これ、それ、あれって何?
みなさん、こんにちは。
小論文添削歴20年の元都立高校国語科教師、すい喬です。
お元気ですか。
勉強ははかどっていますか。
文章を書くのが苦にならなくなりましたか。
少しずつの繰り返しが大切ですよ。
日々の修練をバカにしちゃいけません。
必ずうまくなっていきます。
信じてくださいね。
今回は指示語について考えてみましょう。
文章を書く時に指示語はとても便利です。
「このテーマ」「その問題」「あの報道」といった具合です。
さらに「前者においては」とか「前半の文章で」などといわれると、最初はわかったような気がします。
しかし、どこのことを言っているのかなと首をかしげる時もありますね。
便利な言葉にはキケンなワナもたくさんあるのです。
特に小論文ではこのように曖昧な表現を避けるということも大切なことなのです。
通常、会話の中にはよく「この」「あの」「その」などが登場します。
その場にいればすぐになんのことか理解できます。
しかし、文章というのはあくまでも第三者に読んでもらうためのものです。
その場の雰囲気だけで全てをまかなうことはできません。
正確に文を刻んでいくということを念頭においてください。
特に小論文は論理性が第1です。
指示語を多く使うと、文章がどうしても曖昧になりがちなものです。
十分に注意しましょう。
代名詞にも気配りを
彼、彼女という表現は論文にはあまり多く出てきません。
複数の人間が出てくる表現も誰のことをさしているのか、よくわからないことがあります。
これも要注意です。
さらに便利に使ってしまう言葉に「こと」「もの」があります。
ついこの表現をつかってしまうのは、一種のクセなのです。
よく会話の中に「部分」を使う人がいます。
これと同じです。
なんでも「~の部分」をつけるとそれらしい発言に聞こえたりします。
しかしこれもNGですね。
どうしても「こと」「もの」を使いたい時はより具体的にいえば、何をさしているのかということを考えてください。
するとそれまでの曖昧な表現を別の言葉で言い換えようという動機になります。
簡単なようですが、実はやってみると、結構厄介です。
いつも代名詞で済ませる会話と違って、書き言葉は結果が残ります。
すると今の表現は何を言おうとしたものかという問いを投げかけられるのです。
特に小論文においては、その連続だと思ってください。
自分ではわかったつもりで書いていても、読んでいる人に伝わらないということがよくあります。
言葉というものの持っている厳しい側面です。
十分に認識を深めてください。
格差と学力
今回は格差の問題と学力をテーマにあげて、代名詞との関係をみていきます。
このテーマは数字的なデータと親和性が高いので、よくグラフと一緒になって出題されることが多いです。
特によく出るのは子育ての環境と年収との関係です。
あたたかな家庭の実質が親の年収によって大きくかわり、その差が新たな格差を生むというテーマです。
また父親や母親の学歴と子供の学力の関係。
親の社会経済的な階層と学力の関係などもよく出題されます。
非常に厳しい内容であり、特に教育関係の学部や福祉関係の学部によく出題されているようです。
次のような要旨の文章がグラフと一緒に出題され、それについて考えたことを書け
という問題があったとしましょう。
2 教育の問題について相談したい時、近くに相談相手がいない。
3 子育てについて支援してくれる人もいない。
4 休日もゆっくり子供と過ごせない状況である。
5 勉強面で質問したくても、子供は置き去りにされがちである。
6 親は生活するだけで精一杯で、子供のことにまで手が回らない。
小論文の一部(例)
この問題をどう解決に導くのかということは大変重要である。
少し前までなら、近所の人が助けてくれるということもあった。
しかし今の子供たちにはその援助の手が届かない。
問題の根は怖ろしく深いのである。
低所得者の世帯に子育ての問題が集中している現状は疑いの余地がない。
この文章で1番気になるのはどこでしょうか。
やはり指示語ですね。
「こうした子育ての環境」「この問題」の2つは特に気になります。
さらにいえば「少し前」「今の子供たち」も視界に入ります。
「こうした子育ての環境」という表現はより具体的に書けないでしょうか。
さらにいえば「この問題」です。
この問題ではよくわかりません。
子育ての環境と親の年収の問題と言い換えた方がいいでしょう。
小論文は課題文を読まなくても意味が通るように書くというのが鉄則です。
このことは絶対に忘れないでください。
それだけで文章として自立していなければいけないのです。
文章は書いてあるものの、何を論じているのかよくわからないというのが1番まずいですね。
もう1つ。
「少し前」というのはいったいいつのことなのか。
具体的なイメージを書くこと。
さらに「今の子供たち」というだけではどこまでの子供を射程に捉えればいいのかわかりません。
このように曖昧な表現にぶら下がっていると、説得力のある文章にはならないのです。
「~化」「~的」に注意
大変便利な言葉に「~化」「~的」があります。
この表現を使うと、なんとなく小論文らしくなるから不思議です。
しかしきちんと内容が伝わっているのかどうか。
そこが1番問題なのです。
つい使ってしまった時に、別の表現で言い換えられるかどうかを考えてみてください。
言葉というのは、お互いが自分の世界の中に持っている辞書を照らし合わせていくための道具です。
それが全く違った土俵になってしまったのでは、何を論じていても通じ合うということがありません。
教育の場面でも「~化」「~的」あるいは「~性」といった表現が多用されます。
それだけに安易にこの波にのってはいけません。
必ずその表現がどのような実質を伴っているのかを検証してください。
そうしてから文を書くようにしましょう。
文を書く前にキーワードをいくつかあげるブレインストーミングの方法を以前にも紹介しました。
頭に浮かぶ言葉の中に「~化」「~的」「~性」とい表現がもし出てきたら、その段階では1度握りつぶしてください。
別のよりわかりやすい表現で言い直すと、さらに新しい風景が視界に入ってきます。
教育の問題を扱っていると、ここにあげたような表現が自ずとあがってきます。
これをただまき散らして文章を書き上げたと自己満足することがないように気をつけてほしいものです。
教育において大切なことは、学力が低い子供の点数が上がることだけではなく、自分の力で生きていく力をどうつけるのかという、より根本的な命題なのです。
その視点を忘れて、言葉の力に頼ってしまうと、とんでもない文章を書く結果になってしまいます。
小論文は答えのない難しい作業の連続です。
それだけに力を蓄えておけば、将来にわたって有効に機能することは間違いありません。
是非努力して、栄冠を勝ち取ってください。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
感謝申し上げます。