量の常識を身につけているに違いありません。
たいていのことは、その常識で解決した気になっているのではないでしょうか。
しかし常識で小論文は書けません。
もし書けたとしても、その評価は低いものにならざるを得ないのです。
あたりまえのことをあたりまえに書いてもダメです。
こんなことは疑う余地のないアタリマエのことだということに、自分でメスを入れましょう。
そこから新しい視野が開けるのです。
例えばコインは丸いという常識があったとします。
そんなことはあたりまえだと誰もが思いますね。
しかしそれは常識でしかありません。
試みに真横からコインを見てください。
すると、コインは長方形になります。
つまりそれまでの常識を疑い、インプットした知的ストックを最大限に活用することが大切なのです。
その資産を使って、あなたが纏めようとする文章に横やりをいれるのです。
それは本当か。
信頼するに足るのか。
第三者の目で冷静に判断します。
つねに自分の思考パターンを、常識のレベルから高い場所で相対化する。
それが小論文を書く時に最も大切なことなのです。
インプットの厚みを増す
入試の本番でかなりの長文が出たとしましょう。
以前から考えていたテーマの1つです。
「ことばの役割」という非常に難しい内容でした。
しかし全く関心がないワケではありません。
かなりいろいろな文章も読みました。
自信もあります。
こういうケースが、実は1番危険なのです。
大切なことは、出題された課題文にすぐ納得してはいけないということです。
どうしても知っている内容がでてくると、つい筆者の論点にのってしまいがちなのです。
確かに言葉は大切なもので、そこから人間は多くの感情を伝えあい、生きています。
テーマは至極当然のことを論じています。
しかし全くその通りだ、何も反論する余地はないなどと、簡単に思い込んではダメです。
そこからが、小論文の「核心」をさがす場になるのです。
常識のレベルでなら、それでいいでしょう。
しかしもっと深く掘ってください。
あなたの知的ストックを徹底的に利用するのです。
あたりまえのことを、偉そうに上から目線で書いて、いい評価が得られるワケはありません。
それでは自分の常識を、そこに繰り広げただけなのではありませんか。
別の発想をしたら、まったく違う考えが出てくることもあります。
頭の中を徹底的にかきまわしてください。
その脳の柔らかさが小論文の命です。
はっきり言っておきましょう。
それができなけれぱ、この種の問題に対応するのは困難なのです。
止揚のすすめ
止揚という言葉を知っていますか。
難しい哲学用語です。
「しよう」と読みます。
ある考えを否定しつつも全面的に捨て去るのではなく、積極的な要素を保存しより高い段階で生かすことを意味します。
1つのテーマが出題されたとしましょう。
あなたの考えと全く同じであり、どこにも反論の余地がありません。
どうにも書きようがないので、筆者の論点をなぞったりしながら、なんとか制限字数の9割まで到達しました。
この小論文の評価は、どうなるでしょうか。
当然のことながら、新鮮な視点はありません。
同じところをぐるぐると回っただけになってしまっています。
そういう時に知的戦闘力を持っているかどうかが試されるのです。
ストックが貧弱な人は、反論など不可能です。
言葉は大切だと言われれば、その通りで終わってしまうのです。
人間はいつも言葉を使っているワケではありません。
「無言」であることが「饒舌」てあることよりも尊い時もあります。
「沈黙は金」という格言を知っていますね。
言葉ですべてを伝えきれるものではないという、あなたの経験を語ることも可能なのです。
「常識を疑う」ことは大変なリスクを伴います。
それでもやってみる価値があります。
そこで新しい局面が少しでも見えてきたら、それは前進なのです。
受験は前進力のある人が勝ちます。
これまで当たり前だったことが、当たり前でなくなる瞬間を捕まえて下さい。
今、ここだけで通じる真理は、もう「真理」ではありません。
その場で新しく作り出さなければならないのです。
小論文にはそのための契機が山のように含まれています。
頑張って自分のものにしてください。
一生のスキルになります。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。