論理国語と文学国語
みなさん、こんにちは。
元都立高校国語科教師、すい喬です。
令和4年度から高校の新学習指導要領が始まりました。
現在の高校1年生はさっそく新しい教科を学んでいます。
当然、教科書も一新されました。
しかし1年生の段階では、今までの『国語総合』4単位を2単位ずつに分けたというのが、一般的な見方です。
ところが本来載せないはずの文学作品を所収した、ある教科書会社のものも出回りました。
この社の教科書を採択した学校が多かったため、大きな問題に発展したのです。
そのことはこのブログのサイトにも書きました。
最後にリンクを貼っておきます。
時間があったら読んでみてください。
おそらく令和5年度版では、相当に修正されると予測しています。
さて問題は現在の高校1年生が2年になった時の話です。
必修科目は1年で終了しているため、基本的には、選択授業となります。
その際、4単位としておかれているのが、「文学国語」と「論理国語」の2教科です。
このうちのどちらを選ぶのかということが、現場では相当論議されたことでしょう。
いずれも全く新しい教科のため、教科書会社は相当に悩んだものと思われます。
そのシラバスが次々と明らかになり、サンプル版ができあがりました。
ネットにも広告が打たれ、各学校では、どの教科書にするかを選ぶ段階に入っています。
現場にいると、4単位というのは大きいです。
ちなみに新学習指導要領の基本単位数は以下の通りです。
現代の国語(2)言語文化(2)論理国語(4)文学国語(4)国語表現(4)古典探究(4)で構成されています。
必修科目と選択科目
1年生で学ぶ現代の国語(2)言語文化(2)は必修科目です。
それ以外は全て選択科目になるワケです。
4単位というのは年間140時間に相当します。
実際は行事、その他でつぶれますので、理論的な数字にとどまります。
それでもほぼ毎日1時間ずつ、論理国語か文学国語の授業を学ぶことになります。
ここで問題になるのが、学習の内容です。
各教科書会社からシラバスが発表されています。
試みに今回は筑摩書房のものを参考にさせてもらいます。
多くの会社がさまざまな工夫をしていることは、既に述べました。
しかしギリギリの共通ラインは似ています。
実際に何をどう学ぶのか、自分の目で確かめてみてください。
論理国語の説明は以下の通りです。
「実社会に必要な国語の知識や技能」「論理的、批判的に考える力」などを育成することを目標として掲げたとあります。
1年生で学んだ内容に加えて、「文章に含まれている情報の扱い方」に関する指導事項や、「書くこと」に関する指導事項・言語活動例が補われているというのです。
「情報の扱い方」と「書くこと」に特化しているというのは、ごく最近発表された新大学入学共通テストのサンプル問題と合致しています。
これもこのブログに載せましたので、文末にリンクを貼っておきます。
内容は大学入試にも対応する鋭い視点や抽象度の高い思考を身につけるというところがポイントです。
つまり大学受験を前面に出す高校では、多く「論理国語」を採択する学校が多いと予想されます。
わかりやすくいえば、日々の授業で評論を読むと考えてください。
ではどのような文章が出るのか。
内容をみてみます。
論理国語の内容
「アイオワの玉葱」長田 弘
「一〇〇パーセントは正しくない科学」更科 功
「物語るという欲望」内田 樹
「ファッションの現象学」河野哲也
「地図の想像力」若林幹夫
「本当は怖い「前提」の話」川添 愛
「近代の成立――遠近法」橋爪大三郎
「沖縄戦を聞く」岸 政彦
「数字化される世界」オリヴィエ・レイ
「人新世における人間」吉川浩満
「現代日本の開化」夏目漱石
「変貌する聖女」川島慶子
「異時代人の目」若桑みどり
「荘子」湯川秀樹
「日本の社会は農業社会か」網野善彦
「ファンタジー・ワールドの誕生」今福龍太
「生物の作る環境」日高敏隆
「貧困は自己責任なのか」湯浅 誠
「模倣と「なぞり」」尼ヶ崎彬
「桜が創った「日本」」佐藤俊樹
「清光館哀史」柳田國男
「男の絆、女たちの沈黙」尹 雄大
「トリアージ社会」船木 亨
「ビッグデータ時代の「生」の技法」柴田邦臣
「「である」ことと「する」こと」丸山眞男
「ピジンという生き方」管 啓次郎
「「自然を守る」ということ」森岡正博
「虚ろなまなざし」岡 真理
「つながりと秩序」北田暁大
「真実の百面相」大森荘蔵
「死の恐怖について」E・キューブラー=ロス
「ポピュリズムとは何か」森本あんり
「思考の誕生」蓮實重彦
「主義は広大なるべき事」福沢諭吉
「ものとこと」木村 敏
「「病気」の向こう側」田中祐理子
「過剰性と希少性」佐伯啓思
「戦争と平和についての考察」中井久夫
これが全てではありません。
筑摩書房の説明によれば、論理的思考を身につけるために必要な知識とともに、生徒の興味関心を引き出す魅力的なテーマや文章を採録したとのことです。
文学国語の概要
では文学国語はどうでしょうか。
どのような作品が所収されているのか。
「文学国語」は「生涯にわたる社会生活に必要な国語の知識や技能」「深く共感したり豊かに想像したりする力」などを育成することが目標だと書いてあります。
「プラスチック膜を破って」梨木香歩
「情報の彫刻」原 研哉
「山月記」中島 敦
「神様」川上弘美
「実体の美と状況の美」高階秀爾
「メディアと倫理」和田伸一郎
「ラムネ氏のこと」坂口安吾
「異なり記念日」齋藤陽道
「記号論と生のリアリティ」立川健二
「こころ」夏目漱石
「私の個人主義」夏目漱石
「死者の声を運ぶ小舟」小川洋子
「論語――私の古典」高橋和巳
「空と風と星と詩」茨木のり子
「未来をつくる言葉」ドミニク・チェン
「能 時間の様式」杉本博司
「小景異情」室生犀星
「サーカス」中原中也
「永訣の朝」宮澤賢治
「死にたまふ母」斎藤茂吉
「化物の進化」寺田寅彦
「捨てない女」多和田葉子
「魂込め」目取真俊
「小説とは何か」三島由紀夫
「遠野物語」柳田國男
「陰翳礼讃」谷崎潤一郎
「舞姫」森 鷗外
「鞄」安部公房
「水仙」太宰 治
「無常ということ」小林秀雄
「骨とまぼろし」真木悠介
「藤野先生」魯迅
「沈黙」村上春樹
「死者の声を運ぶ小舟」小川洋子
文学を学ぶとは、ことばを学ぶこと、人を学ぶことであると、筑摩書房は考えていますと解説には書いてあります。
あなたはこの毎週4時間の授業で何を考えますか。
今回のカリキュラム編成は国語教育にとって、本当に大きな意味を持っていると思います。
論理国語を選択した生徒たちは、生涯にわたって、漱石や鴎外の本を手にすることはないのかもしれません。
国語の授業をしていく中で、多くの先生が悩むことは必至でしょう。
今回は筑摩の教材だけにしました。
学校現場では時間がないので、副教材などの手ごろなものや、教員用の解説書などの使い勝手の良いものなどとあわせて、採択をしていきます。
教科書を編集した方たちも、随分悩まれたのがよくわかります。
高校2年生の国語がどこへいくのか。
これからも注視していきたいです。
今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。