【湯川秀樹】自然は曲線を創り人間は直線を創るという言葉の真意は

学び

湯川秀樹

みなさん、こんにちは。

元都立高校国語科教師、すい喬です。

今回も小論文のテーマについて考えてみましょう。

都立西高校の問題です。

毎年、大変短い文章しか出題されません。

いわゆるテーマ型小論文と呼ばれるものです。

しかしそのどれもが難しいのです。

ここ15年ほどに出た問題は他の記事に全て掲載してあります。

リンクしておきますので、是非ご覧ください。

毎年、制限時間と字数が決まっています。

50分で600字です。

平成18年度の問題は物理学者、湯川秀樹の言葉でした。

「自然は曲線を創り、人間は直線を創る。」というものです。

問題文はこれだけです。

どうですか。

積極的にチャレンジしてみてください。

あなたならどう書きますか。

難しいです。

湯川秀樹博士については知っていますね。

原子核内部において、陽子や中性子を結合させる中間子の存在を予言した人です。

後にそれが発見されたことにより、1949年、日本で初めてのノーベル賞を受賞しました。

多くの日本人に希望と自信を与えたという意味で、その存在は際立っています。

核戦争による人類絶滅の危険性をいちはやくパグウォッシュ会議の場で宣言した科学者としても知られています。

直線と曲線

あなたはこの言葉をどのように理解しましたか。

採点者の立場からいえば、その人の持っている資質に応じて、どのようにでも解釈できます。

つまり知識量、興味、関心の度合いによって、内容が1人1人異なるのです。

それだけに採点も大変です。

どこにポイントをおけば、内容のある文章が組み立てられるのでしょうか。

とにかく難問です。

ヒントはこの短い言葉を発したのが湯川秀樹氏であるということでしょう。

当然物理学のテーマとして最初のヒントを探すことは可能です。

それは何か。

1つはやはり「力学」特に「重力」の問題でしょうね。

自然の中で直線と曲線をイメージしてみてください。

放物線運動と直線運動です。

慣性の法則といってもいいかもしれません。

自然に存在する数少ない運動に近いものは落下運動です。

その背後にあるものは重力です。

そこに直線はあるのか。

ほぼないといってもいいでしょうね。

自然はつねに力学に従い、曲がります。

自然界にはなぜ曲線ばかりが現われるのでしょうか。

その理由は簡単です。

偶然に直線が実現される確率が限りなく小さいからです。

しかし人間は直線を選びたがります。

建築物をみればそれがよくわかりますね。

近代の建築物は構造計算の精度があがるにつれ、直線に溢れています。

超高層ビルは、直線の連続の中に屹立しているのです。

確かに技術さえあれば、扱いに変則性がなく楽なのです。

哲学的思考

ここでもう少し考えてみましょう。

では湯川秀樹氏本人はそれでいいと考えていたのでしょうか。

人間は直線を先へ進めていけば自然を淘汰できると考えていたのかどうか。

ここがこの小論文のキモです。

彼はそれほどに単純な研究者ではありませんでした。

真の科学者と言われる所以です。

彼がもっとも好きで研究にも大きな影響をうけたのは「荘子」だったと言われています。

この問題文は次のような文章の一節から書き抜いたものです。

————————————

自然は曲線を創り人間は直線を創る。

往復の車中から窓外の景色をぼんやり眺めてゐると、不意にこんな言葉が頭に浮ぶ。

遠近の丘陵の輪郭、草木の枝の一本々々、葉の一枚々々の末に至るまで、無数の線や面が錯綜してゐるが、その中に一つとして真直な線や完全に平らな面はない。

これに反して田園は直線をもって区画され、その問に点綴されてゐる人家の屋根、壁等の全てが直線と平面とを基調とした図形である。

自然界には何故曲線ばかりが現はれるか。

その理由は簡単である。

自然の創造物である人間の肉体もまた複雑微妙な曲線から構成されてゐる。

しかし人間の精神は却って自然の奥深く探求することによって、その曲線的な外貌の中に潜む直線的な骨格を発見した。

実際今日知られてゐる自然法則の殆ど全部は、何等かの意味において直線的なものである。

しかし更に奥深く進めば再び直線的でない自然の神髄に触れるのではなからうか。

ここに一つの問題、特に理論物理学の今後の問題があるのではなからうか。

アナログの可能性

直線の美学を追究していくと、その弱さも同時に見えてきたというのが、本当のところではないでしょうか。

特に日本のような地震の多い国ではなおのこと、その点が気にかかります。

いわゆる柔構造というものを御存知ですか。

高いビルになればなるほど、建築物は硬直化したものにしてはならないというのが今の常識です。

かつて新宿の高層ビルで、その模型をみたことがありました。

それによれば途中で幾つもに折れるのです。

正確にいえば、ゆらゆら、くねくねと揺れるとでも言ったらいいのでしょうか。

お互いに力を減衰しあって、建物そのものには被害が及ばない構造になっています。

geralt / Pixabay

免振構造の建物はみなこの原理で設計されているのです。

五重塔なども同じですね。

もっと言えば、自然はそんなに簡単なものではないと考えるべきなのでしょう。

人間が認識できるような単純なものではないのです。

全てを把握したと思った瞬間に、次々と予測しなかった例外的な災難が降りかかるということもあります。

地球温暖化の結果によって、新たな飢餓が起こり、海流にも変化が生まれています。

さらに原子力開発の事故による難問が、次々と降りかかってきています。

直線を伸ばし、論理で攻めれば必ず成功すると信じてきた近代科学も、ここにきて、動きが取れなくなっているのです。

災害だけではありません。

疫病の蔓延が世界の混乱を招きました。

直線が容易にコントロールできるゆえに、親しいものとなったと考えてはいけない段階に達しています。

現実は予想以上に複雑なのです。

人間が手にした科学の知識のレベルを超えて、自然は人類に逆襲を試みているとも考えられます。

あらゆる早合点をしてはならないとした物理学者は、まさに今の時代を予見していたのではないでしょうか。

短い文章に自分の考えを含みこませていくのは容易なことではありません。

常日頃からさまざまな視点を育む努力をしてください。

スポンサーリンク

それ以外に合格への道はありません。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

【都立推薦入試・西高校編】小論文のテーマはズバリ風と自分だった
都立西高校の今年の推薦入試課題を取り上げてみましょう。毎年短い警句のような文章が出題されます。どのように書いてもいいのです。それだけに大変難しいです。あまり気負うことなく、自分に正直にまとめ上げなくてはなりません。

学び
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました